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XXXIX.ルシアンとのお話

「体調はもう大丈夫なのかい?」


 二限目、アダは当主学に出席していた。爵位、当主、そして、皇帝になるための教科なので、知り合いはルシアンくらいしかいない。

 そのため、隣はルシアンだ。


「ご迷惑をお掛けいたしました、殿下」

「……別に私に敬語を使う必要はないよ?」

「殿下に敬語使わずに誰に使うんですか」

「……そう。僕はね、君と仲良くなりたいんだ、アダ嬢。駄目かな?」


 ルシアンはコテリ、と首を傾げた。令嬢にやればイチコロなのだが、アダには(綺麗な顔だな)くらいの効果しかない。


「まぁ、別にいいけど」

「良かった。もし良かったら、アダと呼ばせてくれないかな? 僕のことも、ルシアンで構わないよ」

「分かった、ルシアン。これでいいか?」

「あぁ、ありがとう。アダ」


 そう答えると、ルシアンは蕩けるような笑みをアダに向けた。


(無駄にキラキラが増えてる気がする……)


 無論、アダに効果はない。


「そういえば、デュークとは話せたかな? 君は話しそうな気がしたのだけど」

「ん、まぁ、話したよ」

「そう、それは良かった。君は本当に辛そうな顔をしていたからね」


 ルシアンは笑う。少しだけ、寂しそうに。


「……どうした? ルシアン」

「ん? 何かあったのかい?」


 可愛らしく、ルシアンは首を傾げた。先程までの表情など、何事もなかったかのように。


「……話したいことがあるんなら、人に話せばいいんじゃねぇか。信用できる奴なんて、皇族ともなれば少ねぇかもしれないけどさ」


 アダがポツリと、それでもはっきりルシアンにそう言った。

 ルシアンは目を見開いたまま黙っている。

 それから、「ふふっ」と少し声を出して笑った。


「じゃあ、君が聞いてくれるのかい? アダ」


「……俺、別に信用されるようなことした覚えねぇんだけど……。まぁ、お前が話したいなら聞くけどさ」

 アダは少し頭をかきつつ、そう言った。アダとしては、ルシアンとの会話は今日以外では編入してきたばかりの挨拶程度である。ルシアンにとってはそうではないのだが。


「……君は、優しすぎるよ」

「は?」

「この貴族社会では、君は純白だね」

「……ホントに何言ってんの?」


 アダの「意味が分からねぇ」と言わんばかりの声に、再びルシアンは笑う。


「いいさ。ただえさえ、大変な君にこれ以上の心労をかけるつもりはないよ。また、君が暇になるような社会になった暁には、聞いてもらおうかな」

「……そんなの、いつになるか分からねぇぞ」

「ふふ、聞いてくれる気満々だね? 嬉しいよ。まぁ、そのときまでにはもっとたくさんの話ができるだろうから、それでいいかな?」

「ん、まぁ」


 アダは読書が好きだ。勉強に使う参考書などもさることながら、物語も。人の人生というのは面白い。


(ルシアンの話も、面白れぇんだろうな)


 アダは楽しみになり、少し笑った。




 そうして、当主学の講義を終えると、数秒後。何かがアダの目の前を通り過ぎた。アダも目では追えたが、何が通ったのかまでは分からなかった。


「おや、デューク。速いね」

「……本日は講義が早めに終わりましたので」


 講義が早めに終わった。とはいえ、講義が終わって数秒後にここまで来れるわけがない。


「お前、なんなの……?」

「私は殿下の護衛となることはできぬが、肉壁くらいにはなれる。だからこうして、毎日殿下のお傍を離れぬようにしているのだ」


 ふふん、とデュークは誇らしげだ。「そ、そうか……」とアダは引きつつ口にする。ふらりとルシアンの方を見ると、呆れたような苦笑が浮かんでいた。


「なぁ、ルシアン。こいつはコレがいつも通りなのか?」

「……うん、まぁ。面白いけれどね」

「……アダっ、其方……殿下になんたる不敬を!? 決して許されることではないぞ!!」


 デュークの怒鳴り声に、ルシアンは柔らかく笑う。


「あぁ、デューク。その辺にしておいておくれ。彼女には私から頼んだんだ」

「さ、左様ですか……」


 ルシアンに窘められ、若干不服しそうな顔をしたデューク。


「んじゃ、俺行くわ」

「そっか」

「……アダ」


 踵を返したアダに、デュークが言う。


「また、な」

「……。おう、また……」

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