XXXII.共に戦う者たち
貴族学院の休日。アダはフェリシアンと共に、〈英雄〉の屋敷に向かっていた。
先日のホルツヴァード侯爵とベアトリスとの話し合いで、〈魔王〉と直接対決する者たちが決定した。
今回は、その顔合わせである。とはいっても、アダが会ったことないのはフェリシアンの兄の二人だけなのだが。
それから、次の休日からは連携をとる練習をしていくそうだ。流石に〈魔王〉と直接対決するのに、連携がとれていなければ、意味がない。
ちなみに、今は封印を再度かけ直したため、〈魔王〉復活の兆しは見られないらしい。だからと言って、油断はできないのだが。
「なぁ、お前の兄君たちってどんな人なんだ?」
「……いい人ではあるよ。僕にも優しくお話してくださるし。まぁ、癖が強いかな」
「へー」
(まぁ、どんな人か、楽しみだな)
そう思って、アダは窓の外を見つめた。
◇◆◇
「やぁ! フェリシアン。そちらがアダ嬢だね? 話はフェリシアンから聞いているよ」
着いた途端、大きい男性にそう言われ、アダは驚く。
(コイツは長男、次男? どっちだ?)
「シモン、〈青嵐の英雄〉殿が驚いている。まず名乗ったらどうだ」
「あぁ、すみません、兄上」
シモン、と呼ばれた男はそう言って、アダにニコリと微笑む。
「お初にお目にかかる、〈青嵐の英雄〉殿。俺はシモン・レーヴだ。これから、たくさん話す機会があるだろう。よろしく頼む」
「俺はスチュアート・レーヴ。コイツとフェリシアンの兄だ。よろしく」
スチュアートと名乗った男。こちらが長男だ。体格は細めだが、ほどよく筋肉がついている。
そして、シモン。こちらが次男。体格はかなりよい。少し軽薄そうな男だ。
「……よろしくお願いします」
アダはぺこりと頭を下げた。
そのとき、扉が開く。そこにいたのはルネティアだった。
「アダ様、おかえりなさいませ。これで皆様お揃いです」
アダは周りを見渡す。
ここにいるのはアダ、フェリシアン、〈光明の英雄〉、ルネティア、ベアトリス、スチュアート、シモン。
(いつも明るい〈光明の英雄〉様なのに、今日は何だか静かだな)
〈光明の英雄〉は頬杖をつき、何だかぼんやりとしていた。そのオパールの瞳には、何も映していない。
「……〈ヴェヒターの結界〉殿、〈孤影の英雄〉様がいらっしゃらないように見受けられるのですが」
スチュアートがルネティアに問うた。
「本日は欠席です。〈光明の英雄〉様と〈孤影の英雄〉様は多忙の身ゆえ、基本的にはどちらかが出席することになります」
ルネティアがそう説明すれば、スチュアートは「そうですか」と頷いた。
「本日は顔合わせと、お互いのことを知るためです。悠長にやっている暇はございませんので、外に向かいます。着替えられる方は早急に」
ということで、外に出てきた。
「……ねぇ、アダ。なんでレーヴ公爵家がいるのよ……!」
外に出る途中、ベアトリスはアダに声をかけた。
「え、言ってなかったっけ?」
「招待状には書いてあったけれど、そんなので分かるわけがないでしょう!?」
「んー、まぁ、いろいろあんだよ」
「いろいろって何よ……」
アダの適当な説明に、ベアトリスはため息をつく。
そのとき、フェリシアンがアダの肩を叩いた。
「何の話?」
「……レーヴ公爵家と〈英雄〉の一族に、どんなご関係が?」
ベアトリスはフェリシアンに対して敬った態度をとる。
「んー……昔レーヴ公爵家からヴェヒター家に嫁いだ人がいてね」
「……そんな話、聞いたことがないのですけど」
「非公式だったからね。それに、一年くらいで離婚しちゃったから」
「……」
「それで、まぁ一応ヴェヒター家の内情を少しは知ってる僕たちが協力してるってわけ」
ベアトリスは納得のいかなさそうな顔をしていたが、やがて諦めたようだった。
そうして、庭──訓練場につく。
「長い名前の方は愛称か何かで呼んだ方がいいのでは?」
開口一番、そう提言したのは、シモンだった。
「敬称もです。長い名前や敬称について考えながらでは、戦いにくいでしょうし」
「いい案だと思います」
「俺とアダ嬢──いや、アダはそのままかな。他、愛称ある人!」
ルネティアはルネ。トイフェルはフェルト。フェリシアンはリアン。スチュアートはスチュー。ベアトリスはベティ。
「では、アンジェリーネ様は?」
「ん~、そうだね。リーネ、でお願い」
〈光明の英雄〉はニコリと微笑んでそう言えば、ルネティアが目を見開く。
(そういえば、アンネ様って前、ルネティアに呼ばれてなかったっけ。そっちじゃなくていいんかな)
「んじゃ、これでいいな。まぁ、普段接してる人でそれに慣れない、とかなら普通に呼んでもらってもいいんで」
ということで、〈魔王〉討伐のため、彼らは動き出した。
(俺、絶対呼ぶの慣れねぇからなぁ……今まで通りがいいな……)




