LII.到着
アダとフェリシアンは〈魔王〉を睨み、杖を構える。いつでも攻撃に備えるためだ。
「あら、貴方たち、もしかして次世代? あ~、封印されてから何年経ってるのか分からないんですよね~。あの子とか、まだ生きてるのかしら?」
「……封印してから十三年だ」
アダがそう答えると、〈魔王〉はクスリと笑った。
「へぇ、そうなの。ご親切にどうも。周りから結界が壊されてる感覚はあったし、早かったんですねー」
ニコニコと笑う少女。
「あ、そうね。自己紹介でもしておきましょうか。〈混乱の女神〉ルティスレーディアのお導きに感謝を。わたくしの名はヴェルシェール。どうぞよろしく」
〈魔王〉は鮮血色の瞳を細めて、にっこり微笑んだ。
「お二人のお名前は? あぁ、そうですね。先程の方のお名前もお聞きしたいわ」
「……言わない」
アダが再び答えた。先程の話はともかく、名前を教えては正直どうなるか分からない。魔族には特権があるものも多いのだ。
「あらあら、先程の親切なお方。残念だわ。なら仕方ありませんね」
〈魔王〉はニヤリと笑みを浮かべて大きく手を振った。
すると、巨大なナニカの塊がこちらに飛んでくる。
即座に、フェリシアンとアダはそれぞれ違う方向に飛行魔法で飛んだ。
(何だあの攻撃!?)
空気の塊のようなものだった。風魔法だろうか。
(いや、〈魔王〉は全属性だ。何か他の魔法と組み合わせててもおかしくねぇ)
「フェリシアン!」
「アダ!」
そのとき、背後からシモンとスチュアートが叫ぶ声がした。
アダはちらりと一瞥すると、その後ろには〈光明の英雄〉もいる。
(良かった……救援信号には気付いてもらえたみたいだな)
「リーネ、スチュー、シモン、到着した!」
「…………あら、あらあらまぁまぁ……」
〈魔王〉は楽しそうに顔を綻ばせた。──〈光明の英雄〉を見て。
「あらあら、わたくしの殺した人間がこんなところに。びっくりだわ」
「……五月蝿い。死んでなどない。死んでなんか、ない……!」
「いえいえ、わたくしは確かに殺しましたもの、最後にね。とても正義感のある子だったけれど」
ふふ、と人を殺した妄想を〈魔王〉は楽しそうに話す。
(こんなのを信仰してる〈魔王〉信徒、やっぱりキモい)
「……あらあら、似ている方というわけではないのね。そんな魔法を見に纏わせて」
「黙れ……っ!」
「嫌ね。怖い殿方」
〈魔王〉はクスリと笑って剣を創り、〈光明の英雄〉に近づいた。
「リーネ!」
アダたちは〈光明の英雄〉の援護に動こうとするが、そのとき。
「グァァァッ!」
気配を感じた。
魔獣だ。大型犬のような形をしている。
アダは杖で一旦防ぎ、その後即座に切り捨てた。すると、塵となって消えていく。
(くそっ、光明様の援護に行きたいのに!)
そこから周りを見渡す。辺りは魔獣や魔族だらけになっていた。強いわけではないのだが、量が多すぎる。
(タイミング考えろ!!)
近くにいるフェリシアンと背中合わせにしておく。
「……なぁ、武官団は?」
「多分誰かが連絡して出動してくれるとは思うけど……ここまでは来ないよ。〈魔王〉と直接相手するのは〈英雄〉だけ。連携もとれない人と共闘するは危ないからね」
「……ここまで魔獣が来んのかっ」
魔獣を切り捨てつつ、アダはそう言う。
「こっちに魔獣寄せを使う!!」
シモンが魔法陣を遠方に創り、発動させた。魔獣寄せとは、魔獣や魔族の好きな匂いでおびき寄せる魔法陣だ。
(これで……!)
魔獣や魔族は魔獣寄せの匂いに釣られ、どんどん移動していく。
アダとフェリシアンは目の前にいた魔獣を狩りつつ、〈光明の英雄〉がいる方に移動していく。
「リーネ!」
魔法陣を創り終えたシモンも、〈光明の英雄〉の方向に向かっているのが見える。
〈光明の英雄〉は唇を噛んで、〈魔王〉を睨んでいた。その白い頬には赤い線が走っている。
アダたちに背を向ける〈魔王〉は剣を大きく振りかぶっていた。
「光明様っ!!」
そのとき――
「油断ですか。ちゃんとしてくださいよ、アンネ様」
ルネティアだった。〈魔王〉が切りかかった剣はルネティアの鎌によって防がれていた。
「……ルネティア」
「まだ、そう呼ぶんですね」
ルネティアは一度悲しそうな顔をしてから、〈魔王〉を睨み上げた。
「アダ! フェリシアン!」
「ベアトリスっ」
遅れてやって来たのはベアトリスだ。これで、トイフェル以外は揃った。
(アイツ、何で来ねぇんだよ……。こんな大事なときに!)
来ないものはどうしようもない。とりあえず、トイフェルのことは忘れる。
「ルネ、早すぎるでしょ……。私より後に来たのに追い抜かして行ったわ」
「そういう人だ。……レミリアの様子は?」
「大丈夫。気は失ったままだけど、多分」
ベアトリスの言葉に、アダは安堵の息をつく。
「……あぁ、嬉しい。名前がいっぱい知れたわ。金髪の貴女はリーネちゃん。アンネちゃんとかコウミョウ様も言われてたわね。どれも愛称かしら。青緑の貴女はルネティアちゃんね。赤っぽい髪の貴女はアダちゃん。クリーム色の貴方はフェリシアンくん。紫の貴女はベアトリスちゃん。すごい、すごいわぁ。後のお二人の名前も聞きたいわね。うふふ、楽しみ……」
(くそ、癖で言っちまった……)
「残ったみんなも教えてね。お名前も、好きなことも、嫌いなことも……全部」
〈魔王〉はうふふ、と声を上げて微笑んだ。




