クラスメイト(高校)
「おはようございます」
美しい響きの声が聞こえて来た。先ほどの挨拶に答えたものだ。
しかし、こちらの挨拶に答えたのは茶色の髪の子ではなく、隣にいる困った顔をして慰めていた少女だった。
こちらの少女も可愛い容姿をしている。たれ目がちの大きな目に、少しウェーブが付いた薄い桜色の長い髪。
何というか……、こちらの少女の第一印象は天使である。汚れがない清純な美少女である。
隣の少女の言葉に、まだ自分が挨拶を返していないことに気がついたのか、茶色の髪の少女も慌てて挨拶をしてくる。
「おはよう! 今日は良い天気だね!」
先ほどの頭を抱えて困っていた態度とは違い元気よく挨拶を返してくれる。
茶色の髪をした方の少女はお日様と言う印象を受ける。おそらく元気な子なのだと思う。
それだけに先ほどの様子が気になるが、あまり他人の事情に首を突っ込むのもなんなので止めておく。そもそも初対面の人に込み入った話などしたくないだろう。
そうだねと返事を返し、その二人から目を離して黒板を見ると、座席表が貼られていた。それで自分の席を確認しその席に向かう。
席に着くが始まるまで時間が大分とある。特にすることが無いので、この前の食事で、菊水さんからサイン入りの小説を貰ったので、それでも読むかと鞄へと手を伸ばした時に、先ほどの二人がこちらの席に近づいてきていた。
おや、親交を暖めるつもりかな、こちらとしてもそうすることに異存はないぞ。
二人は席に来ると声を掛けてくる。
「やあ、今良いかな?」
「お邪魔じゃ無いですか?」
そう二人が聞いてくる。
俺は伸ばした手を机の上に戻し返事をする。
「うん、良いけど」
了承の返事を返すと二人は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
茶色の髪の子は明るい笑顔で、桜色の髪の子は癒されそうな笑顔だ。
……くそう! かわいいじゃないか。
「先ずは自己紹介するね! 私は東華院 詩乃よろしく!」
「私は西華宮 柚香です。よろしくお願いします」
俺は二人から聞いた名前に驚いた。東華院も西華宮もこの国では知らない者がいないほどの名前だからだ。
この国アーヘンハイムは、議院内閣制の立憲君主制の国である。王家は君臨すれど統治せずで、前世で言えばイギリスみたいな感じの国である。当然、昔は貴族という者もいたがその多くは歴史が進むにつれ特権も無くなり衰退していった、今では爵位をもっているだけの庶民がほとんどである。
そして、その例外がこの東華院と西華宮の二つと、もう二つの家を加えた四大公爵家である。この四つの家は歴史の変遷の中で、うまく財を築き、多くのグループ会社を持つ巨大企業を作り出しているのである。
まさか、そんな名家の人と同じクラスで高校生活を送ることになるとは……、しかし、意外というか、案外つきあいやすそうな感じだな。
「あれ? どうかした?」
「ああ、いや二人の名前に驚いただけ」
「ああ、そうですね。でもあまり気にしないでください」
「いいの?」
「もちろんだよ、そんなこと気にしないで友達になって欲しい!」
「はい、私もおねがいします」
二人は笑顔でそう言った。
俺は二人の笑顔に美しさに戦きつつ、それなら普通に友達付き合いするかと決める。
「じゃあお願いするね。俺は秦野 琥珀です。よろしく」
「え~と、琥珀君って呼んで良いかな……、って駄目だよね!」
アハハと笑いながら東華院さんはそう言う。
「いや、別に良いけど……」
「いいの!」
「いいんですか!」
二人が思いの外食いついてくる。その食いつき具合に若干引きつつ、うなづく。
「じゃ、じゃあ琥珀君て呼ぶね!」
「私も琥珀君と呼ばせて貰いますね」
「うん、じゃあそういうことで」
「あっ、私のことは詩乃って呼んで!」
「私も柚香って呼んで下さい」
「わかった、東華院さんに、西華宮さん」
わ、わかってない! と二人はショックを受けた顔をする。
……しかし、グイグイ来るな、この二人。
「でも、やさしそうな男の子がクラスメイトで良かったです」
「ホントだね」
「二人は男と話とかするの?」
「私はほとんどした事ないかな、父とパーティとかで少し話したことがあるくらい……」
東華院さんは沈んだ顔でそう言う。
「私は弟がいるので、弟と話しますね」
「て言うか、私たちぐらいの年齢の男の子って、パーティとかにもあまり来ないし……」
「そうですね、ここら辺では、清明の生徒を良く見かけますが、見かけるだけで話す機会などはありませんし」
……お金持ちでもそんな感じなのか。なんというか婚活は大変そうだな。
まぁ、清明はボーイズラブが多いらしいし、全体的にこの世界の男は、同姓同士の恋愛に気持ちが向いているのかも知れないな。前世でも戦国時代とか男色が多かったらしいしな。
……業が深いな。超こわい。
その後、二人から名前で呼んで欲しいと懇願され、名前で呼ぶことになった。
二人と話していると時間が経っており、もうすぐ始業のチャイムが鳴る時間になっていた。
二人は、じゃあと手を振り自分の席に戻って行く。結局なにを困っていたのかわからなかったが、たいしたことじゃ無かったのかも知れない。
周りを見ると一つを除いて席が埋まっていた。委員長と三枝さんも既に席に着いており、目が合ったので手を振っておく。
すごい勢いで振り返された……。
空いている席を見て、最初の授業から遅刻かと思ったとき、ドアが勢いよく開いた。そして……
「オーホッホッホッホッホ!」
と高笑いしながら金髪、巻髪の女の子が入ってきた。
キャラが濃い……、俺は心のなかで呟いた。




