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XXXI.ホルツヴァード侯爵

「やぁ、来てくれて嬉しいよ、〈青嵐の英雄〉殿」


 ニコニコと、作り笑顔を浮かべた顔が目の前にある。白髪があるほど老けているわけではないが、貫禄のある男だ。


 彼が、ベアトリスの父、ホルツヴァード侯爵である。


「いえ、こちらこそ、ご招待どうも」


 アダも苦手な作り笑顔を少しだけ浮かべた。いつものことながら、普通の貴族のような作り笑顔では、かなり気持ち悪い顔になってしまうのである。


「お二人共、無駄な探り合いはなしにしてくださいませ。今からするのは、大事なお話ですので」


 ベアトリスがそう言って、アダとホルツヴァード侯爵を仲介する。


「……一体何の話なんだ」


 ホルツヴァード侯爵はベアトリスを睨んだ。

 だが、その睨みを諸共せず、ベアトリスは父に微笑みかける。


「〈魔王〉復活の件について、お話いたしましょう?お父様、アダ」

「なっ」


(ベアトリスが言ってたのはこのことか!)


 ベアトリスは、約束を破るかもしれないと言った。すなわち、秘密を守れないかも、ということだ。


(でも、ホルツヴァード侯爵にそれを伝えて、ベアトリスは何がしたいんだ?)


「どういうことだ。説明しろ、ベアトリス」


 〈魔王〉復活の件は〈英雄〉の一族と皇家だけの秘密なのだ。ついでに、レーヴ公爵家と武官団第一師団には詳しく話しているとか。(最近は他の武官団たちにも教えられつつある)


 他の貴族には、〈魔王〉は〈英雄〉の手によって殺されている、と説明されていたらしい。


「……馬鹿な」

「実際、この前復活しかけたんだよ。ルネティアが止めたけど」

「……ルネティアとは?」

「……〈ヴェヒターの結界〉。そう言えば分かるか?」


 アダの問いに、ホルツヴァード侯爵は苦笑して「あぁ、よく知っている」と頷いた。

 意外と、〈ヴェヒターの結界〉という名は有名らしい。


「この件を知っているのは?」

「皇家、〈英雄〉の一族、〈ヴェヒターの結界〉、レーヴ公爵家、武官団第一師団だ」

「あぁ……レーヴ公爵は皇弟だからな。それに、第一師団には次期公爵も所属している」


 レーヴ公爵が皇弟というのもあるが、実のところはフェリシアンの関係だ。


 フェリシアンがレーヴ公爵家で過ごしているから、らしい。公的にはフェリシアンの両親は離婚したことになっているため、無関係だと思われているのだが。


「それで、ベアトリスはこれで何が言いたい」

「……これは国の危機ですわ、お父様。わたくしは〈英雄〉に手を貸したいと考えております」


 アダとホルツヴァード侯爵は目を見開く。


「何を馬鹿なことを」

「お父様はお忘れになられたのですか?元々、〈英雄〉反対派になったのは、おじい様が力のある者たちを国に利用されないようにしたかったからです。結果的には無理でしたが」


 ベアトリスの言葉にアダは驚いた。この国にいる〈英雄〉反対派など、もう〈魔王〉信徒しかいないと思っていたのだ。


「もう一度言いましょう。これは国の危機です。十二人いた〈英雄〉、そして、それに次ぐ者たちで生き残ったのは〈光明の英雄〉であるアンジェリーネ様ただお一人。それを、当代にいる四人だけでの対処は難しいですわ」


 〈光明の英雄〉か〈孤影の英雄〉が認めた者しか、〈魔王〉の戦いには参加させられないことになっている。その他の武官たちは〈魔王〉と同時に大量発生する魔獣や魔族を対応してもらう。だが、それだと戦えるのは〈光明の英雄〉、トイフェル、アダ、ルネティア。そして、ベアトリスは知らないが、フェリシアンとフェリシアンの兄二人の七人だそうだ。



 これで、確実に勝てるかと言われると、否だろう。フェリシアンも危惧していたことだ。


「元より、ホルツヴァード侯爵家は皇家の剣と言われた家。手を貸さぬ理由はありません」


 ベアトリスの言葉に、ホルツヴァード侯爵はたじろぐ。


 それから、沈黙が部屋を包んだ。


「ハァ……」


 ため息が聞こえる。アダがふっと顔を上げると、ホルツヴァード侯爵はガシガシと頭を掻いていた。


「よかろう。ベアトリス・ホルツヴァード、〈英雄〉の手助けをし、必ずレクメリア帝国をお守りせよ」

「はっ!」


 ベアトリスのキリッとした声が部屋に響いた。

 それから、ベアトリスとアダはお互いを見て微笑み合った。


(頑張ろう、この国の人たちのためにも……!)


 アダはそう決意して、口角をあげた。

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