XLIII.親友
授業が終わり、アダは自室に向かっていた。
「……あのっ、ヴェヒター様!」
声をかけてきたのは、一人の女性だった。アダが振り返れば、見覚えのある顔がある。レミリアの侍女、ナンシーだ。話したことはない。
「レミリア様についてっ、ご存知ではありませんかっ!?」
「えっ、いや……申し訳ねぇけど、俺は知らねぇ。今日もいねぇのか」
「……はい。屋敷にいくら連絡しても、繋がらないのです。私、明日になったら屋敷に行ってみようと思います。エルネスタ様にもそうお伝えくださいませ」
「分かった。頑張れよ」
「ありがたきお言葉です」
ニコリと微笑んだナンシーはそのまま去ってしまった。
(レミリア……どこ行ったんだよ)
「アダっ、大丈夫でしたか? 倒れかけたって聞いて、わたくし……」
寮の自室に戻ってすぐ、エルネスタはそう言った。
ベアトリス辺りが報告したのだろう。
「えっ、アダ様、倒れられたのですか? 今は大丈夫ですか?」
オティーリエはこの部屋から出ることは少ないので知らなかったらしい。
「まぁ、うん。デュークにいろいろ話聞いてもらったし」
「……メラルティン侯爵令息に」
そう言って、エルネスタは俯いた。それから、ポツリと呟く。
「わたくしには、話してくれないのですか?」
上目遣いで見つめられ、アダはうぐ、と唸った。
(エルネスタくれぇには、格好つけたいんだが)
ルシアンを始め、デュークなどSクラスの面々には倒れかけたところを見られているのだ。ベアトリスやフェリシアンにもデュークに連行されるところを見られている。
「……わ、分かりました。聞かなかったことにしてくださいませ」
エルネスタの声が聞こえ、そちらを見ると、少し照れたように目線を逸らされた。
「今の……聞こえてた?」
「え? 何がですか?」
「その、格好つけたい、とか」
「はい、バッチリ口に出してました!」
エルネスタの元気な声にアダは消沈した。
(最悪だ。聞かれるとか、恥ずかしすぎるだろ……!)
「あっ、そういえば──」
そう言って、エルネスタはゴソゴソと自室を漁りに行った。
オティーリエに目を向けてみるが、彼女には知らん顔をされてしまう。
「じゃーん! アダ、これあげます!」
掌に乗っているのは、薄い青緑の布で作られたリボンだった。髪につけるものだろう。手触りで何となく分かるが、かなり高級な糸が使われていた。
「一応、お守りといいますか。わたくしができるのはこれくらいですし」
そう言って、エルネスタはふわりと笑った。
「ありがと……すげぇ嬉しい。……俺さ」
アダは最初に思ったことを、口に出して伝えた。
「俺……エルネスタとルームメイトで良かったよ」
仏頂面で言うのもどうかと思って、アダはちょっとだけ笑ってそう言った。
「……っ」
ぶわりと顔が赤くなったエルネスタに、オティーリエは言った。
「あら、練習に付き合ったわたくしにも、お礼はありませんの、お嬢様?」
「……ありがとうっ、オティーリエ! わたくしの特別で大好きな侍女ですっ!」
お礼の部分は少しヤケクソだったが、大好きな侍女という素直な言葉だった。オティーリエは少し照れてそっぽ向く。
(なんか……似てる主従だなぁ)
「あっ、アダっアダっ。最初はわたくしに付けさせていただいてもよろしいですか?」
「え、あぁ、むしろこっちがお願いしたいくらいだ。頼めるか?」
「もっちろんです!」
エルネスタは大きく頷き、アダからリボンを受け取った。
そして、器用に横の髪を編み込んでいく。エルネスタは介添えコース普通科なので、得意なのだろう。最後にリボンで結べば完成だ。
「ありがとうな、エルネスタ、オティーリエ」
アダが笑うと、二人も自然と笑顔になった。
「わたくしは、アダの親友ですから!」
「……しんゆう?」
「えっ、えっ、違ったんですかっ?わたくしの思い込みということでしょうか?」
エルネスタが焦って、ドンッと机の脚に足をぶつけてしまう。
「だ、大丈夫かよっ」
「大丈夫」
「……いや、びっくりしただけ。友達も、親友も、エルネスタが初めてだからさ」
「ふふ、それは光栄ですね。〈青嵐の英雄〉様の初めてを二つ貰ってしまいました」
「なんだそれ」
そう言って、アダは笑った。
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