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シティライトセレナーデ 〜きかせて、夜を彩る音と色〜  作者: 透明スケ


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9/20

第9話 悪魔の誘い

 翌日、木曜日――。


「おはよー小夜(さよ)

「おはよー麻衣(まい)


 クラスメイトの麻衣が、当たり前のように私の前の人の席に座る。

 私はノートの上を走るシャーペンを止めて顔を上げながら言った。


「今日の昼までに歴史のノートの提出だけど麻衣は終わったの?」

「えー! 全然やってないよ! 明日までじゃなかったの!」


 麻衣はそう言ってすぐに自分の席に戻ってノートを開き始めた。

 今から始めて間に合うような量じゃないから大変だと思うのに。


 すると、麻衣が居なくなったのを見たからだろうか、同じクラスで吹奏楽部員の男子が突然、麻衣がさっきまでいた前の席に急に座ってきた。


「お前さ、昨日とか一昨日、駅でサックスやってなかった?」

「……何のこと? 知らないけど」

「この目で見たんだから間違いないだろ。それでさ、お前すっごく上達してたくない?」

「は……?」


 あっち行って、と言ってどかせたり、麻衣を呼んでどうにかしてもらったりすることもできた。

 正直そうしたかったけど、周りから変な風に見られているような気がしたから、上手く行動に移せなかった。


「お前さ、ちゃんと皆でやるなら吹奏楽部に戻って来いよ。サックス今ほぼ0人なんだよ。なんなら、そんなちっぽけなライブなんかよりさ、俺がキーボードやってデュオバンドするでも良いからさ」


 この、何も悪いと思っていなそうなニヤけた表情が心底気持ち悪かった。

 胸の奥で押し殺していた怒りが、一気に煮え立った。


「嫌です」


 何が「ちゃんと皆でやるなら」だよ。

 私を省いたのはお前達だろ。

 今更私に(すが)ってくるなよ。


 ……と、言いたくなったけれど、(こと)を大きくしたくなかったから、断りの一言で片付ける形になった。


 運が良いのか悪いのか、その時ちょうど桐也(とうや)君も教室に入ってきているところだった。

 一瞬でもイライラしているところを彼に見られたら、私の中の私が崩れてしまうと悟った。

 私は誤魔化すようにささっとノートとペンを掴んで、麻衣の座っている席の方へ行った。


 私はもう、自分の思うように演奏するんだ。

 誰かに奪われることのない、私だけの音にするために。



 あれから1、2時間が経つ頃にはもう、今朝の出来事はすっかり忘れていた。

 そんなことより隣に座る桐也君は、相変わらずクールに学校生活を送っている。

 早くも東京の学校に慣れたのだろう。


 彼の振る舞いに憧れを持つと同時に、少し寂しさもあった。

 多分、話しかけたら快く返事してくれるはずなんだけど、依然としてツンとしている感が否めない。

 悪く言えば、対話を拒否しているかのように受け止められて、気まずくて話しかけられなかった。


 昼休みになって、桐也君はさっさと教室を出てしまった。恐らくこの前と同じで他の男子に誘われているのだろう。


 すると何か、心の奥に虚無を感じるような気がした。

 結局私は夢だけを見て、現実では麻衣とチラチラ喋っているだけなのではないかと。


「上手く行ってる?」

「今聞くことじゃない。場所も状況も」

「そんなに……大変なのね」

「そ、そういう意味じゃなくて」

「ってことはじゃあ……!」

「どの道良い感じじゃないのは変わりないんだけどね」

「……そっか」


 麻衣は眉を八の字にしながら、気まずそうに笑った。

 自然と女子トイレの方へ2人の足が進む。


「もうちょっと柔らかく接してくれたらなぁ……」

「心の声漏れてるよ」

「うん……。多分言いたくて言ってるんだと思う」

「私に聞いて欲しくて……!?」


 うん。

 悪く言うならほぼ愚痴みたいになっている。

 実際、桐也君ともっと楽しく喋れたらなと思うばかりだ。


「まあまあ、ゆっくり行こうよ。あの子はまだここに来たばっかりだし、そんなにすぐ色が透けるとは思えないしさ」

「そうだよね。ありがとう麻衣」


 高望みかもしれない、と思いながらも少しは期待している自分がいることに気付いた。

 桐也君は私のことを何とも思っていないかもしれない。

 そもそも私は夜、公共の場で迷惑なことをしている女であるし。


 ネガティブ思考がどんどん自信を奪っていく。

 気持ちを入れ替えないと。


 今日の午後の授業は1回でも話せるだろうか。

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