XI.公爵家の三男
「では、はじめ!」
コンテが開始の合図を言い、試合が始まった。
「スバーデ」
「カルス・スバーデ」
アダは杖を剣に変え、レーヴは両手剣に変えた。アダがレーヴに向かって走り、レーヴは迎え打つ姿勢で構える。
アダが切りかかると、レーヴは片手で受け止めた。
(片手で止めんのかよっ!?)
アダは驚きつつも、力を強くした。だが、一向に動かない。
諦めて、アダは後退する。
すると、今度はレーヴが距離を詰め出した。
「……くっ」
レーヴは両手剣を振り回すように動かす。だが、単に振り回しているわけではない。ちゃんと計算して動いている。
(何も考えていないように見えて、めちゃくちゃ計算してるじゃねぇか!)
アダが考えた、ここには来ないでほしい、と思うところに的確に剣がある。何とかよけられているが。
アダが必死に避けていると、レーヴは嫌そうな、面倒くさそうな顔をした。
「……よく動くね」
「こういう訓練は何度もさせられてきたものでな」
「〈ヴェヒターの結界〉だよね、君の師匠」
「……!」
アダは驚いた。〈光明の英雄〉だけが有名な存在で、〈孤影の英雄〉と〈ヴェヒターの結界〉の知名度はかなり低い。
「とても強い方だった」
「戦ったことがあるのか?」
「いいや。見たことがあるだけ」
そう言いつつも、レーヴはクルクルと舞うかのように動き回る。
アダは先程から防戦一方だ。
「えいやっ」
そんな声が聞こえる、背後からだ。
腰辺りに痛みが走る。魔術具のおかげで、怪我はしていないが、痛い。
「ロデス様の弟子って聞いたから期待していたんだけどな」
失望したような声が聞こえる。幼い声が、残酷だ。
(元から期待しろ、なんて言ってない。こいつに期待してほしいわけじゃない。なのに――)
「残念だね」
身体に何かが走る。
アダは唇を噛んだ。痛みがなんだ? 誰が諦めると言った。
「はっ、残念だから何だよ」
頭の中に、少しだけ微笑んでいるルネティアが見える。
(あいつが――ルネティアが、〈光明の英雄〉様が、〈孤影の英雄〉が、誇れる人間に、〈英雄〉になってやるんだ)
「ファレーシス」
大鎌に変える魔法。アダは知らないが、ルネティアの研究魔法だ。まだ世間一般には出回っていない魔法。
レーヴは形のいい金の瞳を見開いた。
アダは大鎌を振り上げる。身体には痛いし、ピョンピョン跳ね回っていたせいで、疲労も溜まっている。正直、これが無理だったら負けだ。
「がら空きなのだけど」
警戒しつつも、レーヴはアダに傷をつける。
「おりゃあっ!」
大鎌を振り下ろした。
パリンッと二つのガラスの割れるような音。
「……」
アダは力尽きて倒れた。
そこには、レーヴも倒れていた。意識はあったが、立ち上がる気力はないらしい。相も変わらず、ボーッとしていたが。
「引き分け! 同率でフェリシアン殿とアダ嬢、二人で優勝とする!」
そのコンテの声は、アダの耳には届かなかった。
◇◆◇
(――様。――ダ様。アダ様)
「ルネ、ティア…………?」
アダはゆっくりと目を覚ます。そこにいたのは、ルネティアではなく――エルネスタだった。
「アダ……!」
「エルネスタ、か」
ゆっくりと、アダは身体を起こす。
「お、起き上がって大丈夫なんですか……?」
「まー、大丈夫なんじゃない?」
聞き慣れ――てはないけど、聞いたことのある声。
対戦相手だった、フェリシアン・レーヴだ。
「レーヴ……殿?」
「普通にフェリシアンでいいよ。僕もアダって呼ぶし」
「じゃあ、フェシリアン。勝敗はどうなった」
「君って遠慮しないね。いいけどさ。……んで、勝敗だっけ。まぁ、引き分けってことになったよ。良かったね」
(引き分けか。クソ、負けるんなら、ちゃんと負けたかった)
「何が良かったんだよ。引き分けなんて」
「何言ってるの、アダ。レーヴ公爵令息って、武術じゃ負け知らずなんだよ?ホントにすごいよ」
「……へー」
だからと言って、引き分けは嫌だ。
アダはフェシリアンに向き直る。
「お前結構強かった。またやろう」
「別にいいけど。あ、でもコンテ先生みたいに突っかかってくるのはやめて。クラス違ってた癖におっきい声で僕のこと呼ぶし、毎日来てたもん。アイツうざい」
貴族の癖に、平民みたいな口調だ。
「……クラス違ってた?」
「あー、僕Sクラスだったんだー」
「じゃあ、なんでAに?」
「……試験寝てた」
何でもないことかのように言うフェリシアンに、ちょっとだけアダは引いた。
(……いくらそこまで真剣じゃないテストとは言え、寝るのはなしだろ)
そうして、アダは貴族学院専属治癒士に「まぁ、大丈夫じゃないかなー。ヴェヒター嬢は丈夫っぽいし」と言われ、エルネスタと共に寮に戻ることになった。
「はー、アダとレーヴ公爵令息の会話、ハイレベルすぎて怖かったです。次はAクラスに行きたい……」
「あのテストってそんなに本気でやるもの?」
「当たり前じゃないですか!Sクラスなんて、皆に認めてもらえますよ!……どうして、そんな結論に至ったんですか」
「……師匠が言ってたから?」
「えぇー。と、とにかく、とても重要なものなんですよ。次は一緒に頑張りましょう」
アダは「分かった」と頷く。エルネスタはまだ気か付いていなかった。アダが本気ではないのに、Aクラスの在籍であることに。




