浜辺で
照りつける太陽、打ち寄せる波のさざめき。白い砂浜で無邪気に遊ぶ可愛い女の子たち。
「そーれ!」
そして、『ドゴン!』と聞こえてくる、およそやわらかいビーチボールが出すとは思えない鈍い音が繰り出されるビーチバレー。
「くうっ……!」
みのりさんのアタックは見事、南方院さんたちのコートへ突き刺さった。
「いえーい。みのりちゃんいえーい」
「いえーい」
そう言いながらハイタッチをかわす詩乃さんとみのりさん。決められた南方院さんは地面を叩き悔しがっている。
「くそっ! 次こそは」
「はい、まだ負けてはいません」
南方院さんと柚香さんのペアは追いすがってはいるものの、詩乃さん、みのりさんペアにジリジリと点を広げられていた。
……しかし
「何故あそこまで真剣に……?」
あれかな? 夏の太陽がそうさせるのかな? そんな俺の疑問が聞こえてたのか、その答えがすぐ近くから聞こえてきた。
「それはビーチボールの勝者が秦野様の日焼け止めを塗る権利を得るからです」
「……え?」
「日焼け止めです」
答えをくれたのは、詩乃さん付きのメイドである結さんだ。スリムな彼女は黒いビキニを来ており、モデルのようだ。そんな彼女は、先ほどまで三島さんとペアを組んでビーチバレーに参加しており、初戦で詩乃さんみのりさんペアに負けていた。ちなみに三島さんは今、審判をしている。
そんな彼女はなにやら納得したように頷くと、やさしく微笑みながら言ってきた。
「大丈夫ですよ。日焼け止めクリームは当家が責任を持って用意してますので」
「いや違う、俺が疑問を持ったのはそこじゃない」
結さんは「はて?」と首を傾げ不思議そうな顔をした。
「いやいや、良く考えてください。俺はこれでも身持ちが固い男なんです! それを友人だとはいえ、年頃の女性に肌を触らせるなんて!」
「……昨晩なんでも命令を聞くと言った方のセリフとは思えませんが」
それはそれ。これはこれだ。一日も立てば意見も変わる。だから今の時代、一秒でも早く情報を手に入れる事が重要なのだ。
「なるほど、秦野様のおっしゃりよう、まさに正鵠を射ております」
そうでしょうそうでしょう。と俺が頷いていると、続けて結さんは言葉を放つ。
「しかし、それでは秦野様の肌は誰が守るのでしょうか?」
……なんですと?
「僭越ながら申し上げます。本日は快晴で太陽の光も容赦なく照りつけております。それこそ老若男女分け隔てなく……秦野様にも平等に」
「……」
「秦野様……」
「はい……」
「秦野様のそのシミ一つない美しい肌は誰が守るのでしょうか?」
「それは、自分で……」
「残念ながらそれは不可能です。どうしても一人で塗ると塗りムラができますし、背中などは手が届きません。お嬢様たちは決してイヤらしい気持ちで戦っているのでは…………。まぁそこは置いておいて」
せめてそこは言い切ってやれよ。
「せっかくの美しいお肌なのですから。紫外線というお肌の敵、シミやシワ、肌の老化から守るお手伝いを私たちにさせてくださいませんか?」
なるほどなるほど。確かに俺の肌は守られてしかるべきものだ。スキンケアは十分にするべきだろう。でも……
「俺ってあんまり手入れしなくても肌とか髪とか状態良いんですよね」
そんな俺の言葉に結さんはフッと笑みを浮かべて声を返してくれた。
「そんなのは若いときだけです。ケアはヤバいと思った時にやるよりも、若いうちからやったほうがいいんです」
……なんだろう実体験からなのか、かなりプレッシャーを感じる。
「私だって色々とスキンケアは頑張っているんですよ。……でも仕事柄男性の方と知り合う機会が少ないので、成功に結びつくことはありませんが……。いやそりゃあ東華院の家には男性の方も多く訪れはしますけど。そこで見初められて結婚なんて……ハハッ、ドラマよりもあり得ない展開ってものですよ。いやいや、お仕事自体は気に入っているんです。お給料も福利厚生も良いですし。将来の国の重鎮になるであろう人物を支えるなんてやりがいありますし。……でもそうこうしているうちに三十代ですよ? 結婚適齢期過ぎてません? 大丈夫ですか? この間道を歩いていると、見知らぬ男性からババアって言われて、やけ酒飲んだんですけど、まだイケますよね?」
あっ、どうしよう。なんかヤバいスイッチ入ってる。
「ハハッ何を心配しているんですか? 結さんほどの女性なら全然大丈夫ですよ。現に結さんの水着姿に僕はドキドキしっぱなしですから」
ドキドキしているのは違う意味だけどな!
「は、秦野様……」
そんな俺の言葉が届いたのか、結さんは落ち着きを取り戻したようだ。その際に『略奪愛』とか聞こえた気がするが気にしないでおこう。




