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L.嘘つきのミーナ・ジョルダン

五十話突破!!

「……よろしく、ミーナ」


そう言ってくれたルネティア・ロード・ロデスに、あたしの顔はニッコニコだったと思う。


あたしはジョルダン侯爵の娘、ミーナ・ジョルダン。

昔から、〈変な子〉だとずっと言われてきた。

変なくらいに口が回った。

ぺちゃくちゃと喋りまくるあたしは貴族令嬢としては異物だ。そうして、あたしの周りに人はいなくなってしまった。


だが、ルネティアは違った。彼女にも友達は少なかったようだが、ずっとあたしの隣にいてくれたのは彼女だけだった。だから、ずっと一緒にいた。大好きだった。

――あたしの、唯一の友達だった。



はずだった。




「其方、ロデス家の当主と仲がいいそうだな。……ソレから情報を聞き出せ」


(は?)


父の冷たい言葉。

声に出さなかっただけ、あたしは偉かったと思う。


この家は〈英雄〉に対して中立派。だから、仲良くしても問題はなかったはずだ。


「ハァ……陛下から其方がロデスの相手をしろ、と勅命を受けたときはどうなることかと思ったけれど……思ったより状況がいい方向に動きそうでよかった」


楽しそうに笑う母。


(なんで……なんで? この家が、〈魔王信教〉だなんて……)


しかも、父は宗主の次に偉い司教というではないか。

あたしは訳が分からなくなって、はいはいと頷いて部屋を出た。



◇◆◇



「なんで……何が、どうなって……?」

「何やってんだよ、ミーナ」

「エリオットお兄様!」

「ん」


ジョルダン侯爵家の次男、エリオット・ジョルダン。長男の方はあまり関りがないので、あたしはエリオットお兄様に懐いていた。


「ねぇ、お母様とお父様が変なの。〈魔王信教〉とか、意味の分からないことを言い出して……」

「本当の話だよ、アレは」

「え?」

「〈魔王信教〉に染まってる家は粗方国に知られてる。だから、ジョルダン侯爵家には洗脳を施さずに中立派として国の情報を探る。それがこの家に託された使命だ」


エリオットお兄様はただ淡々とそう言った。


「エリオットお兄様まで、何を……」

「申し訳ないけど、本当の話だ。……ま、不幸中の幸いだぞ? 洗脳されてたら、俺らはすでに〈魔王〉に心酔してあいつらに手を貸すことになる。ま、父上も母上も、兄上もすでに洗脳されんのかってくらい心酔してるけどな」

「あ、あたしは、どうしたらいいの? エリオットお兄様は、どうしてそんなことを知ってるの……?」

「貴族学院に入学したら、父上たちから〈魔王信教〉のことについて話されるからな。そこから、地道に情報集めしてた。……お前は、好きにすればいい。俺みたいに、とりあえず従ってるフリでもしているのもありだぞ」


エリオットお兄様の厳しいけれど優しい言葉に、あたしは頷く。


「分かった。そうする」



――その言葉が枷になるなんて、思ってもみなかったけれど。



◇◆◇



「第一師団、副師団長にジョルダン侯爵令嬢、ミーナ・ジョルダン! 前へ」



ジョルダン家が〈魔王信教〉だと知ってから、約五年が経過した。ちょくちょく情報を集めながら、あたしは演じ続けた。何も知らない明るい女の子を。無知な振りをしていた方が立ちまわりやすい。

嘘をついてさえいれば、難なく勝手に信じてくれる。

呪っていたはずだ。口が回りすぎて、友達ができなかったのだから。でも、こういう時は助かった。


(嘘をつくのが得意分野になりそーだなぁ)


口が回れば、嘘をつきやすくなる。演じるというのは嘘をつくということだ。でも、役になってしまえば、嘘をついてることには全然気づかれない。



唯一の友達(ルネティア)にまで嘘をついて。あたしの人生は嘘で塗れていた。



あたしは成人して、武官団に入団。そして、数か月という異例の速さで、副師団長にまで上り詰めた。しかも、第一師団はどの師団よりも〈英雄〉に近い師団だ。

度々、厳しい審査がある。〈英雄〉に関する機密情報があるのだから当然だ。


(まぁ、それも難なく超えちゃったけど)


元々副師団長なのだ。審査とはいえ、流石に新任の者より緩くなる。


(馬鹿だよね、みんな)


仲間だったはずのあたしに騙されて。




「エリオットお兄様、あたし第一師団の副師団長になったんだ」

「……よくあの審査を潜り抜けたな。何か策でもあったのか?」


エリオットお兄様は軽く首を傾げる。


「ううん、別に。ただ、嘘をついただけだよ」

「それだけで、そこまで騙せるものなのか?」

「うん、ただ演じていればいいんだもの」

「……そういえば、もうすでに何年もロデス家の当主を騙しているんだったな」


エリオットお兄様の少しだけ納得したような声に、あたしは小さく頷いた。


「そう、だね」


(躊躇なく、あたしはこうやって、あたしに関わってるみんなを騙してる)





でも、時々──



「いいの?」


そんな問い掛けをするあたしがいる。小さい頃のあたしだ。

小さい頃は、人を騙そうなんて考えたことなかった。


「ルネティアまで騙して、仲間も騙した。……いいの? 本当にそれで」

「仕方ないじゃん、お父様がそう言ったんだもの。エリオットお兄様が、情報を集めろって言ったんだもの」

「……ホント?」

「全部本当のことでしょう?」


あたしが首を傾げると、幼いあたしはふるふると首を振る。


「違うわ。あたしがいいのかってこと」

「……そうね。望んだことかといえば、違うかなぁ」

「だったら──」


言い返そうとする幼いあたしに、あたしはニコリ笑って言った。


「でも、こうなることを選んだんだよ、あたしは。動くことで、何かあることが怖かった。怖がりだものね、あたし」

「知ってるよ。あたしはあたしだから」

「怖がりだから、〈英雄〉に付いて、ルネティアやアダちゃんに何かある方が余っ程怖いもの。今更だよ。今更……裏切れない」

「そうだね」


泣きそうな顔で、幼いあたしは塵となって消えてしまった。



〈魔王信教〉は宗主の娘から〈魔王〉を復活させようとしている、という情報を聞いたそうだ。〈英雄〉を混乱させるため、〈魔王〉の復活を早めさせる策らしい。


(そんなに〈英雄〉のことが嫌いなのかねぇ)


「其方は〈英雄〉の屋敷の前で、中にいる奴らの足止めをしろ」

「はぁい」


父の言葉に、そう返したは良いものの、八割方ルネティアは屋敷内にいるのだろう。


(お父様も無慈悲な采配をなさる)


対面した時、あたしは〈魔王信教〉の信徒としていなくてはならない。


(今まで騙していたあたしには、過ぎた願いかな)

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