XXVII.ベアトリスからのお誘い
短めです。
アダがベアトリスに勝利し、次の日。
アダには畏怖の目が向けられていた。
貴族学院の女性最強を大敗させたともなれば、噂が回るのも高速だったことだろう。
いつも通り、アダとエルネスタはSクラスの教室に入る。レミリアは少し遅くなるとこのことだ。今日は早めに来ているので、時間がある。そのため、Aクラスのエルネスタもアダに付いてきたのだ。
「……」
教室の中は静かだった。いつもはベアトリスと取り巻きが話しているのだが、今日のベアトリスは大人しく、それでいて堂々と一人で本を読んでいた。聞こえるとしたら、ヒソヒソと陰口を言っている連中の声くらいだろう。
「……今日は静かだねぇ」
「そうだな」
エルネスタの言葉に、アダは頷く。いつも通り自分の席に座ると、ベアトリスの取り巻きが近づいてきた。
「ねぇ、ヴェヒター嬢。良かったら、わたくしたちとお友達にならない?」
「えぇ、それがいいわ。昨日のヴェヒター嬢の戦い、とても良かったもの、えぇ」
「本当にね。あたくし、感動しちゃった」
へらへらと薄っぺらい笑みを浮かべて、ベアトリスの取り巻きたちはアダと話す。
(あぁ……気持ち悪い)
しかも、昨日レミリアをぶった者まで一緒だ。頭がおかしいのでは、とさえ思ってしまう。
「どういう風の吹き回しだ?」
昨日までベアトリスの味方をして、アダやエルネスタ、レミリアを嘲笑っていた連中だ。急にベアトリスを見捨てて、アダに媚びるなどおかしいだろう。
「えぇ? だって、ベアトリス様、大したことなかったじゃない」
「本当にね。あれだけ自分が一番ですー、って顔しながらのあの負けっぷり! びっくりするわぁ」
「しかも、その後の悔しそうな顔と言ったら! もう本当に笑けてきちゃう」
(……こんなに簡単に、人を見捨てられるのか)
このベアトリスの取り巻きたち――否、この女たちの声はキンキンと甲高く、教室内にはよく響く。
ベアトリスにも、とてもよく聞こえていただろう。表情は全く変わっていないが、本を読む手が止まっていた。
「ねぇ、そう思うでしょう、アダ様ぁ?」
「……呼ぶな」
「え?」
「虫唾が走るんだよ。お前らの言動にも。まず俺の名前を呼ぶな」
アダの怒った様子に、女たちは怯む。
「そうやって、上の身分の奴らに媚びを売るのが、お前らの生き方なのかもしれねぇが、そういうのはやめろ。気持ち悪いんだよ。主人が弱いと分かったら、すーぐ次の上位者に媚びへつらう。そんなお前らに比べたら、あそこで堂々と座ってるベアトリスの方がよっぽど高貴だ。プライドを守って、自分自身でちゃんと立ってる。あいつを少しは見習ったらどうだよ?」
すでにもう、女たちは泣きそうな顔になっていた。
気付いて回りを見回すと、クラスの全員がアダに注目している。
(やべ)
クラスの視線に耐え切れられなくなったのか、女たちは逃げて行った。
放課後。元ベアトリスの取り巻きたちはもうSクラスに姿を現さなくなっていた。アダの機嫌を損ねるのが怖いからなのだが。
「ねぇ、ヴェヒター様」
そうアダに声をかけたのは、ベアトリスだった。
ベアトリスは至極いつも通りだった。強いて言えば、取り巻きがいなくなったことくらいで。
(怪我はないっぽいな)
戦いの後に、治癒士に治してもらったのだろう。良かった。
アダは一瞬目を細めたが、すぐに「なんだ?」と問う。
「貴女たちを夕食に招待したいの。セルベル様とノイマン様もね」
「……」
「毒を入れたりなんてしないわよ。お詫びがしたいの」
ベアトリスはアダの警戒する態度に少し目を細めつつ、そう言った。
「……わたくしはヴェヒター家なんかより、ずっと歴史あるホルツヴァード侯爵家よ。非礼を詫びるのは当然のことだわ」
そう言われて、アダは断ることができなかった。




