LXIV.箱庭、再び
聖女の復讐の方のネタバレ含みます。申し訳ないです。
アダたちは〈魔王〉の元に到着する。奥にルネティア。近くにスチュアートとベアトリスがいる。〈魔王〉はルネティアの辺りだ。
(良かった……何とか無事だな)
多少の擦り傷や切り傷はあるものの、大きな外傷はない。
「全員到着! 交代準備!」
シモンが叫ぶ。
スチュアートとベアトリスは撤退準備を始め、手が離せないルネティアの代わりをとシモンは〈魔王〉の方に向かった。
「あらぁ、やっと来たのね。アダちゃんにリーネちゃん」
〈魔王〉はルネティアの攻撃を受け流しつつ、ふふと笑った。
そして、一度ルネティアから距離をとる。同時にシモンがそこに到着した。
「……うーん、そうね。そうしましょう」
何やら独り言を呟く〈魔王〉にシモンは槍を構える。ルネティアは撤退準備のため、睨みつつもゆっくりと後退していく。
「……うふ」
弧を描いた〈魔王〉の口元。
すると――
〈魔王〉はルネティアたちの背後にいた。
(はぁっ!?)
動きを凝視していたアダや〈光明の英雄〉にすら、見えなかった。転移しているかのような動きだった。
「っ……アダ様!!」
〈魔王〉は背後をとったルネティアやシモンではなく、アダたちの方に向かっていく。
「うふふっ、また招待してあげるわ。わたくしの箱庭に」
〈魔王〉が手を伸ばしたのは、アダだった。
「うぁあっ!」
〈魔王〉が動いてすぐに反応したルネティアの剣先が、〈魔王〉の角に当たる。
そして――
斬った。血に染まった赤い角が、落ちる。
だが、同時に〈魔王〉の白い腕が、数刻前に斬られたアダの腕に触れた。
何処かで、パァンと音がした気がした。
◇◆◇
「ようこそ、わたくしの箱庭へ。今回の戦では、二人目のお客様ね」
「……!? 何処だよ、ここ!」
「言ったでしょう? わたくしの箱庭よ。貴女とはじっくりお話がしたかったのよ」
〈魔王〉はクスクスと微笑む。
「前回はヤトールくんを入れたわね。ねぇ、今あの子は健在? とても誠実で良い子だったから気になっていたんだけれど、リーネちゃんのびっくり度が大きくて聞きそびれてたのよね~」
「……? 前回の戦いで生き残ったのは〈光明の英雄〉様だけだぞ」
「あら、それはおかしいわ。あの子、魔力を隠し持っていたから、封印のとどめを刺されちゃったけれど……ちゃんと見たわ。屋敷に戻っていくところ」
ルネティアから聞いた話では、生き残りは〈光明の英雄〉ただ一人だと聞いている。
だが、〈魔王〉は〈光明の英雄〉は既に死んでいて、〈英雄〉の治癒士だったというヤトールは生きている、と主張する。
(何が何だか、意味分かんねぇよ……)
「まぁいいわ。致死量の血が流れていたのは事実だものね。……うーん、アダちゃんのお顔、まだ見ていないものはあるかしら。アダちゃんは表情豊かだから、もういろいろ見てしまったのよね。そうね、少しお話でもしましょう」
「……」
「あぁ、そうだ。攻撃してくれもいいわよ。その間に話すから」
(……一対一。人間なんて一瞬で殺せてしまう〈魔王〉に俺一人で叶うわけがない。まず、ここが何処か分かんねぇ。〈魔王〉に刺激を与えてここから出らねぇ方が困る)
あまり刺激しないのが得策だと思ったアダは剣を握ったまま構えだけしておく。
「うんうん、良い判断だわ。好きよ、そういうの。……うーん、そうね。まずは五〇〇年前くらいの話でもしましょうか」
「……」
十三年前より以前に〈魔王〉が現れたのは、五〇〇年前だったそうだ。そのときの話だろうか。
「知ってる? 〈聖女〉クリスティーネって」
〈聖女〉クリスティーネ。五〇〇年前のレッフィルシュット皇国で、初めて確認された神にすら公認の〈聖女〉。別名〈光の女神の遣い〉。その頃から、各国に一部存在する聖女と〈聖女〉は区別されるようになった。
この世界でなら、誰もが歴史の授業で習う女性だ。
「〈聖女〉クリスティーネがそう呼ばれるほんの少し前に戦ったのよねぇ。面白そうだったし、ルティスレーディア様も協力しなさいって言うんだものね。でも、負けちゃった。首謀者が馬鹿すぎたのよ~。平民――しかも孤児が首謀者、だなんて。神様がついてるからって、調子に乗りすぎよね。相手は最高神がついてる〈聖女〉様だもの」
(……何が言いたいんだよ)
「人間って面白いねっていうただの世間話よ。いいわよね、神様は一〇〇〇年は人間を見ていられるんだもの」
「長生きしすぎるのも大変だと思うけど」
アダは何となくそう言った。長生きして何がしたいのか、アダにはよく分からないのだ。
「……まぁまぁ、良い考え方ね。でも、人間なんて特に、不老不死を願う生き物でしょう? 短命種だもの」
「そうかよっ……フォーマカードゥ」
剣から、アダは業火を〈魔王〉に放つ。ふわりと〈魔王〉は避けてしまった。
「嫌だわ……お話中に。気に入らなかった? 何か別のお話でもする?」
「……」
(話したいこと? そんなの、あるわけがない)
そう思ったところで、アダは止まる。
「〈魔王〉信教は、何なんだよ」
「……? 〈魔王〉信教? 創作物のお話かしら?」
「ハァ!? 実際の話だよっ、お前がつくったんだろ!?」
アダがそう怒鳴っても、〈魔王〉は不思議そうな顔をするだけ。
(なんでだよっ!? レミリアは〈魔王〉信教のせいで苦しんでたのに!)
「あぁ……もしかして、あの紫紺のローブを着ていた集団? よくいるのよね、〈魔王〉に心酔してしまう人間さん。結界の解除を手伝ってくれてたけれど、それくらいしか知らないわ」
「……お前のせいでっ、レミリアは苦しんだんだよっ!!」
激昂したアダは叫んだ。
すると、一気に〈魔王〉の顔が歪む。
「……わたくし、嫌いなのよね。誰かさんの責任を、わたくしのやっていないことを、わたくしに勝手に押し付ける誰かさん。基本的にいろんなことを尊重するけれど、それだけは大嫌いよ」
〈魔王〉は不機嫌そうに、手を叩いた。
〈聖女〉クリスティーネのお話が知りたい方は是非聖女の復讐も読んでください!




