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シティライトセレナーデ 〜きかせて、夜を彩る音と色〜  作者: 透明スケ


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第4話 音色

 翌日の木曜日。


「おはよう、小夜(さよ)さん」

「あっ、おはよ!」


 桐也(とうや)君がリュックを机に下ろしながら、席につく。


「今日の1時間目は数学に変わったんだよね?」

「うん!」


 クールな面も持ちながら、何気なく話してくれる彼に笑みがこぼれる。


 世界のどこかでこんな研究が進められているのではないだろうか。

 恋をしている間は、人は嫌なことを忘れられるということを。


 少し調子に乗った私は、彼ともっと話してみたくなり話題を探した。


「部活動、どこに入ろうかとか決めた?」

「今ね、ちょうど迷ってるところなんだ」

「おー、何部で迷ってるの?」


 私の中の桐也君のイメージは文化部だけれど、案外スポーツをやっていてもかっこいいなと勝手に思う。


「バドミントンとバスケ。外の部活はちょっと苦手だからこの2つだな。小夜さんって何部なの?」

「私? 私は吹奏楽部だよ」

「おおー、確かにイメージある」

「そう〜?」


 ……吹奏楽部"だった"よ。

 本当はこう言いたかった。だって今はもう退部して、ただの"帰宅部"なんだもの。

 彼の前では、好きだった吹奏楽部を辞めたなんて、恥ずかしくて言える訳がない。


 そんなことより、思った通り彼はスポーツもできる人だった。

 透き通った色白の肌から予想がつくほど、室内の運動部が似合っている。

 バドミントンでもバスケでも、プレイしている姿を想像するだけで自然と心がドキッと動いたような気がした。



「……じゃあ、隣の人と答えを確認してみてください」


「答えどうなった……?」

「あれ、僕と符号が逆だな。多分ここのマイナスを忘れてるんじゃない?」

「はっ、そこだ! ありがとう教えてくれて」

「どういたしまして」


 桐也君は、頭も良い。

 新潟から来たって言っていたけれど、元の中学校でも成績優秀だったのだろう。

 全く田舎者味を感じられない彼の立ち振る舞いは、私の好みにばっちり刺さっていた。


 いつの間にかじっと彼の顔を眺めてしまっていたことに気付く。

 ハッとする頃には遅く、彼が不思議そうに目を合わせてきて、途端に顔が熱くなる。

 反対側を向くことしか出来ない私は、恥ずかしくて死にそうになっていた。

 だが、反対側に座っていたのは宮田(みやた)杏輔(きょうすけ)だったために、目線を向ける場所を失った私は机に突っ伏すことしかできなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 今日もまた夜の街を、並びゆく街灯をくぐり抜けて進む。

 父と2人で、揺られる。


 この街に越して来てから、自然と考え事をすることが多くなった。

 車に揺られる時間が増えたから、というのもあるが、都会の街中のノイズの多さに打ちのめされた結果読書の世界に逃げようとしているからなのかもしれない。


 ショッピングモールで新学期に必要な物を買い揃え、駅の近くの駐車場から家に向かって車が発進した時だった。


 リズム感のある、軽快な音。

 この音は――――サックスの音だ。


 車のCDで流れているものとは全く違う、生の演奏特有の鮮やかな音色が、すかさず僕の意識を引く。


「父さん、ごめん。降りる」

「は?」


 なぜ急にこんな行動を取ったのか、僕にもわからなかった。

 けれど、なぜか確信があった。

 あの音に招かれている気がしたからだ。

 僕は父の返答を聞かず、車のドアを開けて出た。


「おい。勝手なことをするな。置いて行くぞ」


 背後で怒りの混ざった声がしていたが、振り向かずに音のする方向に無心で進んで行った。


 恐らく、気になったのだ。

 新潟には無い、都会の色が。


 車の騒音、信号の電子音、通り行く人の声。

 騒がしいこの街ではあるが、僕の耳に入った音には何か違うものを感じた。


 字は意味をもって色を示すことはできるが、ストループ課題でもない限り、ほとんどの読み物の字には色がついていない。


 だが、音には色がある。

 それはただのモノトーンであるはずがない、奏者独自の色なのだ。


 駅の方へ目を凝らすと、駐車場から歩いて1分ほどのこじんまりとした広場で、女性がサックスを演奏しているのが見えた。


 身長が高くなく、随分若く見えるなと思っていたら、それは制服を着た女の子だった。

 それも、僕が最近出会ったばかりの制服――。そう、僕がつい先日転入した中学のものだ。


 身近な場所に知り合いが居ること自体あまり好きではなかったため、一瞬車に戻ろうとも考えたが、奏でられる音の前ではそうは行かなかった。


「ん……? あれ、安良さんか?」


 心の中でトクンという音がした気がする。

 まさか、こんな身近な人とこういった形で出会うとは思ってもいなかったからだ。


 彼女の演奏は、何かを伝えようとしているような熱を感じた。

 それは言うまでもなく、僕の胸をジンと温めた。


 聞き入ってしまっているところで、ハッとした。

 もう父は待ってくれていないはずだ。早足で帰らないと、いろいろまずい。

 それに、安良さんに僕が居ることがバレたら、教室に居る時みたいに世間話が始まるかもしれない。

 はたまた彼女の友達が聴きに来ていたり部活仲間が居たりして、見つかれば色々面倒なことになる。


 もう少し聴いていたい気持ちを残しながらも踵を返し、家までの夜道を早足で歩いた。

 心做しか、夜道にあの音が反響しているような気がした。きっと、頭の中で響いている音が出できてしまっているのだろう。


 家に帰ると案の定、どこに居たのだと母に心配されたが、相変わらず父は無関心だった。


 家に帰ってからも、依然として音は頭の中で反響していた。

 その引き込むような音色に、魅了されているのだと改めて気付く。

 CDのサックスと違って生の演奏だからとはいえ、意識を引き抜くような不思議な感覚は、僕の身体の中に残り続けていた。

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― 新着の感想 ―
なんだか青春な感じですね! 転校生くんは何やら家庭事情を抱えてる感じでしょうか。 三人の関係がどんな風に進んでいくのでしょう。 続きを楽しみにしています。
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