LI.唯一の友達との戦い ミーナ視点
「スバーデ」
ミーナは杖を剣に変え、ルネティアに向かった。
ルネティアがミーナに視線を向ける。その顔は悲痛で。
(いつも無表情だったルネティアがね)
こういう大事なときにだけ、彼女の表情が変化する。ミーナが勢い余って質問攻めにしたときもそうだった。少しだけ、彼女は微笑んでくれた。
「……っ、ファレーシス」
剣で切りかかると、ルネティアは杖を鎌に変えてそれを防いだ。ルネティアの研究魔法。魔素配列が本来の変形魔法と異なりすぎていて、未だ使えるのはルネティアだけだろう。本当はアダも使えるのだが、ミーナはまだそれを知らない。
(ハァ……もう、馬鹿みたいに強いんだから)
「どうして……どうして……こんなこと」
「言ったでしょ。今までのは全部、嘘なんだよ」
剣から発動された風の刃を、ルネティアは一振りで消し去る。風の刃の利点は素早いことだ。だが、軽すぎて少しの魔法ですぐに消えてしまう。
「嘘って、どこから……どこまで? 初めて会ったときから?」
「……っ、違うよ!」
ミーナの強い否定に、ルネティアは驚く。
「あのときは、あたし何も知らなかった! ただ、純粋に君と仲良くしたかっただけなのにっ」
「……」
「なのに……なのに、なのに! お父様が余計なこと言って、エリオットお兄様があたしに選択権を委ねるから……!」
駄々をこねる子供のように、ミーナはそう吐き捨てた。
「こうするしかなかったって言いたい! 仕方かったんだって! でも、あたしは怖がりだから、この道を選んじゃった。自分が動いて、それで何かが変わってしまうことが怖いからっ!!」
ミーナは、心の奥底に溜めていた感情を、少しずつ吐き出した。
ちょっとだけ、楽になれる気がした。
それでも、向かっていかなくてはならないのだ。唯一の友達に。
再びミーナがルネティアに向かって大振りに切り掛かる。キィンッと激しい音を立て、場は膠着した。
「ずっと……ずっと、嘘をついていたの?」
「そうだよ。貴族学院でも、師団でも、君の前でも……!」
ミーナは悲しそうに眉を下げた。
「……苦しく、なかったの?」
ルネティアの言葉に、ミーナは目を見開いた。
(どうして、そんなこと聞くの……っ)
答えは、ミーナ自身でよく分かっている。ルネティアは優しすぎるのだ。優しすぎるから、そんな問いが出てくる。
「……苦しかった」
「なら──」
「でも、それより怖かった。ルネティアやアダちゃんに何かあることの方が」
ルネティアが何か言おうとしたが、ミーナはゆったりと首を振る。きっと、自分で自衛くらいできるとでも言いたかったのだろう。
(それでもあたしは、二人に少しでも危険があることの方が怖い。あたしのせいで危険な状況に陥ってしまうことの方が)
「大好きだからだよ。君たちが好き。あたし、正直大事なものがあんまりないんだ。別にお気に入りのものを壊されても悲しい、くらいにしか思わない。でも、ルネティアとアダちゃんは違うから」
ミーナは眉を下げて、へらりと笑った。
ルネティアにとって、彼女がそんな風に笑うのを見たのは初めてのことだった。
「ミーナ……」
「君はあたしに同情しちゃ駄目。そりゃ、こういうことを勝手に語り出したのはあたしだけどさ。……ちゃんとあたしを倒して? 〈魔王〉のところ行って、アダちゃんたち助けるんでしょ?」
ミーナが首を傾げる。ルネティアは全力を出して、ミーナを押し返した。後退してすぐ、魔法を放つ。
「マーギッシュカフ」
剣から出された白い光線を、ルネティアが鎌で防ぐ。ほんの少しだけ反応が遅れたのか、頬に赤い線が走った。
(訓練してたときはこんなの余裕で防いでたのに)
「ルネティア!」
(ちゃんと、戦って)
「ルネティア……!」
(あたしに、同情しないで……!)
ミーナのルビーの瞳をルネティアはゆっくりと顔を上げて見た。
「ツィルーフリア。ブローヴ」
ルネティアは『カルス』という量を増やすための詠唱すら口にせず、大量の草木と風の刃をミーナに向けて放った。
追い風でも乗せているのか、異常に速いそれらにミーナは剣を盾のように構える。馬鹿のすることだ。新規の団員だってこのようなことはしない。
(副師団長失格かな)
痛みを覚悟して体を強ばらせる。──が、あたしに衝撃が来ることはない。
「……ミーナ」
怒っているときのの声だ。
(だよね。やっぱり、嫌だよね。嘘をつかれるのなんて……)
「友達って言うなら、相談してくれても良かったのに」
「えっ」
「友達を守ることは優しさかもしれないけど、私はミーナが頼ってくれる方が嬉しかった。貴女が勉強を教えてくれるみたいに、貴女も……私を頼ってほしかった」
(……嗚呼、ルネティアと友達でなくなるのは……本当に嫌だな)
こんなことをしたミーナは既に反逆者だ。〈魔王〉倒して国を守るミーナとルネティアが友達でいることは叶わない。
「降参だ」
ミーナは剣を消し、ゆっくり手を挙げた。
ルネティアは魔法を解除し、ミーナの方に歩いていく。
そして、ミーナに耳打ちしてその場を去って行った。
(……あぁ、もう。どこまでも優しいんだから)
◇◆◇
ルネティアが去ってから、数刻。
ミーナは屋敷付近の木にもたれて座っていた。
(これから、どうするかねぇ……)
ルネティアを助けに行きたい気持ちは山々なのだが、拒絶されないだろうか。今更寝返ったところで、何になるのだろうか。そんな気持ちだけが先行する。
「ハァッ、はぁっ」
そのとき、〈英雄〉の屋敷から出てきた人物がいた。苦しいのか、呼吸は不規則だ。
「……何してるの? 宗主様の娘さん」
金髪の少女は大きく目を見開いた。
――私はまだ、貴女を友達だと思ってる。
そんなルネティアの言葉を思い出して、ミーナはその少女に声をかけた。
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