LXVII.真実を知る〈魔王〉 〈光明の英雄〉視点
(くそ)
〈光明の英雄〉は不機嫌さを隠しもせず、舌打ちをした。
ボロボロに見える〈魔王〉だが、話している時点で致命傷にすら至っていないのだろう。
(……殺すつもりでやったんだけどな)
「アダを何処にやった!?」
フェリシアンは叫ぶ。
ルネティアからの話が正しければ、〈魔王〉の帰還はアダの帰還をも意味するのだ。なのに、アダが見当たらない。
「嫌いになってしまいそうだから、遠くに飛ばしておいたの。あの子なら、普通に帰って来るでしょう?」
「飛ばすって……」
〈魔王〉の言っていることがよく分からないでいると、〈魔王〉は「アダちゃんのことより、さっきの魔法の話がしたいわ」と話を変えた。
「ねぇねぇ、とっても……とぉっても良い攻撃だったわ。あんな色を出す方法、是非聞かせてほしいの。二人は番だったりするのかしら?」
「シモンと夫婦は流石に嫌かも……」
「俺は年上派っす!」
「微妙な返答やめてっ!? ロレスディーア!」
ツッコミながら、〈光明の英雄〉は〈魔王〉に光魔法の光線を放つ。
「うふふ、面白いわね。じゃあ、やはりリーネちゃんから……っ!」
「ぁ……!」
また転移魔法のようなものを使った〈魔王〉は、光線を避けつつ〈光明の英雄〉を蹴り飛ばした。皇都とは反対の方向だ。
(簡単な魔法みたいに、転移魔法使うな……)
「リーネ様!」
そんなフェリシアンの声が聞こえた気がしたが、今は受け身を取ることを考えなければ。
遠くから、何かが高速でこちらを追っている。多分、〈魔王〉だろう。味方ではない。
〈光明の英雄〉は風魔法で受け身を取った。
「コンスエールっ!」
風を背中辺りで固めてクッション替わりにし、〈光明の英雄〉は何とか受け身を取る。
「ふふ、死ななかったようで何よりだわ。でも、あんまり痛くはなかったでしょう? ちゃあんと、結界で守ってあげるもの、ね?」
ニコニコと楽しそうに〈魔王〉はそう言う。
舐められているのだ。人間なんて、〈魔王〉の手にかかれば赤子の手をひねるほどに容易いことなのだから。
「アスクアリュード、ドゥルーエノ」
〈光明の英雄〉は大量の水を出した後に、電撃を使う。
だが、不規則な動き方をする電撃でさえ、〈魔王〉には簡単に避けられてしまった。
(あぁ……嫌だ)
今の〈英雄〉たちは、絶対に敵わない大人に子供が戦っているようなものだ。
だから、〈魔王〉は人間の表情が見たいというし、魔法を避けないこともある。わざと怒らせたり、傷つけたりする。
「いいわねぇ。リーネちゃん――本来の名は違うのだろうけれど……貴方、二人きりだと魔法をたくさん駆使してくれるでしょう? 誰か人間が一人でもいると、光魔法しか使ってくれないものねぇ」
図星だ。アンジェリーネ・ロード・ヴェヒターの正式な魔力属性は光のみ、と登録されている。だが、他の魔法も使える。だから、ルネティアやアダたちには見せないように光魔法しか使わない。
「黙れ」
「いいえ、黙らないわ」
一瞬、〈光明の英雄〉の声に、男の声が混じる。美しく伸びる金髪に、黒い筋が見え始める。
「あらあら、魔法が解けかけてるわよぉ。いいの? あとちょっとしたら、増援が来ちゃうわ」
荒くなった息を落ち着かせて〈光明の英雄〉は左手の薬指に嵌められた指輪を付け直し、魔力を込めておく。声も髪も戻った。
(〈魔王〉の言いなりになるのは癪だけど)
正直、そんなことは構っていられない。秘密は守らなければ。
「ゲルティン、ツィルーフリア」
岩石を飛ばし、鋭い草木を飛ばす。木々が掠ったものの、浅い傷だ。すぐに治ってしまった。
「ねぇ、どうしてあの子の真似をしているの? 貴方のお名前は? それくらい教えてくれてもいいでしょう? 真実を知ってから殺したいの」
「嫌に決まってるでしょ! カルス・レスツィメーアっ」
たくさんの矢がいろいろな属性になって飛んで行く。
避けるのが面倒になったのか〈魔王〉は剣を出して矢を捌いていく。
「魔法陣、展開」
矢が全て捌かれないうちに、〈光明の英雄〉は大規模魔法を行使する。
魔力を最小限に抑えるために、一般魔法の攻撃だ。属性魔法や形を再現する魔法ほど、余分に魔力を使ってしまう。
「あら」
〈魔王〉の上空に設置した魔法陣が発動すると、〈魔王〉に膨大な質量の光線が降り注ぐ。
「リーネ!」
「リーネ様っ」
丁度そのとき、シモンとフェリシアンも到着したようだ。
魔力がかなり減って来たので、腰に携帯していた回復薬を飲んでおく。
やがて、魔法陣が消え、〈魔王〉が現れた。先程シモンと〈光明の英雄〉とで行ったCの作戦よりかはダメージがありそうだが、まだふらつきもせずに立っている。
「はぁ……疲れてきたわね。そろそろ誰か殺そうかしら……絶望した顔も見たいし」
殺す、その言葉に〈英雄〉たちは背筋を伸ばす。
〈魔王〉の一挙一動を観察していた――
はずだった。
「リー――」
シモンは〈光明の英雄〉の名前を言うことができなかった。
「ぁがっ」
〈光明の英雄〉が血を、吹いた。
彼女の腹を強く殴った〈魔王〉は、そのまま彼女を蹴り飛ばしてしまう。
結界で守っていた攻撃とは、わけが違う。痛みが段違いなのだ。手加減されていたのだとよく分かる。
アダたちと同じくらいに見える少女だが、やはり〈魔王〉なのだ。
痛みで杖を離してしまった〈光明の英雄〉はそのまま、木に激突して倒れる。
「カハッ」
かなり離されてしまった。だが、〈魔王〉がこちらに来る気配はない。
――自分ではなく、フェリシアンやシモンが殺されてしまうのだろうか。
段々と、意識が朦朧とし出して、視界が不明瞭になってゆく。
「ころ、す、なら……お、れに、してく――」
(死ねば、あの子に会えるんだから……)
そうして、〈光明の英雄〉アンジェリーネ・ロード・ヴェヒターを名乗る男は意識を失った。




