XXXVII.わたくしはお暇なのです エルネスタ視点
「オティーリエ、何が楽しいことはないの?」
「……お嬢様、危ない言い方に聞こえましてよ。というか、お暇ならお勉強をなさってくださいな」
「嫌です。折角試験が終わったのに、お勉強なんてしたくありませんっ」
セルベル男爵令嬢、エルネスタ・セルベルはむぅ、と頬を膨らませる。
「アダもこのところ一週間ほどお休みだし、レミィも何故かいないって言うし……」
エルネスタはため息をついた。
「流石にレミィは三日連続だし、もう一度侍女聞きに行きましょ!」
「そう、ですか。やっぱり、まだ……」
レミリアの侍女、ナンシーはコクリと頷いた。
「はい。レミリア様からお休みする、という連絡は来るのですが、何故お休みするのか、どちらにいらっしゃるのかが分からなくて……」
「……それは、心配ね」
オティーリエがそう言った。
エルネスタとレミリアの仲が良いように、侍女であるオティーリエとナンシーも仲が良い。
「……これは、憶測なのですが、レミリア様は魔術具を造らされているのでは、と──」
「魔術具? レミィが優秀だから?」
レミリアは魔術具造りの天才だ。教師からも一目置かれ、将来は研究職に就きたいと言っていた。
「そうです。……詳しくは分かりませんが、当主様はよく、レミリア様に魔術具を造らせていました」
「……そうなのね。ありがとう、ナンシー」
エルネスタはそのままの足で、温室に向かった。入学したときから、よく温室には行っていた。時間帯にはよるが、人が少なくて男爵令嬢であるエルネスタでも行きやすい。
だが、いつもいないはずのそこには、一人の少女がいた。
「……あら、エルネスタ」
「ホル──じゃなかった。ベアトリス。……お久しぶりです」
訂正したエルネスタに、ベアトリスは少しだけ呆れたような視線を向ける。
「いつになったら慣れるのかしら?」
「うぅ、ごめんなさい。……でも、心の中でもベアトリス、の後に様もつけているのですよ!?」
「……フォローになってないわ。少しも」
ベアトリスは小さくため息をつく。
「そういえば、ベアトリスも最近休みがちですよね。どうかしたのですか?」
「……まさか、聞いていないの? ルームメイトなのだから、言っていると思っていたわ」
「……何のことですか? アダはずっと帰ってきてないですし、特に連絡はありませんでしたけど」
エルネスタは首を傾げた。
アダは〈英雄〉関係の事情で少しの間、貴族学院には来られないと聞いている。
「……〈魔王〉復活の噂は知っているでしょう?」
「えぇ。……でも、あれただの噂ですよね? 〈英雄〉様が〈魔王〉を取り逃した、なんて」
「取り逃した、というのは嘘ね。実際は封印されたのよ。殺せてはいない」
「……っ、そんな」
エルネスタは驚く。多くの国民は、〈魔王〉は死んでいると思っている。そして、その〈魔王〉を命を賭して殺した〈英雄〉はすごいのだ、とも。
だが、それは嘘だった。
〈魔王〉は死んでなどいない。
「……それで、アダも〈魔王〉討伐に参加するのよ。それから、〈英雄〉のお二人とレーヴ公爵家の令息たち、それから、わたくしもね」
「ベアトリス様も参加するんですか!? 〈英雄〉反対派筆頭のホルツヴァード侯爵家が?」
「えぇ、そうよ。別にホルツヴァード侯爵家は〈英雄〉が気に食わなくて言ってるんじゃないの。わたくしのおじい様が、〈英雄〉という耳のいい言葉を使って、〈英雄〉を酷使することを憂いたからよ」
「……そんな、過去が」
エルネスタの驚きの声に、ベアトリスは頷く。
「そろそろ、帝国に正式に発表されるわ。その前には、アダも一度は帰ってきてるだろうから」
「そう、ですか。…………あの、ベアトリス。わたくしにもできることはないのでしょうかっ?」
エルネスタの問いに、ベアトリスは彼女をじぃっと見つめた。
「自分で考えなさい。流石に貴女が前戦に出るだなんて言ったら止めるけれど、それ以外で貴女ができることはたくさんあるはずよ」
「……! 分かりました。自分で考えてみます。ありがとう存じます、ベアトリス!」
エルネスタの言葉に、ベアトリスは微笑んで頷いた。
「……そういえば、最近レミリアは?」
「レミィですか? 最近はお休みしているんです。それも理由がよく分からなくて……」
「……気をつけなさい。ノイマン子爵家は、〈英雄〉反対派なのだから」
鋭い目つきで、ベアトリスはそう言った。
確かに、レミリアのノイマン子爵家は〈英雄〉反対派だ。
だが、アダとの関係は良好だし、エルネスタは問題ないと思っていた。それでも、家の事情と言うのはよくあること。中立派だったセルベル男爵家──エルネスタが〈青嵐の英雄〉アダに手を貸すならば、ノイマン子爵家としては面白くないだろう。
「……忠告、ありがとう存じます」
「どうしたら、いいんだろう」
(レミリアも大事。でも、国の危機を救おうとしているアダの力になりたい)
きっと、レミリア自身の話ではないのだろう。ノイマン子爵家がどう思うかだ。
(でも、国の危機なのに、〈英雄〉反対派なんて……)
そうだ。国の危機をアダは背負っているのだ。エルネスタと変わらぬ年で。
「……作ろう、お守り」
(少しでも、アダのためにできることをしなければ!)




