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LXIII.アダの目覚めと

「ん、っ……」


暖かい。引き千切れかけていた腕に、暖かさが灯っていく。

アダはぼんやりとして半目で状況を確認しようとした。


ここは、何処なのだろうか。


目の前にいるのは誰なのだろうか。


黒くて長い髪が視界に入った。その者が、アダを治療してくれているのだろうか。



(……トイ、フェル?)


何故、トイフェルだと思ったのだろうか。トイフェルは今何処にいるかすら、分からないのに。トイフェルは、光の魔力など持っていないのに。


「ど、し……て。こ、こに……?」


アダがそう問うと、その者は少し間を開けて言った。


「あぁ、アダ? 起きたんだね、目は閉じていた方がいいよ。疲れているでしょう?」


〈光明の英雄〉の声だ。黒髪だと思ったのは金髪だったのかもしれない。


目を閉じていると、アダは再び睡魔に襲われ眠ってしまった。



◇◆◇



「……っ、だから、無理だって言ってるでしょう! 貴女があの怪我を治療したんでしょう!?」

「合理的な判断だよ。もちろん、アダが無理だと言うなら強制はしない。でも、君も人員がたりないのは分かってるはずだ」

「だからって! アダが無理してでも行こうとすることは、貴女も分かっていますよねっ?」


フェリシアンと、〈光明の英雄〉の声が聞こえて、アダはゆっくりと目を覚ました。


「……っ、ふぇり、しあん?」

「……アダっ」


アダの声に反応したフェリシアンは、アダに駆け寄った。


(コイツ、いつからこんな心配性になったんだよ……)


「怪我は? 腕、動く?」


フェリシアンの問いに、アダは左腕を動かしてみる。


「うん、大丈夫」


幸い、怪我をしたのは左腕だ。利き手ではないので、多少の違和感はあるが何とかなるだろう。



アダはテント隙間から、外を見つめた。真っ暗だった空には光が差し込んできている。


(もうすぐ、交代だな)


「戦況、何か変わりました?」

「いや、俺らは特に何も聞いてない」


近付いてきたシモンが答える。そして、〈光明の英雄〉がアダに問うた。


「それで、君はまだ戦いに出るの?」

「え、出ないわけにいかないですよね? 人足りないでしょう」

「いやぁ、君のお友達は反対してるみたいだよ?」


そう言って、〈光明の英雄〉はフェリシアンを見た。


「……お前、合理的な判断ができるヤツだっただろ……? どうしたんだよ」

「僕のせいで、君は怪我したんだよ」


フェリシアンの言葉に、アダは呆れて声も出なかった。


「おま……そんな性格だったか? やったのは〈魔王〉で、注意してなかったのは俺だ。


お前が気負うことじゃねぇよ。それに、俺は動けるんだから、動くべきなんだ」


フェリシアンはかなり迷っていたが、やがてため息をついて頷いた。


「死にそうになったら、逃げるんだよ」

「……うん」

「何、今の間」


フェリシアンの顔が怖くなったので、アダは目を逸らして「はいはい」と頷いておく。


「そだよ~? 死ぬくらいなら、逃げるべきだから。ね?」

「……一番、〈魔王〉を殺すことに執着してそうな貴女がそれを言うとは思いませんでした」

「えぇ? そう見えるー?」


フェリシアンと〈光明の英雄〉の間に火花が散り始めたところで、アダとシモンが二人を止めて、出陣の準備を始めた。



「さぁ、行くよ!」

『おう!』


〈光明の英雄〉の声掛けに、三人は頷いた。


日が昇り始め、闇に埋められた空を橙が染めてゆく時間。〈英雄〉も〈魔王〉も、武官も魔獣や魔族も、全てを平等に照らす。


(再出発だ……っ!)



「ヴォラーレル」


アダとフェリシアンは飛行魔法、〈光明の英雄〉とシモンは魔石獣を出し、〈魔王〉の元に向かう。


(……ルネティアも、ベアトリスも、スチュアートも、無事でいてくれよ)

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