XXVI.VS貴族学院最強の令嬢
「えー、ベアトリス・ホルツヴァ―ド侯爵令嬢対、アダ・ドティフ・ヴェヒター嬢」
ベアトリスとアダが一歩前に出る。
試合会場には、ベアトリスの取り巻きが言いふらしたらしく、かなり多くの人たちが集まっていた。アダがフェリシアンと同率だったことは知っていても、まぐれだと思っている人が多いらしい。どちらでもいいが。
少し耳を澄ませれば、ベアトリスの応援の方が多い。
試合の監督をするのは、クレメント・コンテ。Aクラスの担当の教師だ。
ベアトリスは豪奢な藤色の髪をポニーテールにして、簡易的な鎧を着ている。
対して、アダはいつも通りの髪形で、普通の制服だ。
(もっとちゃんと着てきた方が良かったかな)
とは言っても、アダにそんな服装など持っていないのだが。
「……そんな服装でよろしいのですか、ヴェヒター嬢?」
「……ないので」
アダは少し気まずそうにそう言った。ベアトリスは特に表情を変えずに、「左様ですか」と言う。
「……では、ハンデは──」
「いらねぇ」
(ハンデもらって勝っても、勝った気がしねぇしな)
ハンデをもらって負けたらもっとイラつくので、どちらにせよハンデはほしくない。
今のところ、アダが負けているのはルネティアだけなのだが。ルネティアにはハンデありでも全敗している。
「えー、じゃあ──始めッ!!」
試合が始まった。
(一回は、様子見するか)
「行かないのであればこちらから行きますわよ……!」
そう言い放ってから、ベアトリスは走る。
アダは杖を剣に変えた。ベアトリスも同じように剣で斬りかかる。
「……くっ」
ベアトリスの剣を、アダは受け流した。
(軽いなぁ……)
体が華奢なベアトリスでは、筋肉を程よく付けているアダに力では敵わないだろう。
(じゃ、今度はこっちから)
「レスツィメーア」
アダは火の矢を作り出す。ついでに、追跡魔法も付けておいた。
矢と並行して、アダも走り出す。
「おらぁっ!」
アダが槍をベアトリスに向ける。ベアトリスは矢とアダの槍を避けなればならない状況になった。
一度避ければ、ベアトリスは矢に追跡魔法が付いていることに気がつきすぐに矢を切る。魔力でできた矢は粒子になって消えていった。
「そんならっ……カルス・レスツィメーア!」
アダは大量の小さな矢を作り出した。幼い頃から魔法を使っていたアダは、規格外に魔力量が増えているのだ。
「なっ」
ベアトリスは驚きつつも、対応しようと剣を杖に変えた。剣より杖の方が魔法変換効率が高いからだろう。
「マジェディ」
魔法を行使すれば、ベアトリスを半球で囲むように防御魔法が出来上がる。
アダはそれを見て、ベアトリスの方に矢を集中させた。
矢が次々と防御魔法に当たっては消えていく。だが、それを繰り返しているうちに、防御魔法にはひびが入り始めた。
アダは矢を生成しつつ、ベアトリスを観察する。
(アイツは矢に集中している。周りを気にしている余裕なんてない)
アダは気づかれないように、音を立てずに動く。
余裕を持って矢を作り置きしておき、アダはレスツィメーアをやめる。それから、杖を剣に変えた。
矢の攻撃をベアトリスは全て防いだ。いくつかひびも入っているが、ベアトリス自身は無傷である。
(意外とやるな)
だが、容赦する気はない。アダは矢の攻撃が終わった瞬間に、ベアトリスを攻撃しようと動く。矢がなくなったことに少し緊張感が薄れていたベアトリスはアダに気がつくのが遅れた。
「……っ」
気付いてからでは遅かった。
ベアトリスは為す術なく、杖で攻撃を受けようとした。
だが、アダの剣はそれをすり抜け、ベアトリスの喉の手前で止まる。
「……やめ! アダ嬢の勝利!!」
コンテの審判にわぁっ、と会場は湧き上がる。中には「あのホルツヴァード侯爵令嬢が負けるなんて……」といった驚きもあった。
試合中に、エルネスタとレミリアの姿を見つけていたアダは二人の方を向く。
それから、バッと拳を掲げた。
エルネスタは嬉しそうに、レミリアは照れくさそうに笑った。
そして、ふとベアトリスの取り巻きの方を見てみる。キャアキャアと騒いでいるかと思えば――失望したような目をしていた。負けて膝を着いたベアトリスの方を見て。
(この目を、俺は知ってる)
アダにも、似たような目が向けられたことはあった。
孤児院の先生だ。それは失望というより、汚物を見るような軽蔑した目だったが、似たような目であることに変わりはなかった。
どういうことだろうか?ベアトリスの言葉を遮っただけで、レミリアを叩くような人たちが、ベアトリスにそんな目を向けるなんて。
(そんな目をして、何を考えているんだ……?)




