バーベキュー
バーベキューとはなんであろうか?
そう問われれば、多くの人は自分たちで焼いて食べるもの、と答えるだろう。確かに自分たちでワイワイと肉や魚を焼いて食べるのは楽しいだろう。だがしかし、それをするには必ず焼き係が必要となる。当然焼いている間は、ほとんど食べる事ができず、良い具合に焼けた肉などは早々と取られて無くなってしまう。
しかし、こと東華院家ではそんな心配はいらない。何故なら焼くのは東華院のメイド達だからだ。当然主人である東華院詩乃や、お客様たるご友人方には満足して貰うため、精魂込めて、良い具合に肉を焼いていく。
だが、鍛えられた東華院のメイドとはいえ、一人の人間である。眼前に広がる高校生達が、キャッキャッと騒いでいる様子を見ると、やはり思ってしまうのだ。
『リア充滅びてくれないかな』と。
そして今、高級牛肉を良い具合に焼いている詩乃付きのメイドである私、結も例外に漏れずその思考に支配されている。
少し前に、私は一足先に水着からメイド服へ着替えると、遊んでいるお客様達を尻目に黙々とバーベキューの準備をしていた。
その準備中に、否応なしに美少年と戯れるオオカミ達が目に入ってくるのだ。
スイカ割りで、美少年にぶつかって馬乗りになる南方院の令嬢。……あなた目隠しと回転ぐらいでふらついたり、方向感覚無くなりませんよね?
イルカの浮き輪に美少年と乗っただけではあきたらず、転倒した時に抱きついた、西華宮の令嬢。
……あなた自分でイルカのバランス崩してましたよね?
見事、日焼け止めを塗る権利を勝ち取った筋肉少女。散々、美少年の体を触って楽しかったでしょうか?
……あなたを見て、美少年はボソッと『割れている』って呟いてましたよ? 水着選び間違ったのではないでしょうか?
普通に海を楽しんでいる普通の少女。
……あなたを見ていると何故だかホッとしますよ三島さん。
そんな色々な思いを抱きつつ、主人とそのご友人たちの戯れる姿を見ていたが、自分の高校生時代と比べると、この圧倒的リア充感に泣きたくなってくる。
それは自分だけでは無く、他のメイドも同じようで、彼女たちも腐った魚の様な目をしてリア充たちを見ている。
しかし、彼女たちもプロである。お客様がこちらを意識している時は目に光が灯る。流石だ。
とは言うものの、リア充たちはリア充たちで必死なのだ。何せこの場だけでも多くの競争相手がいるのだから。
……ああっ! 巻き毛のお嬢様! 熱々の肉を無理矢理アーンしたら美少年が火傷してしまいますよ! ホラ、美少年がのたうちまわっています。
……それを見た小柄なお嬢様。フーフーして、体を密着させるのは良いかも知れませんが、申し訳ありませんが、肉付きが貧相過ぎて効果薄そうですね。残念!
……? おかしいですね。私の主である詩乃お嬢様の姿が見えません。辺りを見回して見ると、顎に指をあて何か考えながらこちらに歩いてくる姿が見えます。どうしたのでしょうか? 他のメイドに焼き場を任せて、お嬢様の側へと向かいます。
「お嬢様どうかなさいましたか?」
「あっ結……」
「何やらお悩みのようですが?」
「悩み……。うーん、そこまで深くはないんだけど……。まぁやるべきかやらないべきか考えていて……」
フム……別段、大きな悩みではなさそうだが、主の背中を押すのも従者の務め。不肖この結、お嬢様の力になれるよう知恵をだします。
「なるほど、それで何を考えていたのですか?」
「えっとね。雑誌に書いてあった男にモテる方法をするべきか、しないべきか、なんだけど……」
ちょっと方法が……と言いにくそうなお嬢様。
「要領を得ませんね。一体どのような方法なんですか?」
「……パンツにお金をはさむらしいんだけど」
「やめてください」
「えっ……でも絶対に男性は落ちるって書いてあっ――」
「やめてください」
「で――」
「やめてください」
私に止められてしょんぼりしているお嬢様だが、実行してたら確実にドン引きされていただろう。少なくとも彼はお金になびく人物ではないので効果は薄いと思われる。
しかし、このお嬢様な一体どのような本を読んでいるのか? 帰ったら部屋を徹底的に調べなくては……。
しかし、しょんぼりしている主に何のアドバイスをしないのは従者の名折れ。少し私から役に立つ言葉を送りましょう。
「お嬢様」
「なに?」
コテンと首を傾げるお嬢様。
「何も難しく考える必要はないのです。せっかくのバーベキューなのですから、焼けたお肉を持って行ってあげる。そんな事で良いんですよ。それだけで男性は喜びます」
私は安心させる様に微笑みながら、お嬢様に話しかける。
「……結、彼氏いたっけ?」
「………………」
いませんがなにか?




