第十詩 胸中殘異 ─融けぬ雲晻─(2/2)
二話同時更新です
そのままベッドの上で立ち上がり、静かに床へと降りる。
おぼつかない足取りでアスハの横を抜け、アルトの横を抜け、ドアを引く。
そこには、庁舎服を身にまとい大きな正方形の匣を背負った女性が立っていた。
「ご歓談中のところ失礼します」
女性は綺麗な礼をする。
「課長もお休みになられていたようですので時間を改めようと思っていたのですが……よろしいのでしょうか?」
またもやアスハ、クルミ以外の三人がキョトンとする。
その心情はまさに「課長?」である。
言われた本人は意に介さずコクリと頷き女性を室内へ招き入れる。
それを見たアルトは自分たちが居ては行けないと察し出ていこうとする。
「調査の結果については協会経由で神獣庁にお伝えします」
出ていこうとするアルトたちを女性が制止する。
「お待ちください。勇者協会B級勇者、アルト・リンデ・ディ・アルマスフィル殿とそのパーティメンバーのお二方。貴方方にもお伝えしなければいけないことがあります」
女性の言葉にアルトは立ち止まる。
「あ、立ち話もなんだし座って。わたし下から椅子借りてくるからさ」
そう言いアスハは部屋から出ていく。
しばらくしてアスハが戻る。
「お待たせえ。自己紹介は済んでる?」
アスハの問いに女性は首を横に振る。
「いいえ。まだです。改めまして、私は封典庁遺物管理部回収課の副長を務めております、アイリスと申します」
アイリスと名乗った女性は立ったまま礼をする。
未だ困惑するアルトたち三人は、アルトが代表し名乗る。
「ご丁寧にありがとうございます。僕たちのことはご存知かと思いますが、改めて。僕はアルト。右にいるのが魔術師ネル。左にいるのが剣士ルシナです」
アルトに紹介されネル、ルシナはそれぞれ礼をする。
「わたしたちについてはいらないよね。で、アイリスが来たってことは即封印と大事な話があるからだよね」
問われたアイリスは背負っていた匣を降ろし天板の引蓋をずらし開ける。
「はい。九席様の仰る通りです」
そこで部屋の片隅にあった、クルミの符術により封印されていた古代遺物をクルミが持ってくる。
「ありがとうございます。課長」
クルミは匣の中の銀皿に古代遺物を乗せ、どこから伸びているのか分からない鎖を巻き付け、厳重に封印処理をしていく。
天板の引蓋を閉じ、さらに天板に“封“と書かれた符を貼り付ける。
「はい。これで封印は完了しました。遺物に関しましてはこちらで本部まで護送しますのでご安心ください」
ひと仕事終えたアイリスへ向け、アルトが声をかける。
「それで、僕たちに話し、というのはなんでしょうか」
アイリスは咳払いを一つ。
襟をただし、真剣な面持ちで口を開く。
「今回、神調庁より依頼された霊脈異常に関して、王国では“保留“となりました。古代遺物が関わっていた、故に起こった異常である。その確信が持てない以上、これ以上の介入は神調庁、ひいては神獣天人様の“無駄遣い“である。と判断されてのことです」
その物言いにアスハは怒ることなく苦笑いを浮かべる。
「辛辣だねえ」
「また、同様に世界各地で異常がある以上、可動席である九席様には一つの場所に留まらず、各地に赴いてもらいたい。とのご意向でした」
「ヒデ爺の?」
「はい。また、王国の異変解決時の拍ズレですが、変わらず。古代遺物は直接的な原因では無い。以上、神調庁総帥兼神獣庁相談役、神獣天人第一席一亀ヒデタダ、及び神調庁広域調査課課長、神獣天人第七席七梟ナオ」
どこか落ち着かない様子のアルトがスっと手を挙げる。
「質問を、よろしいでしょうか?」
アイリスは頷き、手のひらをアルトへ向け促す。
「今の一連の話、特に…………最後の拍ズレの話ですが、僕たちが聞いてしまっても問題ない内容なんでしょうか。それに、勇者協会と関係のある話に聞こえないのですが」
問われたアイリスは指を二本立てる。
「お話した理由は二つあります。
一つは“勇者協会本部と一部のS級勇者は既知である“こと。
一つは“今後勇者協会経由で将来を嘱望される貴方がたに対し指名で依頼をだす“予定があるからです」
返答にアルトは頷く。
「わかりました。そういう事でしたら、喜んで」
それからアイリスはアスハへと顔を向ける。
「八席様からの言伝です。次の任務までは自由行動とする。追って連絡する。との事です」
アスハは立ち上がり伸びをする。
「りょーかい」
アイリスが匣を背負い礼をする。
「それでは皆様。この度はまことにお疲れ様でした。失礼します」
そう言ってアイリスは部屋から出て行った。
アルトがゆっくりと立ち上がり静かに椅子を仕舞う。
「それでは、僕たちも学園に戻りますね」
アスハは「お疲れさま」と手を挙げ三人を見送る。
「さて、と。自由行動になっちゃったけど、どうする?」
クルミは外に出かける用の外套に袖を通す。
「……ご飯……セシリア、探す」
その物言いにアスハは苦笑する。
「あはは。それじゃあセシリアがご飯みたいじゃん」
いいながらアスハも外用の上着に袖を通し、二人で部屋を出ていく。




