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LVII.ベアトリス・ホルツヴァードは全力で守るのです

 わたくし──ベアトリス・ホルツヴァードはレミリアたちを送った後、リーネ様を追いかけた〈魔王〉を探していた。

 少し前には、同じく飛行魔法を使うアダとフェリシアンがいる。


(……速い)


 わたくしは目にかかった前髪を横に避けた。


 こういうとき、実力不足を痛感する。わたくしでは、二人の速度に追いつくことができない。魔力の問題ではないのだ。単純に、技術が足りないだけ。

 どう足掻いても、アダにもフェリシアンにも追いつけない。


 アダは元孤児ながら、〈英雄〉に選ばれて頑張ってるのに。


 レミリアは自分のやったことの後始末をするために頑張ったのに。


(わたくしは何ができたの? どうして、まだ何もしてないの?)


 わたくしは、一丁前にエルネスタに対して忠告しただけだ。友達(レミリア)を疑え、と。


(あぁ、本当に馬鹿みたいだわ)


 〈英雄〉側として、一番弱いのはわたくしだ。アダに出会う前のわたくしと同じではないか。アダに出会う前は、取り巻きとしてでも近くにいてくれた令嬢たちに安心していた。




 そうして、わたくしたちは〈魔王〉を見つけ、アダたちはその場に残った。わたくしはリーネ様と共に移動する。




 わたくしは〈魔王〉から離れた場所で、リーネ様と共に陣を作っていた。

 木の枝から布を垂らし、寝られるように準備をする。


 もうすぐ、冬──〈火の女神〉ヴァイアーサの季節だ。やはり、夜となるとかなり冷え込むので、簡易な布団の近くに魔術具を置いておく。

 ヒュゥーと風が吹き、被せていた布が揺れた。青に澄んでいた空は、柔らかい紫色に変わってくる。〈混ざりの時刻〉だ。


(……もうすぐ交代の時間ね)


 最初は、わたくしとリーネ様を除く五人が〈魔王〉の相手を。そして、完全に日が落ちきったら、フェリシアン、アダ、シモンさん、リーネ様が睡眠をとる。

 夜が明けたら、わたくし、ルネさん、スチューさんは休憩をとるのだ。


「ベアトリス、そっちはどう?」

「大丈夫です」


 布団を敷いて魔術具を置けば、休息の場所は完成だ。

 あとは、回復薬や食べ物を置いていく。リーネ様の魔石獣が屋敷から持ってきてくれた木箱を小さい結界の中に入れておいた。結界は魔獣や動物などに取られないようにするためだ。



 わたくしは回復薬を木箱から二本取り出し、リーネ様に手渡す。彼女は〈魔王〉と一対一で対戦しているのだ。時間は短かっただろうが、魔力は減っているだろう。


「ありがとう」


 リーネ様は礼を言って、回復薬を受け取った。すると、蓋を開けて回復薬を呷る。


「…………さっきは悪かったね」

「……何のお話ですか、リーネ様?」


 罪悪感を滲ませながら、リーネ様はわたくしを見た。改めて見るオパールの瞳はやはり神秘的である。


「〈魔王〉信徒の――ううん、レミリア嬢のこと……」

「……あれは、わたくしの判断です。事情を知らないリーネ様から見れば不審なのも分かっています。むしろ、任せていただけて嬉しく思っています」


 礼を言って頭を下げると、リーネ様は困ったように微笑んだ。


「ううん、いろいろ取り乱していたんだ。〈魔王〉には、いろいろな人が殺されているからね」


 そうだ。十三年前の悲劇ではほとんどの武官が生き残ったが、〈英雄〉は彼女を残して全員が死亡しているのだ。


「それは、当然です。……頑張りましょう、リーネ様」

「……うん。そうだね」




 頷いた後も、リーネ様はこちらをじっと見ている。


「……あの、何か?」

「大丈夫?」

「え」


 首を傾げたリーネ様に、わたくしは意味もない声を漏らすことしかできない。


「何のお話ですか……?」

「顔色、悪い」


 ぴと、と頬に手を当てるリーネ様。触れられている部分から、ひんやりとした体温が伝わってくる。太陽のような彼女は体温も熱いのかと思っていたが、意外だ。だが、今はその冷たさが熱い身体を冷やしてくれる。


(ほんの少し、弱音を吐くことを許してほしい)


「わたくしは、誰よりも……弱いから、不安なんです」

「……」

「みんな、強くて。貴族学院で最強なんて二つ名をつけられて調子に乗っていたのに。追いつきたい。待ってほしいけれど、待ってもらうのなんてできない」


 誰かが歩みを止めてしまったら、みんなが止まってしまう。

 みんなが止まってしまったら、この国に危険が降りかかってしまう。

 だから、誰も止まらない。誰かのために、待ってあげることはできない。だから、追いつくしかない。なのに、追いつけない。


「君は強いよ」

「そんなこと、ありません」

「ううん、だってここに来るためにお父上を説得したんでしょう? ホルツヴァード侯爵からは聞いてる」

「……」


「みんなを、守るためにここに来た」


 リーネ様の言葉に、わたくしはバッと顔を上げた。

 頭の中にエルネスタやレミリアの顔が浮かぶ。


 エルネスタはお人よしだから、きっとアダやわたくしたちの無事を祈ってる。

 レミリアもきっと無事を祈りながら、エルネスタのところに戻ってる。


(誰かが歩みと止めたら、みんな止まってしまう)


 わたくしが少しでも止めたら、優しすぎるアダは待ってくれるのだろう。ついでに、フェリシアンも来そうだ。

 だから、ここで何か言っていても意味はない。〈魔王〉を倒して、レクメリア帝国を守ると誓ったのだ。




 わたくしはリーネ様の手をゆっくりと降ろした。


「はい、わたくしはわたくしのできる全力を尽くし、守ります。友達も、国民も、〈英雄〉の皆様も」

72ptありがとうございます!!!クライマックスですね……!

アダ含め〈英雄〉たちの〈魔王〉との戦いをお見届けくださると幸いです!

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