LVI.もう貴方たちは、家族じゃない
「お前、自分が何をしたのか、分かっているのか!!」
「お兄様っ……どうして、ここに……」
背後から聞こえた男の言葉に、アダは振り向いた。
「……」
すると、即座に黙って話を聞いていたフェリシアンが男──ニックの首に剣を向ける。
「……ふっ、シュタルテン」
「あ」
ニックが何かを唱えた瞬間、フェリシアンの剣が爆発に弾かれる。
(……唱えるだけで起動できるのか)
逆に言えば、唱えさえしなければ問題ないのだ。分かりやすい。
「お前のせいで……!! お前のせいで、まだ〈魔王〉様に障害が……。〈英雄〉は殺さなければ……〈英雄〉を──」
フェリシアンは素早く動いて、ニックの首を手で斬るように動かした。そうすれば、ニックは気を失う。
「大丈夫か、レミリア」
「うん。……もう、いいの。もう、あたしはお父様もお母様もお兄様のことも……家族だなんて思っていないもの」
レミリアが悲しそうな顔を浮かべる。
そのとき──
ドッッカーーーン!!
「……っ」
(爆発!?)
湖の方面──ベアトリスは今ここにいるので、〈光明の英雄〉がいる方面だ。恐らく、先に向かったルネティア、シモン、スチュアートもいるだろう。
「ごめん、レミリア! ミーナさんとで帰れるか?」
「うん、大丈夫。ありがとう、アダ」
そう言って、レミリアとミーナは踵を返す。ついでに、ミーナの魔石獣──ウルジュラにニックを乗せて行ってもらった。
「絶対、勝ってよね! 生きて帰ってきてっ」
「……おう!」
レミリアたちと別れ、アダ、フェリシアン、ベアトリスは〈光明の英雄〉の元へ向かう。
「ヴォラーレル」
アダたちは飛行魔法を使い、〈光明の英雄〉たちを探した。
(この辺りは魔獣寄せを使った辺りだから、魔獣も魔族も多いなっ、くそ)
もう少し皇都側に移動すれば、武官たちが戦っている辺りについてしまう。連携が取れない者たちを〈魔王〉と対戦させるわけにはいかない。多くの犠牲が出てしまう。
「いたわっ」
ベアトリスが声をあげ、アダたちも顔をそちらに向ける。
〈魔王〉と対峙している〈光明の英雄〉。自身の血なのか、返り血なのか、〈光明の英雄〉は血塗れだ。そして、周りには魔獣や魔族を殺しているシモンとスチュアートの姿があった。
(……?)
アダは首を傾げた。〈光明の英雄〉の金髪が一瞬黒髪に見えた気がしたのだ。
(……トイフェルみたいな)
もう一度見てみるが、〈光明の英雄〉の美しい金髪が見えるだけだ。
気のせいだろう、とアダは考えを投げ、〈魔王〉に集中する。
アダは杖に膨大な魔力を注ぎ込み、〈魔王〉に突進した。そして、杖を鎌に変え、大きく振りかぶる。
「……おりゃあああッ!」
「あらあら、アダちゃんね?」
鎌で右手を斬ったものの、〈魔王〉は顔を歪めることもなく笑っている。
(バケモンかっ!)
「うふふ、人間ってどうして、攻撃するときに声を出すのかしら? 気になるわ」
「知らねぇよっ!」
アダは鎌を横に持ち替え、体重を掛けて〈魔王〉の角に斬り掛かる。
すると、ひょいっと〈魔王〉は頭を後ろに逸らして避けてしまった。
角を折ったり、目を刺したりすると、魔族も魔獣も弱体化するのだ。そして、心臓を刺せば殺せる。
アダは鎌のまま、魔法を放とうと狙いを定める。
「ウィク・フォーマカードゥ!」
「あら、ちょっと痛いわ。熱いですねぇ」
アダの火球に、〈魔王〉はクスクスと笑って、後退した。すると、火球によって火傷していた左側の顔と、斬り落とした右手がゆっくりと再生していくのが見える。
(くそが)
「F!」
フェリシアンがそう叫び、一歩前に出て魔法を放った。魔獣や魔族を狩っていたシモンとフェリシアンが切り上げて〈魔王〉に向かう。
「行きますよっ、リーネ様」
「……あぁ」
ベアトリスに手を引かれ、〈光明の英雄〉は移動する。
その間を稼ぐため、フェリシアンとシモン、そしてスチュアートが魔法で遠距離からの攻撃を放つ。
アダは、近くで魔獣と魔族を狩っていたルネティアを見つける。
「ルネティア!」
「はい」
魔獣を狩りつつ、アダはルネティアに近付いた。
「次、Eやるぞ」
「承知しました」
短いやりとりだけを終え、Fの攻撃が終わったのを確認すると、二人は即座に動いた。回復の隙を与えないためだ。
「E!」
「ファレーシス」
「スバーデ」
誰よりも鎌の扱いに長けたルネティアが鎌を、アダが剣を使う。鎌はかなり大きい。そのため、大振りな動きが多く、好きが生まれやすい。だから、アダが剣で隙をカバーするのだ。
ルネティアが大きな攻撃をして、その間をアダが守りつつ攻める。〈魔王〉はアダの攻撃は軽々と避けていき、
「んんー、良い連携だわ。仲が良さそうね、ルネティアちゃんにアダちゃん。何年くらいの仲なのかしら?」
「五年」
「……答えなくてよろしいのに」
「うっせ、機嫌損ねんのが一番面倒なんだよっ!」
鎌で、剣で斬りながらアダとルネティアはそう会話する。そんな二人に〈魔王〉は笑った。
「うふふ、本当に仲がよろしいのね。好きよ、そういうの」




