XXV. 俺の友達を傷つけるな
「ねぇ、そこ邪魔何ですけど」
綺麗な格好した令嬢たちに、アダはそう声をかける。
(……これ、さっきの――)
主格の令嬢がこちらを見た。確かアダと同じSクラスだった気がする。
アダにしては、かなり丁寧な口調なのだが、相手は令嬢だ。アダがどうでも良さそうに相手を見るが、令嬢たちはかなり憤っている様子である。
アダには全く興味がない。ただ、邪魔だっただけなのだ。この令嬢たちが廊下で立ち話をしている方が悪いとさえ、思っている。実際そうなのだが。
エルネスタは慌てて、目の前の令嬢にへこへこと謝った。
「アダっ、もう! ……申し訳ありません。この子は編入生ですので……どうかご容赦を、ホルツヴァード侯爵令嬢」
「あら、編入生だからって許されるものではなくてよ!」
「そうよ! 何と言っても、ホルツヴァード侯爵のご令嬢ですもの」
「えぇ、知らないとは言えないでしょう?」
ホルツヴァード侯爵令嬢――ベアトリス・ホルツヴァード。帝国内ではかなり有名な貴族だ。それは公爵にも匹敵すると言われる。
そんな令嬢を知らないはずがない、とベアトリスの取り巻きは笑ったが、アダは全く知らない。今日フェリシアンに聞いた、それ以上のことをアダは何も知らないのだ。訓練ばかりで、外に出ても平民街の市場か、城くらいだったので仕方がないとも言える。だが、ベアトリスたちにそれが通じるはずもない。
「そんなに急いでいるのなら、迂回されたらどうかしら?」
「急いでるのに、何で遠回りを貴女に強要されなければならないんです?」
アダの返答に、ベアトリスの眉がピクリと動く。
「あまり調子に乗らない方が身のためでしてよ、次代の〈英雄〉様」
(そういえば、ホルツ――なんとか侯爵家って、〈英雄〉に反対の立場だった……気がする)
「調子に乗った覚えはないですけど? ここって、身分はそれなりに尊重していれば、みんな平等――そうですよね?」
「あら、そんな名ばかりの校則、誰も守っている者などおりませんわ」
「……ベアトリス様がお父様に言いつければ、貴女なんてすぐに不敬罪で捕ま――」
「もうやめてください! アダ、他の道から行くわよ」
レミリアが令嬢の言葉を遮った。エルネスタはアダの手を引き、その場から離れようとしていた。その時だった。
――バシンッ
「ベアトリス様のお言葉を遮るなんて、何たる不敬なのかしら!」
「そうよ、そうよ! そんな傷でも足りないくらい!」
レミリアは倒れていた。取り巻きの一人が、持っていた扇でレミリアをぶったのだ。レミリアは大した怪我ではなさそうだが、頬が赤くなり目には涙が溜まっていた。
ちなみに、遮った声は取り巻きの一人の令嬢だ。ベアトリスではない。
(冤罪じゃねぇか……)
「なぁ……」
アダの低い声が廊下に響いた。元々中性的な声をしているが、こういうときには男性のように聞こえる声。
「貴族っつうのは、人を傷つけても許されんのか? それなりに綺麗な顔しておきながらやることは非人道的だわぁ。じゃあ、俺にやってみろよ。あぁ、それとも魔法戦で勝負でもするか? ――俺の友達を傷つけるな」
ガクガクと、レミリアをぶった女が震える。その間に、ベアトリスが割って入った。
「おやめなさい」
ベアトリスはアダを見上げて睨む。傍から見れば、アダが取り巻きの女を虐め、それを助けたベアトリス――という構図にしか見えない。周りに人がいないのは幸いだっただろう。
「じゃあ、お前が勝負を受けるか?」
アダは挑発的に、身長を生かしてベアトリスを見下す。
「……えぇ、受けて立ちますわ。今日の昼休み、訓練場を押さえておきましょう」
ベアトリスはそれだけ言い残すと、取り巻きたちと去って行った。静かに決意を秘めた顔をしたベアトリスとは違って、取り巻きたちはギャーギャーと騒いでいたが。
「おい、大丈夫か? レミリア」
「大丈夫、レミィ?」
「うん、なんとか大丈夫。ありがとう、アダ。あたしのために怒ってくれて。友達って言ってくれたの、嬉しかったわ」
「……! そ、そういうのじゃねぇし! た、単にあいつらが、うざかっただけだし!?」
アダがそう言うと、レミリアとエルネスタは「ふふっ」と笑った。
「アダって、ツンデレねぇ……」
「ハァ? ツンデレって何だよ」
「ううん、知らないでください。面白いので、このままで」
「仕方ねぇな」
やっぱりツンデレだぁ、とレミリアとエルネスタは思う。
「というか、アダ、ホルツヴァード侯爵令嬢との魔法戦って、大丈夫なの?」
「何? あいつ強いの?」
「そりゃあ、もう。女性陣の中では、もう最強。まぁ、アダが負けることはない気がするけどね……」
「じゃあ問題ねぇだろ」
アダは鼻で笑った。
ベアトリスとのことは、言葉選びは間違えたと思っているが、不敬だったとは微塵も想っていないのであった。




