LIII.三番目の大事なもの ミーナ視点
「……何してるの、そんなところで。貴女は封印解除の役目があったはずでしょ」
ビクビクと怯えた表情で、宗主の娘――レミリア・ノイマンはミーナを見上げた。
そして、神妙な顔で問う。
「……〈魔王〉のこと、好きですか?」
「ううん、別に。どうでもいいかな。……てか、何その質問」
「え、いや……そのローブ着てるのに、洗脳されてない……」
レミリアはそう言う。ミーナは宗主の娘として彼女を知っているが、レミリアはそうではなかったのだろう。
「あたしはジョルダン侯爵の娘だ。そう言えば分かるかな?」
「あ……中立派として潜入して、洗脳を免れている家、ですよね?」
「せーかい! 流石、宗主様の娘」
レミリアの言葉に、ミーナはニコニコと頷いた。
「……あの、貴女はどっち派ですか?」
「…………どうだろうね。どっちでもないかな。君は?」
曖昧な答えをミーナは返す。正直、どう言えばいいのか、分からなかった。ルネティアに降参を宣言したが、まだ彼女はミーナを友達だと思ってくれている。
「あたしは……友達を裏切って、〈魔王〉を復活させるための魔術具を創らされました。だけど……あたし、友達に魔術具仕掛けてて……お父様たちが起きちゃったらっ、起爆されるかもしれなくて……っ。だから、今から……!!」
「何となく、状況は分かった。あたしも、一緒に行ってあげる」
「え……いいんですか?」
牡丹色の瞳を見開くレミリアに、ミーナは小さく微笑んだ。
「あたしも、〈英雄〉側に友達がいてね。気持ちはよく分かるんだ」
「ありがとう存じます……!!」
ということで、友達を裏切ったミーナとレミリアは、友達のために動き出した。
「あ、あの、名前を伺っても?」
「ミーナ・ジョルダンだ。君はレミリアちゃん、だよね?」
「はい。ミーナさん、でいいでしょうか。年上……というか、成人していますよね?」
「女性に年齢を聞くのか……と言いたいところだけど、そうだよ」
ミーナが少しだけ意地の悪い笑みを浮かべると、クスリとレミリアも笑みを零した。
「あ、それなら、魔石獣持ってますよね……? その、貴族学院にいる子にも伝えたいので、貸していただいてもいいですか?」
「……そっか。分かった。……ウルジュラ」
ミーナが名を呼ぶと、白橡の髪に、新橋色の瞳のうさぎが出てくる。
『ミーナ、ミーナ。怪我、してない?』
「大丈夫よ、ウルジュラ。今はこの子――レミリアちゃんに力を貸してほしいの」
『……〈魔王〉信徒さん?』
コテン、と可愛らしく首を傾げるウルジュラに、ミーナはふるふると首を振る。
「そうだけど、違うの。あたしと同じ子よ」
『……分かった』
「ん、じゃ、許可するよ」
ミーナがそう言えば、ウルジュラがレミリアの目の前に飛ぶ。
『初めまして、レミリア様。何をご所望……?』
ウルジュラはレミリアをジッと上目遣いで見つめた。
(いつもは臆病なんだけどなぁ)
魔石獣は主と似た性格か、全く逆の性格になる。よくミーナは逆の性格だと言われるが。
ウルジュラは昔のあたしそっくりだ。臆病なあたしに。
「あたしのお友達に伝えたいことがあるんです」
『分かった。レミリア様のお望み叶えてあげる。誰にお伝えするの……?』
「セルベル男爵令嬢、エルネスタ・セルベルに」
『分かった。エルネスタ・セルベル様に』
ウルジュラはコクッと頷き、続きを促す。
レミリアはセルベル嬢に話す内容を話し始めた。魔術具の外し方と、外した後の対処法。そして、魔術具を仕掛けたことの謝罪だ。
(そういえば、あたし、まだルネティアに謝ってないな……)
人が謝っているところを見て思い出すなんて、最低すぎる。自分で思い出すべきなのに。
(まぁ、次会えるかすら、まだよく分からないけど)
レミリアはウルジュラに話し終え、ウルジュラはセルベル嬢の元へと飛んで行った。
歩きながら、ミーナはレミリアの話を聞いた。本当は走りたいところなのだが、レミリアは先程まで倒れていたらしく、走れるほどの体力が残っていないとのことだ。
(ウルジュラが帰ってきたら、乗せれると思うけど)
「君はどういう経緯で〈英雄〉側に? 言いたくなかったらいいんだけど」
世間話のようにミーナが問う。レミリアは一度考えるように俯いて口を開いた。
「あたしと仲のいい友達が、紹介してくれて。でも、〈英雄〉反対派だから、仲良くはできない……と思ってたんですけど、思った以上に優しくていい子で。もう一人はプライドは高いけれど、優しいです。ちゃんと人に謝れる。結局、彼女は悪いことしていなかったのに、責任感が強いから……」
レミリアはそこからも、ポツポツとミーナに自分のことを話した。
(この子は、何も悪くないのに)
罪悪感だけ背負わされて。
「……その話を聞いて思うけど、やっぱり君は何も悪くないよ。両親に脅されただけだ。気に病む必要はない……って言いたいけど、難しいよね」
「そんなことないですよ。何もできなかった。小さい抵抗だけで、ちゃんと友達の味方をしてあげられなかったんですから」
レミリアはそう言って曖昧に笑う。
「そういうのも、大事だよ。あたしは、ただ流されるままに生きてきたからね」
「…………あの、もし、よかったらミーナさんのお話も聞いていいですか?」
意味深なミーナの言葉に、興味が湧いたのか、レミリアはそう言う。
「そーだねぇ。あたしもレミリアちゃんと同じで、急に〈魔王〉信徒だって言われて。……でも、脅されていたレミリアちゃんとは違う。あたしは流れに身を任せてここまで来てるからね。――救いようがない」
自嘲して笑うミーナに、レミリアは閉口する。
「帝国に盾突くことを、仲間に嘘をつくことを、友達を裏切ることを選んじゃった。自分で言ってて馬鹿みたいだと思うよ。レミリアちゃんみたいに、流されないような自分の意思を持っていたら良かったんだけどね」
「……そんなこと、ないです。ミーナさんはちゃんと、自分で選んでます」
レミリアの言葉に、ミーナは目を見開いた。
「だって、今から〈英雄〉を助けようとしてるあたしを助けてくれました。多分、ミーナさんが声をかけてくれなかったら、あたしは一人で歩いてます。でも、今隣を貴女が歩いてくれている」
真っ直ぐにミーナを見つめるレミリアに、ミーナの涙腺が潤む。
「そう、ありがとうね。……君は、あたしの三番目の大事なものになりそうだ」
「……三番目? 一番と二番がいるんですか?」
「一番はあたしの唯一の友達。二番目は……同い年だから知ってるかな? アダちゃんっていうんだけど」
「あたしの友達です!」
目を輝かせているレミリアに、ミーナはパチクリと目を瞬かせる。
「お揃いだね、レミリアちゃん」
ミーナに、演技ではない笑みが浮かんだ。




