LV.助けたい友達 レミリア視点
「……あれ、アンジェリーネ様じゃない?」
「え?」
レクメリア帝国民なら、一度は聞いたことのある名前だ。
レミリアはミーナの見ている方向を注視する。そこには確かに、〈光明の英雄〉アンジェリーネ・ロード・ヴェヒターがいた。屋敷の方向に走って行っている。
(え、あれっ……)
〈光明の英雄〉の後ろには、藤色の髪の少女がいた。
「ベアトリス……!」
「えっ」
レミリアの声が届いたのか、ベアトリスは立ち止まって、こちらを向いた。
立ち止まったベアトリスを見て、〈光明の英雄〉もこちらにやって来る。
「ベアトリス、誰?」
「レミリア・ノイマン……わたくしの友達です」
「あぁ……〈魔王〉信教の?」
〈光明の英雄〉は警戒心を隠しもせず、杖を取り出して剣に変える。
「それに……ミーナ・ジョルダン。ルネティアが現場に来たってことは、君は負けたんでしょう? こんなところで何をしてるの?」
(そうだ。ミーナさんも〈魔王〉信教側として、〈英雄〉側と戦ってる……)
時間がない。ベアトリスの魔術具を外した後は、アダの魔術具も外しに行かなければならないのだ。
(こんな押し問答してる時間はないっ)
「〈光明の英雄〉様。申し訳ありませんが、本当に時間がありません」
「だから何? 君たちの虚言かもしれない言葉に耳を傾けろ、と言うの?」
「それはっ――」
(信用がない。当り前だけど……。でも、どうすれば……!)
「リーネ様、わたくしが話を聞きます」
「何を……」
「わたくしも自衛はできます。……今は友達の話を聞いてあげたいので。例え、裏切っていたとしても」
ベアトリスは〈光明の英雄〉を黙らせ、レミリアに向き直る。
「どうしたの、レミリア? 身体は……」
「ありがと、大丈夫。……ごめん、説明は後にさせて」
レミリアはベアトリスの背後に回り、両手を組んで神に祈った。
「〈束縛の神〉シェズカレトよ。レミリア・ノイマンの名に答え、結わえし縛めを解き給え。慈愛を持ちて、全てを解放し自由を与えよ」
詠唱を唱え、魔法陣が浮かんだベアトリスの背中を見つめた。すると、魔法陣から丸いものが浮き出る。
レミリアはそれをとった。
(解除成功!)
手の中にあるそれを見る。レミリアがベアトリスに仕掛けた魔術具だ。
(盗聴の機能も、爆発の機能も失ってる)
「……ごめんね、ベアトリス。あたしはみんなに――魔術具を仕掛けてたの。急がなきゃ……ミーナさん、付いてきてくれますか?」
「うん」
「レミリア、あたしも行くわ。すみません、リーネ様。すぐに戻ります」
「……ハァ、勝手にしたらいいんじゃない」
呆れたように〈光明の英雄〉はため息をついて踵を返した。
「どうして、君が来るの~?」
「レミリアが心配だからです。ついでに、護衛も。この辺りからは魔獣が増えますので」
ミーナの問いに、ベアトリスは冷たく言い放った。
「心外だなぁ。あたしも強いよ?」
「その怪我を客観視してから言ってほしいですね」
ベアトリスはそれだけ言って、レミリアの隣に移動する。
「ねぇ、レミリア、アダのところに行くのよね?」
「うん……ベアトリスと同じように解除しなきゃ……」
「エルネスタは?」
「ミーナさん――後ろの人に魔石獣を飛ばしてもらってる」
レミリアの言葉に「……そう」とベアトリスは頷く。
(ベアトリス……優しすぎるよ。あたしが魔術具仕掛けてたって知ったのに。ついてきて)
「そんなことないわ」
「え、声に出てた……?」
「えぇ。……どうせ、貴女のことだから、事情があったんでしょ。今は〈魔王〉戦の途中だし、終わってからじっくり聞いてあげる。言いたくないなら、いいけれど」
ベアトリスはジッとレミリアを見つめた。真剣な目だ。
(あぁ、この人と友達でよかった)
「ありがとう、ベアトリス。絶対、勝ってね。いっぱい話したいことあるから」
「当たり前でしょ」
少しずつ辺りに増えてきた魔獣をベアトリスとミーナで倒しながら、アダの元へ向かう。
(……いたっ)
「アダっ」
「え……レミリア……!?」
振り向いたアダは急いでレミリアの元にまでやって来る。
「体調は!?」
(最初に確認することがそれって……ふふ)
レミリアは眉を下げて少し笑う。が、まずはアダの魔術具を外さなければ。
「大丈夫。ごめん、少し後で説明するわ」
そう言って、レミリアはベアトリスのときと同じように解除の詠唱を始めた。
「……なぁ、ベアトリス。ホントにどういうこと?」
「わたくしから説明することではないわ」
レミリアは詠唱を終え、何とかアダから魔術具を取り出した。
「……おい……!!」
アダの背後から現れたのは、レミリアの兄──ニックだった。
「お前、自分が何をしたのか、分かっているのか!!」




