一夜あけて
「さて皆様、今日の予定はしおりで確認しておりますかな?」
朝食の席で、詩乃さんがおかしな口調で話し始めた。ちなみに東華院家の朝食はエッグベネディクトにハッシュドポテト、そしてサラダとフルーツ。大変オシャレな朝食だ。
「「してまーす!」」
その声に朝っぱらだと言うのに八千草さんと舞澄さんが元気良く答える。詩乃さんはニコニコ顔の二人を見て、コクりと一つ頷くと続けて話し始める。
「二人はとっても良い子ですね。花丸をあげましょう。それに引き換え……」
詩乃さんは元気の良い二人から、目を外し、他の女の子へとその視線を向け、大きくため息をついた。
「まったく君たちは、琥珀君にエッチな事ができなかったからと言ってそんな元気のなさでどうするのかな? どうせベッドの中で、『あの時自分が当たりを引いていたら、今頃自分の横には琥珀君が……!』とか考えてて眠れなかったんでしょ? まったく……度しがたい諦めの悪さだと思うよ」
やれやれ、というような仕草を見せる詩乃さんに、他の女子が眠そうな目に怒りを灯し、詩乃さんを見つめた。そんな中、三島さんが納得した風にポツリと呟いた。
「そうよね、私はどうしてもあの時あの棒を……とか思っちゃうけど、詩乃ちゃんみたいに、気持ちを切り替えて秦野君と海で遊べる事を喜んだら良かったのね……」
その声を拾った詩乃さんは、我が意を至りと大きく頷いた。
「然り然り、済んだことは済んだこと。人はみんな時の流に身を任せているのだから、未来に目を向けなくちゃね!」
「かっこいー!」
「ヒューヒュー!」
得意気な詩乃さんに、八千草さんと舞澄さんは歓声を送る。それを聞き詩乃さんは、さらに満足そうな顔をする。
……しかし八千草さんと舞澄さんの演劇部コンビは、テンション高い。そう言えば着いた時も海に突撃して行ってたな。
「なるほど……」
口をナプキンで上品に拭いた柚香さんが静かに言った。俺は何がなるほどかわからず首を捻る。そして柚香さんに意味を聞く。
「何がなるほど?」
そんな俺の疑問に柚香さんは、柔らかく微笑みながら教えてくれた。
「どうやら詩乃は、琥珀さんの水着姿を大層楽しみにしていた。という事です。とんだムッツリ娘ですね。確かに私は詩乃が言うように夜更かししてしまいましたが、それは本を読みふけってしまったからですので、詩乃が言うことには当てはまらないんですけどね」
「ああ、私も大学のレポートを少しやっていたから、少し寝るのが遅くなったんだ。詩乃ちゃんが言うことに、私も当てはまらないね。……でも詩乃ちゃんはエッチな娘だなぁ」
「私は少し日課のストレッチを……詩乃ちゃんはエッチです」
柚香さんの発言に南方院さんとみのりさんが乗っかってきた。これで昨夜の王様ゲームに未練を残していたのは三島さんだけとなった。そしてさらに、詩乃さんがムッツリだと印象づけた。
「……やだなー。私は皆と海で遊べる事に喜んでただけだよー。柚香、昨日凄く悔しがっていたけど、本の内容なんて頭に入ったのかな?」
清々しい朝食の席がどんよりと濁って行く。ほらムッツリ疑惑を掛けられた詩乃さんよりも三島さんがショックを受けてる。だって自分からぶっちゃけてしまったのだから言い逃れのしようもない。
「えっと、それで海で遊ぶのがどうかしたの?」
俺が元の清々しい朝食に戻すために、質問する。
「うんうん。今日は海で遊ぶけど、実は色々と遊ぶものを用意してるんだよね」
「遊ぶもの……」
「ウォーターバイクとか浮き輪とか、サーフボードとか。シュノーケルとかも言ってくれたら用意するから、みんなに何がしたいか聞こうと思って」
……何故その事を聞こうとしただけで、あのような空気が生み出せるのか?
「あっ、美羽みんなでビーチバレーとかしたいです!」
「フフン、やはり海と言えばスイカ割りではありません?」
「あっ私、木刀の扱いに関しては少し自信がありますよ」
「……みのりはスイカ割り最後ね」
詩乃さんの言葉を聞いたみんなは口々に、遊び道具を言っていく。その中には何故かモリとか要求している娘とかいた。何でも海の幸を仕留めようとしているらしい。
夜のバーベキューに海の幸を追加する。と気合いを入れていた。どうか高級魚を仕留めて来て欲しい。
楽しそうに話をしている、詩乃さんは嬉しそうな顔を浮かべて、そんなみんなを見てる。




