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XVIII.〈魔王〉の悲劇

「とはいっても、何からお話すればいいのか分かりませんね」


ルネティアは頬に手を当てて、小さくため息をつく。


「……そうですね。では、悲劇のことを事実だけお話ししましょうか」


ルネティアはトイフェルに「それでよろしいですか?」と問い、トイフェルは頷く。




「十三年前――私が九つ。アンジェリーネ様とトイフェル様が十一の頃のことです。そこに現れたのは、〈魔王〉ヴェルシェール。百年に一度、世界の何処かに現れる厄災です」

「ま、〈魔王〉……?」


アダの言葉に、ルネティアはゆっくり頷く。


「彼女は約五百年前、アトリーオストのレッフィルシュット皇国で大きく力を消耗してから、人間界では目撃されてきませんでした」


アトリーオスト――東側の国々の総称だ。ちなみに、アダがいるレクメリア帝国は西側なので、ディーヴェストと呼ばれている。


「ですが、十三年前、突如としてレクメリア帝国に現れました。当時相対したのは、ヴェヒター家先々代当主、先代当主、先代当主夫人、先代当主の従弟、当主、当主夫人、当主の姉、当主の姉の伴侶、当主の弟、そして……アンジェリーネ様。それから、ロデス家当主と当主夫人です」

「……ルネティアやトイフェルは参加してないのか……?」


少しだけ、嫌な予感があった。何故、ヴェヒター家には、〈光明の英雄〉とトイフェルしかいないのか。何故、ロデス家にはルネティアしかいないのか。


「はい。私たちは……置いていかれました」

「……!」

「子供だからです。子供だからこそ、生かされた――。当時、私たちは跡継ぎですからね」


ルネティアは悔しそうに顔を歪める。


「それから、多くの死者を出しつつも、何とか〈魔王〉は封印されました。生存者はアンジェリーネ様、ただ一人ではありましたが」

「……!」


(あぁ、やっぱり……)


「そうして今……〈魔王〉ヴェルシェールの復活が予告されています。今から約一年後と言われています」


そう、一年半前に行った武官団第一師団で予告されていたのは、これだったのだ。


「場所は?」

「この森の奥ですね。その手前にはロデス家の屋敷もあります」

「……そう、か」


アダは俯く。〈魔王〉を倒さなければならないのだ。もちろん、〈光明の英雄〉やルネティア、トイフェルも協力してくれるだろうが、怖いものは怖い。


「アダ様、今回のことを聞いて、逃げ出したいと思いますか?」

「え……? いや、無理だろ。折角、〈光明の英雄〉様に見出してもらってんのに、今更事情を聞いて逃げます~、なんてできねぇよ」

「……それができてしまう人間の方が多いのですけどね」


ルネティアは小さく呟くが、アダの耳には届かない。


「では、このお話は終わりにしましょうか」


ルネティアがそう言うと、トイフェルは立ち上がる。


「明日も仕事があるので失礼する」

「あぁ、また明日」


アダの言葉に、トイフェルは振り向かず頷いた。

続いて出て行こうとしたルネティアを、アダは引き留めた。


「ルネティア」

「はい、何でしょう?」

「ロデス家の屋敷――と封印、見せてくれないか」


アダのお願いに、ルネティアはしばし考える。


「夜ですよ?」

「?? 夜だけど」

「見えにくいかもしれません」

「灯りつければいいじゃねぇか」


ルネティアは少しだけ不服そうな顔をした後、小さくため息をつく。


「……分かりました。ご案内いたします」


そうして、アダたちはバルコニーに出た。歩くには少し遠いので、空中で行くそうだ。


「アレクシア」


ルネティアは自身の魔石獣――アレクシアを出した。アダはまだ魔石獣を持っていないので、飛行魔術で行く。


アレクシアがパクパクと口を動かしている。魔石獣は主が許可を出さねば、他人と会話することができないのだ。

アダは読唇術など取得していない上に、動物の形の口ではもっと何を言っているのか分からなかった。


「……ルネティア」

「すみませんね、アレクシアがうるさくて」


ルネティアはため息をつきつつ、アレクシアに許可を出す。


『わ~、アダちゃんだぁっ! おひさ~。ごめんねぇ、魔石獣って制限が多いから』

「あぁ、久しぶり」


アレクシアがいろいろ話して、アダが少し困っていると、ルネティアがアレクシアの頭を叩いた。


『いったー!! 馬鹿ルネ!』

「馬鹿はどっちよ。……アダ様、一緒に乗りますか?」

「いや、いい。飛行魔法は使いこなせるようにしておきたいし」

「もうすでに使いこなしているのでは?」


ルネティアが首を傾げる。確かに使えるようになってからはかなりの頻度で使っていたのだが、最近は貴族学院にいることであまり使っていないのだ。それに、〈魔王〉と戦うのが魔石獣を得る前になる可能性が高いので、日常的に使えるようにしておきたいのだ。


「まだまださ」


アダは杖を取り出し、飛行魔法を行使した。

ルネティアは「分かりました」と頷き、アダたちはロデス家に向かった。




最近は少しずつ暑くなり出していたので、飛んでいると夜風が気持ちいい。

月は満月で、新月の頃よりは明るく、美しい。だが、星が見えにくくなるのも考え物ではあるな、とアダは思った。


「……アダ様」


すると、前方からルネティアの声が聞こえてくる。あ、と思ったときには灯していた小さな火の塊が消えていた。


慌てて、再び火を出す。

飛行魔法を行使しながら、併用で魔法を使うのは難しいのだ。何かに気を取られるとすぐ計算がぐちゃぐちゃになる。しかも、風が吹くため、移動しながら火魔法を使うのはかなりの計算量を要するのだ。


(無茶な、って抗議したいとこだけど、これができなきゃ〈魔王〉なんて話になんねぇよな……)


「着きましたよ」


計六回の火の付けなおしを行った頃。


ルネティアはそう言って、ゆったりと降り立った。

そこにあったのは、暗くてよく見えないが、ロデス家の屋敷――というには小さい。平民街にある平民の住宅よりかは大きいが、下手をすれば男爵家よりも小さいかもしれない。


「かなり小さいんだな」

「そうですね……ヴェヒター家から枝分かれしたのが五代くらい前ですから、まだまだ繁栄していなかったんですよ」


ルネティアはそう言いつつ、アレクシアを片付ける。

そして、持参したランタンにアダが火を灯し、二人は中に入った。


「すみません、灯りの魔術具は設置していないんです」


ルネティアによると、魔力を込めるだけで火が灯る――灯りの魔術具は最近作られたものらしく、あまり使われることのないロデス家の屋敷には設置されていないらしい。


「本当に何もないのです。……どこを見ますか?」

「……ルネティアの部屋とか?」


何となく思いついたので言ってみると、ルネティアは「分かりました」と言って、クスリと笑った。


「ここです」

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