LVIII.休憩の前に
「アダ! もうすぐ夜だよ」
「おぅ」
フェリシアンの言葉に、アダは攻撃を受けつつ空を見上げた。
(交代の時間だ)
もうすぐ、日が沈む。
(魔力の残りは……うん、大丈夫)
「シモン! 行けるか?」
「あぁ!」
シモンにも確認を取る。最初の交代では、アダ、〈光明の英雄〉、フェリシアン、シモンが休憩を取る。睡眠をとったり、魔力を回復させておくためだ。
ちなみに、〈魔王〉は一人一人の攻撃を受けるのが面倒くさくなったのか、超広範囲攻撃をしてくる。全属性の矢だ。だが、その一撃一撃にはそこまで魔力は込められていない。
(だからこそ、近づけなくて厄介なんだが)
近づこうと少し道を開けても、すぐに次の矢が飛んでくる。隙がないのだ。無理矢理近づくこともできるが、怪我をして治癒役──ベアトリスや〈光明の英雄〉の魔力を減らす自体になるのは避けたい。
日が、沈んだ。辺りが暗闇に包まれ始める。〈闇の神〉の力が強くなる時間だ。
(……前回の〈魔王〉は力が増したらしいけど)
〈光明の英雄〉が言っていたことだ。気をつけねばならないだろう。
「K!」
シモンが合図を声に出した。
だが、この状況では近づけやしない。
「フェリシアン!」
矢を全てアダとフェリシアンで片付けようと思ったのだが、説明をしている時間はない。
じっと見つめると、フェリシアンは何となくでも分かってくれたようで、アダと共に矢を捌き始めた。
「シモン、こっちだ!」
アダの声掛けに、シモンが飛行魔法でやって来る。手に持つ槍には一目見て分かるほど魔力が込められていた。
アダも攻撃の準備のため、少し離れたところに位置座標を設定し魔法陣を創り出した。魔法陣を創ってから魔法を放つには、魔力と時間が必要だ。それさえ突破できれば、強い攻撃魔法が出来上がる。
矢を捌きながらやるなど普通の人間ならばできない、天才の芸当ではあるのだが。
「あらあらぁ……流石に当たったら痛そうね」
やっとのことで矢を〈魔王〉の姿を目視する。〈魔王〉は冷たい鮮血色の瞳を向けた。
「兄上!」
「おぅ!」
シモンは大量に魔力の籠った槍を持ち、〈魔王〉に突撃する。
「うおおおおおっ!!」
キィンッと音が鳴った。シモンの槍と〈魔王〉の防御の魔法陣がぶつかったのだ。だが、シモンが体重を乗せると、防御の魔法陣を器用に抜けた闇の魔力が〈魔王〉の身体に張り付いた。
「あららぁ」
驚いたように身体に張り付いた黒い靄を見つめる〈魔王〉。
「シモン、戻れ!」
アダの言葉にシモンはサッと飛行魔法で避けていく。そのまま休憩の陣に行くようだ。
それを軽く見送って、アダは業火を出す魔法陣を〈魔王〉に向けた。〈魔王〉は張り付いた靄を取ろうとして失敗している。その間に、フェリシアンも攻撃の準備を始める。
「いっけえええっ!!」
〈魔王〉に燃え上がる炎が飛んでいく。
そして、火が消え、フェリシアンが両手剣に大量の魔力を込めて突っ込んだ。〈魔王〉防げなかったのかところどころ皮膚が焼けている。
「チッ」
〈魔王〉が初めて怒った。
それでも、フェリシアンは突っ込んでいく。
フェリシアンが大きく振りかぶるが、〈魔王〉は軽々しく避けてしまった。避けられてしまえば、こちらに成す術はない。フェリシアンは即座に退避し――
〈魔王〉がアダを見ていた。そして、すらりと長い爪を向ける。
ニィっと赤い唇が口角を上げた。
「……っ! アダっ!!」
フェリシアンが叫ぶ声が聞こえた。段々と、腕の辺りが熱くなっていく感覚。
立っていられなくて、地面に倒れた。
「……っ、アダ様っ!?」
(ルネティア、こんなに大きい声も出るんだな)
じわじわと痛く、熱くなっていく腕の感覚を感じながら、アダはぼんやりと思う。
ルネティアは激昂して、〈魔王〉の方に向かってしまった。
入れ替わりでフェリシアンがやって来る。
「アダ……アダっ! 腕が……!」
どっと疲労感が押し寄せた身体に鞭打って、左腕を見た。
「え……」
認識した瞬間、痛みが押し寄せた。
「~~~~ッッ!!!!」
大声を出してしまいたいのを堪えて、アダは唇を血が出るほどに噛んだ。
アダの左腕は、引き千切れる寸前まで斬撃が入れられていた。
腕の痛みと唇を噛んだ痛みで、アダのエメラルドの瞳には涙が浮かぶ。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……っ)
「うふふ、良いと思ったのよ。アダちゃん、人気者だものね。ルネティアちゃんともフェリシアンくんともシモンくんともベアトリスちゃんとも仲が良さそうだったわ」
「アダ様に話しかけるな!!」
ルネティアの怒った声が聞こえる。
(……ルネティアがこんなに怒るなんて珍しい)
「ふふ、やっぱりね。人間のいろいろな顔が見られて嬉しいわ。アダちゃんなら、いろ~んな人の良い顔が見れると思ったもの」
怒ったルネティアが、〈魔王〉をアダから離して二人の声は聞こえなくなった。
その後――
「シモン兄上! 兄上っ!!」
フェリシアンがシモンを呼ぶ声をぼんやりとだけ聞いて、アダの意識は途絶えた。




