XIII.エルネスタの友達紹介
「アダ、少しいいですか?」
部屋にいると、声をかけてきたのはエルネスタだ。共通部屋に出ると、エルネスタが何だか嬉しそうにほわほわと笑っている。
(どうしたんだろう)
「わたくし、アダにお友達を紹介したいのです。よろしいですか?アダと同じAクラスですから、顔は知っていると思うのですが」
「エルネスタの友達なら是非」
「やった。それでは早速、お茶会室に行きましょう!」
はしゃいでいるエルネスタに手を引かれて、アダはお茶会室に連行された。
「ごきげんよう、ヴェヒター嬢」
お茶会室でニコリと微笑んで待っていたのは金髪の少女だ。勝気な印象――というよりは明るそうな印象を抱かせる。エルネスタと雰囲気が似ているとも感じた。
「アダ、彼女はわたくしのお友達の――」
「ノイマン子爵家のレミリア・ノイマンと申します。どうぞよろしく、ヴェヒター嬢」
「〈英雄の一族〉のアダ・ドティフ・ヴェヒターです。よろしくお願いします、ノイマン嬢」
レミリアは貴族らしく、ニコリと微笑む。
アダの苦手な表情だ。感情が読めない。
(しかも、ノイマン子爵家って〈英雄〉に反対の立場だったはずだ。ノイマン嬢はよく紹介されるのを躊躇わなかったな)
〈英雄〉に反対だ、という意見を公表している家は少ない。だが、皇族の協力もあって、そういう家の判別が可能になっているのだ。
家の意思とは違って、レミリア自身は賛成の立場の可能性はあるが、警戒はしておくべきだろう。
「レミィ、アダも本が好きなのよ。話が合うと思うわ」
「そう、なのね。ヴェヒター嬢、お好きな本はありまして?」
「そうですね……」
アダが最近読んだ本をあげると、レミリアの顔が少し驚いて嬉しそうな顔をする。
「あの本、貴族にはあまり人気ではないのよ。むしろ、嫌いな人が多いわ。かなり斬新な考え方だし……」
「それは思ったけど、とてもいい考え方だと感じました」
アダは少しだけ言葉が崩れたが、レミリアは特に気にしていない様子だ。
ブツブツと何かを呟いている。エルネスタは見慣れているのか、いつも通りだった。
「ねぇ、ヴェヒター嬢――いえ、アダ嬢。あたしと友達になってくださいまし!」
レミリアは立ち上がって、アダの手を掴んだ。
(柔らけぇ)
と、場違いなことを思った。アダの手はルネティアとの訓練ばかりでごつごつしているのだ。
ふと隣を見ると、エルネスタも流石にレミリアの行動には驚いたらしく、ルビーの瞳を見開いている。
「あ、すみません、取り乱しましたっ……」
レミリアは掴んでいた手を離して、恥ずかしそうに席に着く。
「……えっと、友達になるのは全く構わないので……その、よろしくお願いします」
「……本当っ、ですか……?」
「まぁ、エルネスタの友達なら悪い人間ではないだろうし」
レミリアは俯いて、「ありがとう、存じます」と小さく呟いた。
(ま、〈英雄〉に反対なら、もっと嫌悪されるだろう。今のところは大丈夫か)
「あ、アダって呼び捨てで。敬語はどっちでも。楽な方でいいです。身分はあまり気にしたくないので」
「分かったわ、アダ。では、あたしもレミリアと」
「分かった。それと、私は言葉遣いが雑なので、気に障ったら教えて」
「……殿方のような喋り方なのね」
レミリアが驚いたようにアダを見上げる。
「気にしないでおいて」
アダがそう言うと、レミリアも頷く。
隣で見ていたエルネスタは(なんだか、業務連絡を話しているみたいだなぁ)とぼんやり思った。
ということで、アダの友人にレミリアが加わりました。
◇◆◇
「アダ、お疲れ様」
「レミリア、お疲れ」
エルネスタからの紹介から一週間。レミリアとは授業終わりに話したり、ペアが同じになったり、と同じクラスであることもあって、一緒に行動することが増えた。
「次って移動だっけ?」
「えぇ、音楽室よ」
持ち物を持って、音楽室へ移動する。
「そういえば、アダって魔法の実技は武術を選んだのよね?」
「あぁ、そうだ。レミリアは魔道具?」
「えぇ。最初の試合はどうだったの?」
アダは少し嫌そうに「同率優勝」と呟く。レミリアは牡丹色の瞳を見開く。
「すごいじゃない。なんで嫌そうなのよ」
「同率なのが気に食わない」
「相手は?」
「フェリシアン」
そういうと、レミリアは呆れたように「それって、レーヴ公爵令息でしょ? それで悔しがれるのはアダくらいね」と言い返す。
レミリアは意外と話しやすい。最初のときの態度から、貴族らしい人間なのかと思っていたが、案外そうでもなかった。
今のところ、嫌悪されているような雰囲気もない。
そうして、授業が始まる。音楽の授業は初めてだ。楽器を演奏するそうだ。
(やったことねぇんだけど、大丈夫か)
とは思いつつ。
「アダ嬢は初めてでしたね」
おっとりした雰囲気の音楽の教師がアダに挨拶をし、アダも挨拶を返す。彼女はソーニャ・ヘイノというらしい。
「では、課題曲を発表します」
課題曲が発表され、各自練習をしていくこととなった。弦楽器の中から好きに選ぶらしい。
アダはギターを選んだ。
使い方をヘイノに教わり、アダもやってみる。
「あ」
切れた、弦が。しかも、弾こうとした瞬間である。
「まぁまぁ、大丈夫ですか、アダ嬢?」
「す、すみません」
「大丈夫ですわ。最初はこんなものです。ゆっくり行いましょう」
ヘイノはおっとり微笑む。アダが再び弾こうとすると、同じような感覚があった。それも二つ。
恐る恐るヘイノを見上げると、流石の彼女でもニコリと微笑みつつ、全く笑っていなかった。
「アダ嬢―――!」
アダはこっぴどく怒られ、ヴェヒター家にはお怒りの弁償請求が。
遠い場所にいるはずのルネティアの憤りを感じて、アダはブルリと震えた。
ルネティア「帰ってきたら説教ですね、アダ様」




