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シティライトセレナーデ 〜きかせて、夜を彩る音と色〜  作者: 透明スケ


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18/20

第18話 響く

 それは、中秋と言うのに相応(ふさわ)しい、綺麗な月の出た夜だった。


「来てくれたのね」

「そりゃあ、呼ばれて来ないことはないよ」


 秋が始まったばかりのこの時期に似つかわしくない、ジリジリとした暑さがまた戻ってきたようだ。

 いつもの公園の茂みからは、相変わらず個性を持った虫の声が響いていた。


「今日も良かったよ。心に響いた」

「本当? 良かった嬉しい。ありがとう」


 昼休みに、自分がわざわざ杏輔(きょうすけ)を招く理由は分からなかった。

 多分、転校生のことで悩んで心が落ち着かなくなったから、何となく誰かに聞いて欲しくなったんだ。

 それが一番、しっくりくる答えだった。

 


 杏輔ならきっと、私にポジティブな言葉をかけてくれる。

 そう信じて、半ば助けを求めるように声をかけた。

 恐らく誰かに認めてもらいたかっただけなのかもしれないけれど、今の私にはそれが何よりも救いになった。


「お願いした上で聞いて悪いんだけど、どうして来てくれたの」

「もちろんいつもと同じ、小夜(さよ)の演奏が聴きたくなったからだよ」


 こういう答えが返ってくると分かっていたからこそ、素直に嬉しかった。

 そんなことまで考えていたので、私はずるい人間みたいだ、と自嘲した。


「ふふ、嬉しいな」

「何だよ、急に改まって」


 ただの微笑(ほほえ)みかもしれない。

 こうやって嬉しくて笑えたのはいつぶりだろうか。

 彼と話していると何だか、自然に笑えている自分に気付けるような気がする。


「いやーホント、毎日のように演奏してて、疲れたりしないのかって思うよ」

「好きなことをするのに体力は使わないよ。音楽はむしろ、勉強とかで疲れた時の休憩みたいな」

「ははっ確かに。俺も、自転車でバーっと家に帰った後は、何だかんだ清々しくて疲れないな」


 笑顔で淡々と話す杏輔の顔を見て、ふと頭に彼の姿が映り、疑問が湧いた。


――杏輔は私の事をどう思っているのだろう?――


 足元の土をじっと見つめる彼を横目に見て、切ない気持ちに包まれた素朴な疑問が浮かんでいた。



「昼休み、助けてに来てくれてありがとね」

「あぁ、あれはたまたま教室に帰っただけだけど、結果的に助けられたなら、良かった」

「……たまにね、怖くなるの。吹奏楽部のメンバーからまたいじめられるんじゃないか、また恨まれるんじゃないか、って」

「昼のアレはもういじめだよ。あんな集団で詰められたら怖いに決まってる。相談できる先生は居ない感じなの? 顧問とか」

「顧問ともあんまりいい感じじゃないって話したでしょ? そもそもあいつらは顧問と結託して私を吹奏楽部に戻そうとしてるのよ」

「そりゃ戻りたくないに決まってるよな……トラウマだし」

「うん。思い出したくもない。けれど、今日みたいなことがあると……」


 目の前の視界が揺れ始める。

 夢か現実か分からなくなる。

 さっきまで心安らかに聴いていた虫の音が、不協和音となって脳内に響く。


「確かに、一度トラウマを植え付けられると、抜け出すのは難しいってよく聞くしな」

「私ね……」


"ネガティブ思考が良くないのかな――――"


 自分の中ではそう言おうと口を動かしているはずだった。

 けれど、頭の中の解読不能なノイズに()き消されて、その言葉は力なく散った。


 最悪だ。

 杏輔に相談しようと思ってたことを、まさかその場で発症させるとは。


 やめろやめろやめろ――――

 お前なんか、吹奏楽部にいらない――――


 またしても、彼女らの顔が浮かび上がってくる。

 嫌な記憶が黒い塊となって私をあちこちぶつけてくる。


「アンタさ、周りが見えてないの? 迷惑かけてるんだよ?」

「空気読めないってホントこういう人の事だよね」

「音楽が好き好きってさ、そんなに好きなら音楽だけと一緒に生きて、音楽だけと一緒に死ねよって感じ」


 背後から、ひたすら「やめろ」と叫ぶ声が聞こえてくる。

 それらの鋭いトゲがズキズキと、背中を容赦なく刺していく。

 刺さる度に身体が大きく震えて、脳が揺れて、声も出せなかった。


 うるさい……。


 本当に最悪だ。

 またあの嫌な記憶が頭をよぎり、胸の奥がぎゅっと締め付けられて何も考えられなくなる。

 視界をごちゃごちゃにかき混ぜたかのような、黒と紫色の暗い世界が眼前に映り、吐き気がした。

 あまりのしんどさに息が詰まり、目を閉じる。

 膝へぽろぽろと落ちる涙の温かさだけが分かった。



「小夜……?」


 名前を呼ばれた気がしておそるおそる目を開けたら、目の前には、片膝を着いて心配そうに見つめる杏輔の姿だけがあった。

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