諍い2
両者のあまりの言葉に俺が羞恥に震えていると、清明側の反応に気分を良くした福島達一組の男子は次々に言いたい放題言っていた。
「なんだアンタら。まさかアイツ程度にビビってるのか?」
「全く情けない。僕なんかこの間、秦野にアンパン買いに行かせましたよ」
「俺は宿題を代わりにやらせてきたぜ!」
「俺はテレビの予約を代わりにさせた!」
俺も俺もと誰も彼もが、この俺、秦野琥珀をパシリにした武勇伝を並べる。あまりに豪快な嘘の連発に俺の頬は引きつりっぱなしだ。
そんな俺を見て、一番近くにいた女子がそっと慰めるように優しく頭を撫でてくれた。その哀れみが辛い。
「そんな……嘘だ。あの悪魔が……」
「ただのドッジボールで何人も保健室送りにしたあの鬼が……」
「歴代でも仲が良かった学年を、わずかな期間で反目しあう戦乱の学年に陥れた奴が……」
おい止めろ。俺の悪評を振りまくな。保健室に送ったのは偶然だし。反目させた記憶もない。
……ほら見ろ、さっきまで優しい笑顔で頭を撫でてくれていた女子が、裏切られたって感じの表情で俺を見ているじゃないか!
と言うかこう言う時こそ、クラスメイトの出番だろ! 嘘ばっか言ってないでフォローしろ!
しかしそんな俺の些細な願いは聞き届けられなかったらしい。クラスメイトである福島たちはドン引きした様子でこそこそ話す。
「……アイツよその学校で何してんの?」
「マジ悪魔」
「鬼かよ」
「清明から帰ってくるの早かった理由はコレか。友好って言葉知ってんのかな? 頭大丈夫?」
などと散々な事を言ってくれています。……許すまじ。
「……まぁ、なんだ。おそらく秦野の奴も絢爛では威張れないから、色々とはっちゃけてしまったんだろう。と、とにかく! 俺が言いたいのはこう言うことだ!」
福島はコホンと空気を変えるように、咳払いをするとキリッとした顔で言い放った。
「絢爛高校最高の男はこの俺だ!」
しかし、他人を一番に置かないことで定評のある一組の男子は黙っていない。
「ハハッ笑わせるな。最高の男は俺だ!」
「いや、俺だ!」
「フフフ、何を隠そうこの僕が最高との評価を貰っている!」
「……一体誰がトップなんだ?」
清明の子たちが次々と出てくる最高の男に困惑の顔を見せるが、そりゃそうなる。
周囲にいる女子たちは面白い出し物をみている雰囲気を出しているが、もう開場まで時間が無い。
仕方ないのでこの騒動を治めよう。
ギャーギャーと身内で争っている我がクラスの男たちに近づいて行く。そんな俺に清明の生徒たちは気がついたのか顔色を変える。
俺は手早く一番近くにいた男子の首に手を回しキュッと締め落とし、後ろにポイ捨てする。そこまで来てようやく一組の男子たちは俺の存在に気がついた。
「誰だ! この最高の男の邪魔をす……」
「全くだ! 邪ま……」
「手間をかけさ……」
俺を顔を見た一組の男たちは瞬時に争いを止めた。そして後ろにポイ捨てされ、クラスの女子に水をかけられ起こされている男子を見て、お互いに顔を見合せ頷きあった。
「やあ、秦野の遅かったな。もう準備万端だぞ。問題は何も無い」
「ああ、今は横で出店する清明男子高校の生徒たちと交流を深めていたところだ。もちろん問題なんて起こしていない」
「万事OKだ。問題は無い。無いので許して欲しい」
恐ろしい早さの手のひら返しに、清明の生徒たちはギョッとした表情でこちらを見る。
「ホウ……友好を、ねぇ」
「あ、ああ。何も問題は無い。問題は無いんだ」
「確か最高の男とかなんとか聞こえたけど?」
「もちろんお前のことだよ。男子王!」
汗をダラダラと流しながら弁明する福島たちに俺は冷たい目を向ける。
「ちなみに俺は生徒会長から問題が起こった場合、物理的な制裁を加えても良いと許可を頂いている」
「「「「!!!!!」」」」
「さて、先ずは誰から行くか……」
俺が思案するように一人一人の表情を見ていく。既に彼らの表情は絶望に染まっている。……おかしいな? いくらなんでもこれ程怖がられることはしていないはずなのに……。
「そろそろ時間だ、それぞれ与えられた位置につけ」
俺の印象について少し考えていると、静かだが威厳を感じさせる声が掛けられた。
「会長」
固唾を飲んで推移を見ていた清明の生徒たちが、自身の生徒会長に存在に安堵の息を吐いた。
「ん? 秦野君か今日はよろしく頼む。お互いに頑張ろう」
白銀生徒会長はそう言って手を差し出してきた。とてもスマートな挨拶だ。
「こちらの方こそよろしくお願いします。そちらの喫茶店、楽しみにしています」
「ああ、それではまた後で」
白銀会長はそう言って、清明の生徒たちを連れて戻って行った。
「さて……」
俺が福島たちへと再度顔を向けると、彼らはビクリと体を震わせた。
「白銀会長の言うとおりもう時間だ。だからこの騒動のケジメは仕事で見せて貰うから」
「も、もちろんだ!」
「僕の執事姿にみんなメロメロさ!」
「俺に任せておけ!」
「よろしいでは配置につくように」
この言葉を聞いた福島たちは、キビキビとした動きでそれぞれの配置へとついた。
……さて、俺は周囲にいる女子生徒たちの方へと体を向けると、執事を思わせる動きで頭を下げた。
「失礼しました。お嬢様方、後少しで開場となります。お時間がございましたら、お店に足を運んで頂けたらおもてなしをさせて頂きます。よろしくお願いいたします」
そう言い最後に笑顔を向けた。




