日焼け止め
「さて……それじゃあこちらへ来て貰おうか琥珀君……」
「安心してください。何も取って食べようと言うのではありません。むしろこれは琥珀さんの為になることなのです。ですので心安らかに、私達に身を任せてください」
「うんうん、その通り痛いことなんて一切無いから。大丈夫、どちらかと言うと気持ちの良いことだから」
怪しい言葉で安心を謳う、少女二人。もし普通に異性を誘う言葉として聞いたなら、この二人が掛けてきた言葉は最低レベルである。しかし詩乃さんとみのりさんが浮かべる表情には一切の曇りがなく、むしろ晴れ晴れとした笑顔を浮かべている。
「ホラ、今日は良い天気でしょ。確かにこの太陽は泳いだりするには良いけれど。それがお肌にも良いとは限らないんだよ」
「そうですよ琥珀さん。今が若いからと言ってお肌のお手入れをしなかったら、紫外線の良い標的になるんですから。実際に年を取ってから、なんで肌のお手入れをしておかなかったんだ、と後悔している男性は多いとの話ですよ」
「そう。そこで我が東華院グループが開発したこの日焼け止めクリーム! 紫外線から肌を守るのに加えて、保湿にアンチエイジングの効果も認められる医薬品扱いの優れた一品! これで敏感な男性のお肌もきっちりと保護します!」
詩乃さんは自信満々で取り出した日焼け止めクリームを見せびらかす。
「実際あれを開発した会社の化粧品は超高級品で、富裕層向けのお値段です。効果も保証付です。……私の肌にも潤いが欲しい。高校生の肌が妬ましい!」
コソリと結びさんが教えてくれるが、最後の言葉には怨念が感じられとても怖い。
「なるほど……二人の言い分はわかった」
「でしょ。恥ずかしいのはわか――」
詩乃さんが言い切る前に俺はTシャツを脱ぎ、男性用の上下セットアップ用の上も同時に脱ぎ放つ。
「「えっ……?」」
さてと……脱いだは良いが、このまま、ただ何の恥ずかしげも感じさせず、塗って貰うのいかがな物か? やはりこう言ったイベントには恥ずかしげと言ったスパイスが必要ではなかろうか? ……まぁ豪快に脱ぎ放っておきながら、今更恥ずかしそうにするのはどうなんだと言う考えもあるが、それはそれこれはこれである。
「じゃ、じゃあお願いするね……」
俺は片腕で胸を隠し、視線を二人とは合わせずに戸惑った風を装いながら言ってみた。正直この発言の前に豪快に服を脱ぎ去った癖に、こんな初な感じを出している俺の計画性の無さにツッコミが入ったらどうしよう。
「ぶふっ!」
「ッッッッ!」
「DKの生エロ姿……か」
しかしそんなツッコミも入る事無く、好評のようだ。詩乃さんとみのりさんは口元を手で押さえてはいるが、その顔はにやけている。結さんはしみじみとした視線を俺に向けている。どこの世界に行ってもエロは偉大と言う事か。
……まぁ確かに前世でJKがトップレスで恥ずかしそうにしてたら、ちょっとばかりのツッコミ要素は無視するか? ……いや豪快に服を脱いでいたら、絶対にツッコむな。しかしいつまでもこのままではいられない。
「あ、あの俺はどこへ行けば……?」
モジモジと恥ずかしそうに聞いてみる。どうしよう今の俺はたから見たらすごくポイント高いのではなかろうか?
「あっ! ごめん! じゃあこっちに来て。えーと先ずは寝そべって貰おうかな」
「そ、そうですね。最初は背中からやって、次にお腹側を……」
「お、お腹側もやるの?」
多分やるんだろうな、と思いつつ恥ずかしそうに上目遣いで聞いてみる。
「もちろんだよ。別にいやらしい意味でやるんじゃないよ」
「はい。別にいやらしい意味ではありません。紫外線から肌を守るためには、他人の手で満遍なく塗るのが良いとされているのです」
グッと握りこぶしをつくり、熱弁を振るうみのりさんだが、どう考えてもお腹側は自分で濡れる。どれだけ欲望に忠実なんだ女子高生。
「そう……なのかな?」
「そうなの! だから私達は健全な精神を持って琥珀君の肌を守るために、最善の行動を尽くすから琥珀君は全て委ねて欲しいんだ!」
「す、すべて……?」
「そう、すべて!」
……どうしようこの女子高生、少しテンパり過ぎてはなかろうか? まぁいい、これも一夏の経験だろう。俺はコクリと首を縦に振った。
そしてマットの上に寝そべり、二人がクリームを塗るのに全てを任した。
「ゴクリ……先ずは私の体に塗って、それを……」
「詩乃ちゃん、少し落ち着いてください。それは詩乃ちゃんの妄想でのやり方ですよ」
「ハッ!!」
……本当に大丈夫だろうか?




