LXXIX.お墓参り
「ルネティア、何処いくんだ」
外出の準備をしていたルネティアに、アダは問うた。
「お墓参りのために、花を」
ルネティアはアダと目を合わせずに言った。
一人にさせてくれ、と言ったトイフェルの手前残ることもできず二人は医務室を出たのだ。
アダは少しだけ迷ってから言う。
「……俺も行く」
◇◆◇
「……アレクシア」
会話の許可を与え、ルネティアはアレクシアを出した。
『ルネ……その様子だと、知ったみたいだね、あの人の秘密』
「……っ、知っていたの」
『魔石獣は魔石のときから、主とその周辺のことは全部知ってるよ』
アダの目から、ルネティアの掌が強く握られているのが見えた。
ルネティアはトイフェルから話してもらえなかった挙句、自身の魔石獣にも騙されていたのだ。
「……アダ様、歩いて向かいましょう」
『えっ、ル──』
「……」
ルネティアはそう言って、アレクシアを消してしまった。
アダも騙されていた側だ。ここでアレクシアの味方をすることはできない。
いつもよりゆったりした歩みで、アダとルネティアは花畑へと向かった。
(着いたー)
数刻ほど歩き、二人は花畑に到着した。
無言で花を摘み始めるルネティアにアダは問う。
「なぁ、ルネティア。光明の──いや、アンジェリーネ様は何色が好きなんだ?」
「……そう、ですね。橙、でしょうか」
「わかった」
アダも橙を基調に花を摘んでいく。
摘んだ花をルネティアが花魔法でまとめ、二人は屋敷の近くにある墓場へと戻った。
墓地に到着した。トイフェルが魔術具を置いたと言っていた場所には、確かに魔術具がある。
アダも何度かここには来ていた。
(よく、今まで気が付かなかったよな……)
幻術の魔術具なので、当然ではあるのだが。
それを壊せば、アンジェリーネの墓を認識できるようになった。
【〈光明の英雄〉アンジェリーネ・ヴェヒター】
アダの耳にも目にも「アンジェリーネ・ロード・ヴェヒター」が慣れているのだが、彼女が亡くなったのは公式的にヴェヒター家当主になる前だ。
「アンネ様……っ」
アンジェリーネの墓の前で、ルネティアは膝から崩れ落ちた。
「……私っ、はなんできづけなかった、んでしょう、か?」
「……」
アダは、その質問に答えることはできない。ルネティアも、アダに答えを求めているわけではないだろう。
だが、ルネティアは一度疑っていた。
――貴女は、誰?
と。だが、そう思うのはアンジェリーネに対して失礼だし、そんなはずがないとルネティアは自身を納得させた。
仕方がない、なんて言うのはルネティアに対して失礼だ。だから、アダは口を閉ざす。
「両親もいなくなって、『ルネ』と呼んでくださるのはアンネ様だけだったのに……」
十になるかならないかくらいの少女を、愛称で呼んでくれる者は、悲劇戦以降はいなかった。
成人して、アレクシアが呼ぶ。〈魔王〉戦に向けて、仲間が呼ぶようになる。
――だが、その者たちは友達ではないのだ。
「……」
アダは、迷った。
自分がそんなことを言ってもいいのか。烏滸がましいのではないか。
だが、アダは口を開いた。
「……ルネ」
ぴくり、とルネティアの肩が跳ねる。そして、ゆっくり振り向いてアダを見た。
「俺、はルネと、友達じゃない。師匠、とかそっちの方が関係には近い、と思う」
「……」
「でも……一番、大切に想っている、つもりだ」
ルネティアは目を見開いたあと、小さく笑った。
「つもり、なのですか?」
「うっせ」
アダがそっぽ向くと、ルネティアはまたクスリと笑う。
「アダ」
「……っ、なん、だよ」
「呼んでみただけです。慣れませんから、やはりアダ様の方がいいですね」
「好きに呼べばいいんじゃね」
アダの照れ隠しに、またルネティアは笑った。
それから、二人は胸の前で手を握って、黙祷をした。
「……戻ろっか」
「はい、アダ様」
「私も、アダ様のこと、大切に思っていますよ」




