LXXI. 後始末と孤影
(終わった。やっと)
長い二日間だった。
だが、これで終わりではない。
後始末を。まずは、怪我人の治療を行わなければ。
アダは、辺りを見回した。
──ベアトリスが、倒れている。
「ベアトリス!」
アダはベアトリスの元に走る。何とか動けているルネティアもやって来た。
「ベティー様は、大規模攻撃の後、全員に〈聖女〉の癒しをかけています。……まだ脈はあるので、すぐに治療させましょう」
(……すげぇことしてんな、ベアトリス)
脈を確認したルネティアはアダを見上げてそう言う。
「……ルネティア、お前もだぞ。ベアトリスは特に緊急だけど、他のみんなも」
「分かっています。魔石獣を持っている方は自力で、ベティー様は私が、リアン様はスチュー様に乗せていただきます。……アダ様は、アンジェリーネ様を探していただけますか」
「〈光明の英雄〉様?」
ルネティアの言葉に、アダは首を傾げた。
「えぇ、何処かに飛ばされてしまったようで……。お願いできますか」
「分かった。ルネティアたちは早く行けよ」
アダの言葉に、ルネティアは眉を下げて頷いた。
ルネティアたちを見送り、アダは〈光明の英雄〉を探す。
探知魔法を使えば、動いていない人間を見ることができた。多分それだろう。
アダはそこに走って向かう。
そこにいたのは、〈光明の英雄〉アンジェリーネ・ロード・ヴェヒターではなかった。
「お前……どうして、ここに?」
アダの言葉に、そこにいる男は答えない。
漆黒に染まった黒髪、いつものオパール瞳は瞼によって隠されている。
「……っ、トイフェル……っ!」
アダは大声を出したが、それでも起きる気配はなかった。
倒れているトイフェルは格好がおかしい。
いつも黒か灰色など暗い色の服を着ているのに、淡い黄色の服を着ている。
それに、〈光明の英雄〉が着ていた服と同じなのだ。
体格はあまり変わらないのか、そこまでキツイようには見えない。違和感はあるが。
(……とりあえず、運ぶか)
どうして、来なかったのか。
今まで、何処にいたのか。
聞きたいことは山ほどあったが、アダはトイフェルを担ぐ。
トイフェルは高身長だがかなり細身なので、それほど苦労はしなかった。
「……っ、アダ様! と、トイフェル様も……?」
トイフェルを担いできたアダを出迎えたのはルネティアだった。
「ルネティア……休んどけって言ったよな……?」
「私はそこまで重症ではないので、大丈夫です。……それより、何故トイフェル様が……。アンジェリーネ様は」
「いなかった。一旦休ませてから、話聞くぞ。まあまあコイツも重症だ」
アダの言葉に、ルネティアは頷いた。
ついでに、アダはルネティアも休ませておいた。
◇◆◇
「ホルツヴァード様もご無事です。……本当に、皆様が生き残ったのは奇跡ですね」
「良かったです。ありがとう存じます」
医官に全員を診てもらい、全員命に別状がないことをアダは聞き届けるのだ。
一応全員生き残ってはいるが、何らかの問題がないか診察してもらっているのである。
(……良かった)
意識のあるフェリシアン、スチュアート。そして、まだ眠っているシモン、ベアトリスと続き、次は仕事をしないように押し込めているルネティアだ。
「失礼いたします、ロデス様」
アダが扉を開け、医官にも入ってもらう。
ルネティアは自室で、パタパタと掃除をしていた。
「……おい、ルネティア、何回言われれば気が済むんだよ」
「だから、私は元気だって言っているじゃないですか。アダ様だって安静にしていないのに」
「俺は箱庭に入れられて飛ばされただけだからほぼ無傷なんだよ。オティラさんがいなかったら死んでただろうけど」
「……エックハルト様ですか」
飛ばされて、アダは着地時にミスをした。それをフォローしてくれた第一師団師団長エックハルト・オティラがいなければ、アダは落下死していただろう。
(また、改めてお礼しないとな)
「……とりあえず、診察を始めても?」
医官の声掛けで、ルネティアの診察は始まった。
「ロデス様も問題ありません」
医官は立ち上がる。
「次が最後でしょうか? ヴェヒター様」
「えぇ。トイフェル・ヴェヒターです」
「……! アダ様、私も行きます」
「ルネティア」
ルネティアの言葉に、アダは彼女を睨む。
しばらく沈黙の睨み合いが続いたが、最終的にアダが折れた。
聞きたいことがあるのは、アダも同じだ。
(〈光明の英雄〉様のことも)
「トイフェル様、失礼いたします」
医官とルネティアと共に、トイフェルの部屋に入る。
トイフェルはベッドの上で起き上がっていて、窓の外をじっと見つめていた。
ほぼ無言のまま、診察は進んでいき、医官も問題ない、と簡潔に話す。
「トイフェル、後で話がある。体調は大丈夫か?」
「……あぁ、どうせお前たちは見逃す気はないのだろう」
アダはそれに何も言わなかった。
ルネティアと共に、医官を玄関まで見送り、そのままトイフェルの部屋に直行する。
「話、してもらおうか」
「……そう、だな」
ベッドの隣に座ったアダとルネティアのことは見ず、トイフェルは口を開いた。
「長くなるだろうが、話そう。俺と、今のアンネについて」




