XLIV.封印解除
『……調査の結果、〈魔王〉は結界の中で力を蓄えている可能性が高いとのことです。貴族学院にいる方々に関してはわたくしから報告しておきます。直ちにヴェヒター家に集合してくださいませ』
ルネティアからの連絡を伝えに来たアレクシアに、アダは礼を言った。
魔石獣は飛行補助の他に、連絡用魔術具の代わりとしても動くらしい。他にも、内緒話をするときにも活躍する。大変だ。
「分かった。ありがとな、アレクシア」
『ふふん。それほどでもないわ。じゃあね、アダ』
「おー、ルネティアによろしく」
アダがそう言うと、アレクシアは少し目と長い耳を伏せた。
『うん。……ねぇ、アダ』
「ん?」
『ちゃんと生きなさいよ』
アレクシアの言葉に、アダは目を見開いた。
「どういう、意味?」
『アダは、自己犠牲なんかしちゃ駄目だからね。アダがすごくすごく優しいのは知ってるけど、それだけは絶対』
「……さも、前にもそういう奴がいたみたいな言い方だな」
アダがアレクシアを見つめてそう言うと、アレクシアは唇を噛む。
『そう思うのは勝手よ。あたしたちは気付いてるけど、人間の誰にも言うつもりないもの。……例え、主を傷つけるとしてもね』
それだけ言い残して、アレクシアは去っていった。
「……アダ」
「ごきげんよう、アダ」
「おぅ、フェリシアン、ベアトリス」
先に馬車に乗っていたフェリシアンとベアトリスに挨拶して、アダはベアトリスの隣に座った。
「そういえば、君みんなのこと愛称で呼ばないよね。なんで?」
「……慣れねぇからだよ。俺はあの中で顔見知りの奴らばっかりだし。シモン様のお許しもあっただろ?慣れねぇ愛称呼びするよりかは、そのままにして、戦い方に専念した方がいいじゃんか」
「まぁ、貴女らしくていいんじゃないかしら?」
ふ、とベアトリスは笑った。
◇◆◇
「おかえり、アダ。それから、フェリシアンとベアトリスも元気そうで何よりだ」
屋敷に戻って出迎えてくれたのは、〈光明の英雄〉だった。
「只今戻りました、〈光明の英雄〉様」
「……君、未だにその呼び方だよね……。流石にそれは減らさなくていいの? 長いよ?」
「大丈夫です。いざとなったら『光明様!』と呼びます」
「意地でも名前は呼ばないんだ」
まぁいいけどさ、と言って〈光明の英雄〉は踵を返した。
そして、アダたちも屋敷に入る。
「あぁ、戻っていたのですね。おかえりなさいませ、アダ様」
屋敷に入ると、ルネティアが礼をしていた。忙しいらしく、出迎えには来られなかったらしい。
「全員揃ったので、小ホールに集めてほしいです」
「分かったよ。……ヒルベルト」
〈光明の英雄〉はそう言って、魔石獣──ヒルベルトを出した。黒い狼である。
(魔石獣は基本的に主の容姿に似ることが多いし、性別も同じはずなんだけど、〈光明の英雄〉様は珍しいタイプだよなぁ)
現に、性格は真反対であるルネティアとアレクシアも髪(毛並み)や瞳の色は同じだ。
そうして、小ホールに全員が集まった。〈孤影の英雄〉を除く。
「三日後、決戦を開始する」
〈光明の英雄〉はそう宣言した。
「本日、結界を解除しますが、解除に三日かかります。その間は、最後の準備をお願いいたします。それから、封印を解除する間は結界が脆くなりますので、交代制で何度か見に行っていただくことになります」
ということで、アダたちは全員で結界の解除に向かった。
アダたち学生は飛行魔法、〈光明の英雄〉たち成人は魔石獣を使う。
「……前から思ってたけど、アダの飛行魔法の精度ってヤバいよね」
「えぇ、わたくしも今それを実感しているわ」
フェリシアンの言葉に、ベアトリスも頷いた。
「何の話?」
「貴女、飛行魔法を使いこなしすぎなのよ。いっそ怖いくらいだわ」
「もしかして鳥?」
「んなわけねぇだろっ!! お前の目は節穴か!?」
「んじゃあ、前世?」
「ん、そっ、そんなわけねぇだろ……!」
「あ、否定できなくなった」
「前世なんて知らねぇから仕方ねぇだろ!?」
「まー、そうだねー」
クスリとフェリシアンは笑う。〈魔王〉との決戦直前なのにも関わらず、こういった気軽な話ができるのは嬉しかった。緊張感が足りない、とトイフェル辺りに怒られるかもしれないが、こういう場面では緊張しすぎるところがあるので、アダにとってはいいことだ。
そうして、ロデス家を通り越し、〈魔王〉の封印にまでやって来た。
「では、解除します」
ルネティアが封印に触れるのを、皆で見守る。
「魔法陣、展開」
封印の、ルネティアが触れた側面に魔法陣が浮かんだ。
そして、その魔法陣からダイヤのような形のものが浮かんだ。緑とピンクが入り交じった色だ。風と花の魔力を持つ、ルネティアの魔力の色である。
「封印、解除」
ダイヤ型のものが、淡く発光してキラキラと塵となって消えた。
そして、結界が半透明とはいえ、曇っていてあまり見えなかった中が、かなりはっきりと見えるようになった。
魔族の証である角が生えた、一人の少女の姿。
(最低でも五百年以上は生きてるって聞いてるけど……)
小柄なエルネスタと変わらないくらいの身長だ。
「では、朝、昼、夜で三日。今日の分は夜だけでいいので、七回見張りが必要になります。どうしますか?」
話し合った結果、アダ、ベアトリス、フェリシアンは三人で明日の昼と夜になった。
(……頑張んねぇと)
いよいよラストスパート~~!!!




