LXVIII.結界と〈魔王〉 フェリシアン視点
(行ってしまった……)
再び、蹴り飛ばされてしまった〈光明の英雄〉。彼女の安否を確認したいが、アダは不在。シモンとフェリシアンの片方だけで、〈魔王〉と対峙するのは危ない。
(生きてる、とは願いたいけど)
自分が離れたときに、相手が殺されていたらそれこそ死にたくなる。
(なんか、そろそろ殺すって決意してたっぽいし……)
手を掲げた〈魔王〉は冷気を集め、氷を飛ばす。
高速で、しかもかなり鋭い。
(全力で……とは言わないけど、表情を観察するのはやめたみたいだな)
とは言っても、氷の攻撃はスチュアートの訓練で慣れているのだ。弱点も把握され、それを的確に狙ってくるスチュアートの方が恐ろしい。
昼――もうすぐ正午。交代の時間だ。
だが、ここまで何もできていない。
ルネティアは交代の際、〈魔王〉の角を折っている。魔族の弱点は角と目だ。その二つだけは攻撃されても再生しない。また、力も弱まるとされているため、強い魔族ほどその二つを先に攻撃するべきだとされている。
近距離でシモンが槍を、遠距離でフェリシアンが弓を引く。
〈魔王〉は無表情でそれらを避けていくだけで、攻撃をしてこない。しかも、何も話さないのだ。
(さっきまで、ウザったらしいくらいに聞いてきてたのに)
「ハァ……疲れたわね」
気だるげな顔をした〈魔王〉は手を掲げて――止まった。
「な……え、は?」
シモンはかなり戸惑った声を上げる。
フェリシアンとしても、気持ちは同じではあったが。
二人は一旦目を合わせ、シモンがゆっくり近づいていく。
「……おりゃぁっ!」
シモンが槍を勢いよく振り下ろした。
キィィィンッッ!!
弾かれた。
〈魔王〉に触れた部分から、波紋が広がるように何かが広がっていく。
ジッとシモンは注意しつつ、〈魔王〉の身体を見つめた。
「……結界だ。身体に添わせるみたいに、結界を張ってる」
「結界!? 防御魔法じゃなく?」
フェリシアンは驚くが、シモンは神妙に頷く。
結界は、大規模な防御魔法のようなものだ。厚さがあり、広範囲を守ることができるが、細かい制御には向かない上に魔力をかなり食う。
それを、身体の隅から隅まで結界を添わせているのだ。
〈魔王〉の規格外さが分かるものである。
壊せるか?
――否、結界は緻密な魔素配列だ。それが凝縮されているのだから、より強靭になっているはずである。フェリシアンとシモンだけの攻撃では難しいだろう。
(それこそ、全員が集合してまた一斉攻撃するくらいしかないな……)
だが、交代直前まで〈魔王〉がこのままなのだろうか。
(それは、あまり考えにくい)
「兄上」
フェリシアンは金の瞳で、シモンを見つめた。
「……あぁ、分かっている」
同じことを考えていたらしいシモンは、笑った。そして、杖を高く掲げる。
じんわりと兄の存在に感謝しつつ、フェリシアンはシモンを見た。すると、シモンの杖の先から魔力が打ち出される。
真面目な三人のことだ、もう起きてはいるだろう。
(それまでっ、削れるだけ削る!)
「ゲルティン!」
「ダーカニール!」
フェリシアンが岩石を、シモンが深淵をぶつけた。
それを、何度繰り返しただろうか。
「ルネティア、ベアトリス、スチュアート、到着いたしました!」
ルネティアの声だった。
(はっっや)
先程シモンが魔力を打ち上げてから、まだ十分も経っていない。
フェリシアンは驚きつつも、攻撃の手は止めなかった。
「状況を!」
「リーネ、及びアダは戦線離脱。二人共〈魔王〉に飛ばされてる!」
「〈魔王〉が身体に結界を張っており、何故か動かない。二人では壊せないので、全員攻撃をする。しかし、いつ〈魔王〉が動き出すか分からないので注意を!」
『了解!』
シモンとフェリシアンの説明に、三人は頷く。そして、〈魔王〉を囲むように全員が並んだ。
ルネティアが風の刃と鋭い草木を。
フェリシアンが波と岩石を。
ベアトリスが光を。
シモンが深き闇を。
スチュアートが電撃と冷たい氷を。
──それは〈魔王〉に当たるはずだった。




