XXIII.お前はそれでいいのか
二つ名決定から、八か月。夏季休みが終わった。夏季休みは訓練に明け暮れていたのがほとんどだったのだが。
「ホントの話、だよな?」
「そうだよ。嘘をつくわけがないでしょ?」
貴族学院が始まった初日。アダとフェリシアンは会っていた。
フェリシアンに呼び出された、というのが本当のところだ。
「お前が、ヴェヒター家の人間だったって……」
アダは呟く。
そう。フェリシアンは、自身の過去をアダに明かした。もちろん、レーヴ公爵や〈光明の英雄〉には許可を取っている。
「〈魔王〉の件に関しては、僕も参加することになってる。よろしくね、アダ」
「……お前はっ」
平然とした顔で、フェリシアンはそう言った。アダは言い詰まってから、ゆっくりと口を開いた。
「……お前はそれでいいのか」
アダは優しい。貴族での基準では割り切れることも、アダでは割り切れない。
「じゃあ、逆に聞くけど」
「……?」
「君は、勝てると思ってるの?」
「は?」
フェリシアンの言葉に、アダは不可解そうな顔をする。
「前回は〈英雄〉の一族及び、〈英雄の臣従〉の合計十二名の力で、やっと封印がなされたんだよ? しかも、ほとんどがベテランだったわけで。そりゃあ、武官団の協力もあってこそ、魔獣やら魔族やらを近づけずに戦えたのもあるんだけど」
アダはハッとした。
(俺、何を能天気に考えていたんだろうな)
ここまで頑張ってきたんだから、勝てるはず。そんな漠然とした思いが、どこかにあった。
実際のところはどうだろうか? アダ何かよりもずっと強かった〈英雄〉たち十二人で、やっと封印だけ。
封印もすごいことではある。だが、できれば、ここで〈魔王〉による悲劇は終わらせてしまいたい。
「僕は大丈夫だよ。報酬も多く貰う予定だし」
「……お前、金に興味あったのか」
アダは少し驚く。フェリシアンは報酬だけで動くような人間じゃない、と思っているからだ。
「ないよりかはマシでしょ?ま、爵位を得るのはほぼないだろうし、研究員にでもなって、研究費にでも使わせてもらおうかな」
「そう、だな」
フェリシアンは楽しそうに未来を語った。
「……ちなみに、アダのためでもあるから」
「え?」
「アダは危なかっかしいから、僕が面倒見といてあげるよ」
アダは夏期休みに散々扱かれたのを思い出して、ため息をつく。
ちなみに、アダとフェリシアンは共同訓練ということで、ルネティアに扱かれていた。
慣れているはずのアダに比べて、フェリシアンの方が疲れていなさそうだったのが気に食わない。
(今思えば、なんでその時点で気づかなかったんだよって話だけど)
「まぁ、お互い頑張ろ」
「……」
フェリシアンが握り拳をアダに向ける。
「おぅっ!」
アダも握り拳を作り、フェリシアンに思い切っりぶつけた。
フェリシアンが「痛っ」と少し怒っていたのは、また別の話。
◇◆◇
「アダって、レーヴ公爵令息と仲良いですよねぇ」
「……そうだな。話しやすいし」
アダがフェリシアンとの話から帰ってくると、エルネスタがそう言った。
「ふふ、あの氷令息と呼ばれたレーヴ公爵令息を話しやすい……面白いです」
エルネスタは「まぁ、わたくしも思ったよりずっと話しやすい方だとは思いましたけど」と付け加える。
(……氷令息?)
「フェリシアンって、そんな風に呼ばれてたのか?」
「はい。強いですし、気まぐれな感じがあって皆様取っ付きにくかったんでしょうね」
エルネスタはクスクスと笑ってそう教えてくれる。
そのとき、オティーリエが部屋に戻ってきた。丁度アフタヌーンティーの時間だったらしく、トレーにお菓子が載っている。
「あら、おかえりなさいませ、アダ様」
「あぁ、さっき戻った」
「それで、エルネスタお嬢様、勉強は……?」
オティーリエがニコリと微笑んでそう言うと、エルネスタはギクリと視線を逸らす。
「き、気のせいよ……オホホ」
「試験のためにお勉強をするのでしょう!奥様には期待しておいて、と言いながらこれでございますか!?」
「……うぅ、きゅ、休憩だったのよぉ」
「今からが休憩では?」
再びエルネスタはギクリと肩を震わせる。
ということで、エルネスタは部屋に連行され、アフタヌーンティーは少しの間お預けとなった。
ちなみに、オティーリエの言う奥様とは、エルネスタの母親のことらしい。
フー、とオティーリエはエルネスタを部屋に閉じ込めた。
「そういえば、アダ様はお勉強しなくてよろしいのですか?」
「んー、まぁ、夏季休みにある程度の復習は終わってるし、エルネスタに教える分と苦手分野さえ潰せば何とかなる」
「……そのお言葉を、是非お嬢様に聞かせて差し上げたいです」
オティーリエは虚無感のある水色を瞳でそう呟いた。
どうやら、エルネスタは課題を終わらせた後はかなり遊んでいたらしい。まぁ、普通の男爵令嬢としてはかなり高水準の成績らしい。だが、彼女の母はもっと上を目指してほしいのだそうな。
(こればっかりはエルネスタの努力次第だからな……)
しばらくして、苦手分野の勉強をしたりしていると、エルネスタがべそをかいて出てきた。
「アダぁ……また分かんない……。ここ前も教えてもらったはずなのにぃ」
ということで、アダが勉強を教えて、一度休憩時間になった。
「うぅ……やっぱりAクラスは違いますね……。本当にすごいです」
「エルネスタも努力してる時点で偉いと思うけど」
「……アダ、駄目です。今のわたくしを甘やかすと、調子に乗ってしまうのですー!」
自分のことはしっかり分かっているらしいエルネスタはクッキーを頬張りつつ、そう言った。
「ちなみに、アダは次Sクラスを目指すのですか?」
「そう、だな。フェリシアンも次は多分Sに戻るんだろうし……」
フェリシアンは試験中に寝ていてAクラスなので、次寝なければ大丈夫だろう。
(一応、寝ないように言っとくか)
「アダがどんどんわたくしから離れて行っちゃいます……」
「別に寮は一緒だし、大丈夫だって」
「……わたくしだって、頑張ります」
ボソリとエルネスタが呟く。よく聞こえなかったアダが「え?」と聞き返した。
「わたくしも! アダの親友として、頑張るの、です!!」
おー! と言ってエルネスタは意気込む。
(……親友、か)
その言葉だけで、口角がじわじわと上に上がっていく。
「おぅ、頑張れ。エルネスタ」
「はい!」




