XX.殿下と幼馴染
短めです。
「只今戻りました」
「あぁ、戻ったか」
アダとルネティアが屋敷に戻ると、トイフェルが外にいた。
壁には捕らえられ、気絶した襲撃者一名がもたれかかっている。
「そちらに襲撃はあったか?」
「はい。襲撃者が二人、どちらも自害しました」
ルネティアがそう報告すると、トイフェルはため息をつく。ルネティアが追いかけた襲撃者の方も自死していたらしい。
「そうか……。分かった。コレは明日、俺が話を聞こう。ルネティアはコレを地下牢に。アダは早めに休め。明日からは学院だろう」
「かしこまりました」
「分かった」
アダは一人で湯浴みを済ませ、ベッドに沈み込む。
「ハー、疲れた……」
アダはその日、数時間しか眠れなかった。
次の日、アダは馬車で貴族学院に戻った。
貴族学院につき、馬車が止まったのだが――
「あのー、ヴェヒター様? 起きてください」
御者に言われても、起きないアダ。正門の前で待っている馬車はいくつかあるので、後ろが詰まっているのだ。
そのとき、一人の少年が馬車に乗り込んだ。
「えっ……あの!」
御者の制止も聞かず、その少年はアダの身体をゆさゆさと揺らした。
「……おーい。起きろー、アダ」
「ん、んむぅ……フェリ、シアン?」
「うん、馬車後ろが詰まってるから、早く起きて」
フェリシアンは無理矢理アダの手を引き、貴族学院に入った。
「何してるんだよ」
「寝てた」
「いや、分かるからね? それは」
ボーッとしつつ答えるアダに、フェリシアンは呆れて突っ込む。
「何かあったの?」
「……」
アダは黙って俯く。昨日の、死んだ人間のことを思い出した。
アダにとって、自死などおかしいことなのだ。孤児院にいたときでも、死んだ孤児は何人もいたし、そうやって死んだ孤児たちを見てきた。だが、自分から死のうとする者はいなかったのだ。
「……まぁいいや。どうせ、〈英雄〉関連で何かあったんでしょ」
「まぁ……そうだけど。気にならないのか」
「気にならないわけじゃないよ。言いたくないなら、言わなくていいから」
フェリシアンはどうでもよさそうにそう言った。だが、アダのことをどうでもいいと思っているわけではないのだろう、きっと。
「そっ、か」
「ま、どうしようもなくなったら、僕じゃなくても、あのセルベル男爵令嬢とか、ノイマン子爵令嬢とか、ロデス様に相談すればいい」
それだけ言って、フェリシアンは踵を返し、廊下を歩いていく。
「なぁ、なんでルネティアのことを知ってるんだよ?」
「……さぁ、なんでだろーね」
「誤魔化すな! 教えろよ」
「シラナイ、シラナーイ」
すまし顔でそう言った後、フェリシアンは意地悪そうに微笑んだ。
しばらく廊下を歩いていると、前から見知った少年二人が歩いてきた。
「おや、リアンにヴェヒター嬢じゃないか。奇遇だね」
そう言ってニコリと微笑むのは、ルシアン・レクメリア。第三皇子だ。
背後に控え、アダを警戒した目で睨むのは侯爵家次男であり、ルシアンの側近のデューク・メラルティン。
「久しぶり、ルシアン」
「お久しぶりです、殿下」
フェリシアンの気軽な態度に驚きつつも、アダもルシアンに挨拶をした。
アダの素っ頓狂な顔を見て、ルシアンはクスクスと笑う。
「リアンと俺は昔から仲良しなんですよ。ねー、リアン?」
「仲良しじゃないし。ただの幼馴染だし」
「それを世間では仲良しと呼ぶんだよ? 幼馴染、というのは結構仲良しであることが多いからね」
「多い、ってだけでしょ」
今まで、ルシアンはニコニコと感情を見せない笑みだったのだが、フェリシアンの前ではかなりそれが崩れていた。リアン、というのはフェリシアンの愛称らしい。
アダの不敬には激怒していたメラルティンも、フェリシアンの態度にはピクピクと眉を歪める程度だ。フェリシアンが幼馴染だからだろうか。
べたべたとフェリシアンに絡むルシアンに「ハァ……」とメラルティンはため息をつき、フェリシアンに耳打ちした。
「……フェリシアン、早めに切り上げてください」
「デュークさぁ、この状態のルシアンがどれだけ面倒なのか知ってるでしょ……?」
「……存じております」
メラルティンはフェリシアンから目を逸らしてそう言った。
ルシアンを尊敬しているメラルティンでも、そういうところは面倒くさいと思っているらしい。
「はいはーい。ルシアン、一旦終了」
フェリシアンはルシアンを強制的に引きはがした。
すると、すぐにメラルティンがササササーッとルシアンを押して廊下を進んでいく。
(……殿下の扱い雑だな)
「ハァ……朝から疲れた。ルアンのせいだ」
「ルアン?」
「あぁ~、アイツの愛称。流石に学院じゃ言わないけどね。アイツにも呼ばないでって言ってるんだけど」
「ふぅん」
(大変だな、殿下の幼馴染ってやつも)
アダはぼんやりそう思った。




