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XXVIII.贖罪

「……どうする? 二人が行かないなら、俺だけ行ってくるけど」


 アダは寮に戻ってから、エルネスタとレミリアにベアトリスからの誘いの話をしていた。アダとしては、本人たちの気持ち次第だと思っている。


「わたくしはレミィに合わせますよ。どうする、レミィ?」

「……行くわ。ホルツヴァード侯爵令嬢に殴られたわけじゃないし」


 ということで、皆でベアトリスの招待を受けることになった。



 ◇◆◇



「ようこそ。足を運んでくださってありがとう……ヴェヒター様、セルベル様、ノイマン様」


 ベアトリスは自室に、アダとエルネスタ、レミリアを招き入れる。

 中には、大きめのテーブルがある。侯爵令嬢なだけあって、とても豪華な造りだ。


「どうぞ」


 ベアトリスがアダとエルネスタ、レミリアに席を勧めた。



「この度は……申し訳ありませんでした」

「えっ?」


 ベアトリスの頭を下げた謝罪に、レミリアは素っ頓狂な声を上げる。


「いやいやいやっ、顔を上げてくださいませ、ホルツヴァード侯爵令嬢」

「……いえ。ヴェヒター様にも、セルベル様にも、そして、ノイマン様にも、本当にご迷惑をおかけしてしまいましたわ」


 ベアトリスは顔を上げても尚、下を向いて俯いていた。


「謝罪と言っては何なのですけれど、夕食を用意させました」


 豪華な食事が、テーブルに次々と運び込まれる。正直なところ、アダはそれだけで頭が一杯になってしまった。


(うまそう。うまそう。うまそう)


 涎が口の中に溜まっていく。何度か、アダは涎を飲み込んだ。


「もちろん、毒を疑うというなら、手を付けなくても全く構いません」

「食べるぞ、俺は。いいか? いいよな?」

「えぇ、どうぞ」


 アダは礼儀正しく、お祈りをしてからガツガツと食べ始めた。

 言葉遣いに関しては、不問にしてもらっているはずなので、特にアダは気にしていなかった。



 いつも屋敷で食べる料理は、基本的にルネティアの手作りなので、素朴で優しい味がする。だが、それとこれは別だ。たまに食べる贅沢な食事も美味い。


「えぇっ……うーん、じゃあ、遠慮なく」


 アダの食べっぷりを見て、エルネスタとレミリアもオドオドと食事に手を付け始める。目は輝いていたが。貧乏な男爵家や子爵家では、このようなご馳走はあまり食べられないらしい。




 そうして、食べ終わり。


「美味かった。あぁ、チョー美味かった」

「〈青嵐の英雄〉様からそのような光栄なお言葉があったことは伝えておきましょう」


 ベアトリスはゆっくりと、アダからレミリアに視線を移した。その頬にはまだ、赤い跡が残っている。


「……ノイマン様、少し触れても構わないでしょうか?」

「えっ、えぇ、構いませんけど……」


 ベアトリスはそっとレミリアの頬に触れ、呟いた。


「ヒェアリンデ」


 治癒魔法だ。金の光が、小さく光り、少し経つと消えた。すると、傷が綺麗になくなっている。


(治癒魔法……初めて見たな)


 〈光明の英雄〉が光の魔力を持っていることは知っているが、実際に使っているところは、見たことがなかった。実際には、アダが見ていなかっただけで、使ってはいるのだが。


「なんで……こんなことを……」

「元はと言えば、わたくしたちが道を塞いだのが悪いですから。それに、あの子の暴走を止められなかったわたくしの責務です」

「……あれは急なことでしたし、あたしが貴女の言葉を遮ったのも、悪いとは思います」


 レミリアは淡々とそう言いつつ「それに」と言葉を続ける。


「アダの声掛けも、少々口が悪かったとは思いますから」

「……それはスイマセン」


 アダは目を逸らしてそう言った。




「それで、アンタはこれからどうすんだ」

「……どう、とは?」


 アダは少し皆が紅茶を飲んで、一息ついてからそう問うた。


「学院を一人で過ごさなきゃなんねぇだろ?」

「一人で学院生活を乗り切れぬほどやわではありませんよ」


(誰かいた方が楽ではあると思うんだけどな)


 アダとしても、編入前までは友人なんていなくていいと思っていた。

 だが、エルネスタやレミリア、そしてフェリシアンと話して結構楽しい学院生活を送っている。


「…………友達に、ならないか」


 アダの言葉に、ベアトリスは驚きに目を見張った。


「何を言っているのです? わたくしは貴女の友人であるノイマン様を傷つけたのよ?」

「ちなみに、これはレミリアにもエルネスタにも相談した上での話だ。二人共、お前と仲良くしたいと思ってる」

「……ヴェヒター様に無理やり従っているわけではなくて?」


 ベアトリスはレミリアとエルネスタに疑いの目を向けた。だが、二人は真っ直ぐ見つめ返す。


「友達は、多い方がいいですからっ」

「ホルツヴァード侯爵令嬢は、こうやってあたしたちにちゃんと謝罪してくださいました。いい人ってことは知っているもの」


 エルネスタとレミリアの言葉に、ベアトリスは理解できないと言わんばかりに驚いていた。


「馬鹿なの、貴女たち」

「馬鹿かもな。……で、なるの、ならないの」

「……」


 ぐ、とベアトリスはアダが差し出した手を睨む。


「……よろしく」


それから、アダの手を恐る恐る握り返した。もっと繊細かと思っていたが、剣をよく使っているためか固い手だ。


「おぅ、よろしく、ベアトリス」

「えぇ……アダ」


 ということで、なんやかんや、ベアトリスが友達になったのだった。

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