表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/34

XVII.一時帰宅

 アダは久しぶりに〈英雄〉の屋敷に帰ってきた。

 出迎えはない。


(ルネティアはいると思ってたんだけど……)


 中に入る。灯りはあるものの、人気はなかった。

 厨房やルネティアの部屋を探してみるものの、ルネティアはいない。

 トイフェルはいるのだろうかと思い、アダはトイフェルの部屋に向かってみた。


「おーい、トイフェル、いるかー?」

「……何だ」

 アダが部屋の外から声をかけると、憂鬱そうな声が聞こえてきた。


 それから、ゆっくりと扉が開く。

 髪はボサボサ。目の下には隈があり、肌もカサカサに乾燥していた。アダと会ってから研究ばかりで、この部屋から出ていないのだろうか。食事は食べていそうなので、ルネティアが強制的に食べさせているのかもしれない。


「ルネティアは?」

「……ロデス家の屋敷だ」

「そんなのあるのか?」

「十数年前までは使われていた」


 ふぅん、とアダは思った。ルネティアとアダが一緒にいたのは約二年間。ルネティアはここに住んでいて、屋敷などないと思っていた。


 トイフェルによると、今では屋敷の維持のために掃除婦を雇っているくらいで、あまり使われていないらしい。


「とりあえず、お前は湯浴みをしろ」

「えぇー」


 トイフェルはプイと面倒くさそうに目をそらした。


「とにかく行け!」



 アダはトイフェルを引っ張っていって強制的に湯浴みをさせた。


(アイツ、ヒョロいくせに意外と重い……)


 フゥ、とアダはため息をつく。


「何をしていらっしゃるのですか?」


 バッと後ろを振り向くと、いたのはルネティアだった。人の気配は感じていなかったため、余計に驚く。


「トイフェルを湯浴みに連行してきた」

「左様ですか」


 ルネティアはそれだけ言って、厨房の方に向かっていった。


(……何しようかな)


 夕食ができるまで、時間が余ってしまう。ルネティアの手伝いは、アダがやろうとすると――

『仕事とられた』

 とジト目で見られるので遠慮したいところである。ルネティアは趣味が仕事らしい。もう少しましな趣味を見つけてほしいものだ。


「図書室でも行くか」


 二つ名も、そろそろ決めなければ先代皇帝が痺れを切らしそうだ。

 図書館に入ると、真っ暗だった。まぁ、夜なので致し方ない。

 扉の近くの壁にある魔術具に魔力を込める。すると、たちまち灯りがついた。



 二つ名調べを始めてから数か月経つと、辞書も全て読み終えてしまった。

 これいいな、と思うものはあっても、何だかしっくりこない。

 そうしてアダは物語に手を出した。過去の〈英雄譚〉からあり得ないようなフィクションまで。いろいろな話を読んだ結果――。


「アダ」

「何だ、トイフェル」


 ノックの音と、扉の音で、何となく人が来るのは分かっていた。急にやって来たトイフェルに、アダは本から目を離さずに問うた。


「二つ名は……決まったのか」

「まだ。ま、残り二つで迷ってるけどな」


 トイフェルは「そうか」と呟く。

 アダは本に栞を挟んで、トイフェルを見上げた。髪は濡れているが、雫が落ちるほどでもない。


「そろそろ、アンタの二つ名の理由、聞いてもいいか」

「……俺の二つ名は大したことない理由だ。()()()と違って」

「それでもいいって言っただろ」


 昔、トイフェルの二つ名について聞いたことがある。〈光明の英雄〉が話を通してくれる、と言ったから。

 でも、トイフェルは教えてくれなかった。大したことない理由だから、と言って。


 ハァ、とトイフェルはため息をつく。


「……俺は、一人だからだ」


 アダは目を見開く。孤影――一人きりで寂しげな様子を表す言葉だ。


「お前は一人じゃねぇだろ」

「……は」

「いや、一人じゃねぇだろ? 〈光明の英雄〉様がいて、ルネティアもいるじゃんか」

「…………そうかもな、君にとって」


 トイフェルはひどく寂しそうな顔をして、踵を返した。


「残り二つ、というのは何だ?」

「青嵐か、恵風」

「……青葉のころに吹く強い風……めぐみの風……という意味か」


 トイフェルはすまし顔で言っているが、すごすぎやしないだろうか。


(辞書ほぼそのままじゃねぇか)


そういえば、貴族学院では〈光明の英雄〉に次ぐ二位だったらしい。勤勉だ。


「夕食の時間だそうだ。行くぞ」

「分かった」


(何だったんだ……あの顔は)


 トイフェルの寂しそうな顔を思いつつ、アダは本を胸ポケットに入れて、トイフェルを追いかけた。




「遅かったですね」


 食堂にはルネティアが準備を済ませて立っていた。

 テーブルの上にあるのは、二人分の食事。


「ルネティアは食べないのか」

「……トイフェル様のお許しがありましたら」


 ルネティアはさも当然かのようにトイフェルを見上げた。アダもトイフェルをジッと見つめる。

 二人から見つめられたトイフェルは眉間にしわを寄せてため息をついた。


「問題ない。それに、話をするなら時間を短縮させた方が効率的だろう」

「かしこまりました」


 ルネティアはそう言って軽く礼をし、テキパキともう一人分の食事を準備した。


『〈料理の神〉ルーゴデオに感謝を』


 そう言って、夕食が始まった。特に話すこともなく、無言で食器の音だけが響く。




 食事が終わって、後片付けも済ませると、ルネティアは口を開いた。


「アンジェリーネ様のお部屋に行きましょう」

「あぁ」


 ルネティアの言葉に、トイフェルは頷く。アダも遅れて頷いた。


(〈光明の英雄〉様のお部屋なんて、初めて入るな……)


 アダたちは二階に昇った。二階には、各自の自室がある。使われていない部屋の方が多いのだが。


「……あまりいい思い出ではないのですが」


 〈光明の英雄〉の部屋に入って、中を見回すと、ルネティアは小さく呟く。


 中は緑が基調とされたシンプルな部屋だった。〈光明の英雄〉が帰って来ることは少ないので、あまり使われていないのだろうが、とてもよく手入れされていた。埃一つない。


 アダとルネティアは椅子、トイフェルは椅子がなかったのでベッドに座っている。ルネティアには「従弟とはいえ、座るのはいかがなものかと思いますが」と言われていたのだが。


「では、お話しましょうか」


 ルネティアは真っ直ぐ、アダのエメラルドの瞳を見つめた。

次回は悲劇について語ります…! お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ