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九魂龍の狐——終わらない願い——  作者: 狐祭 つかさ
第一章 邂逅 ——勇者が產まれる場所——
18/21

第九詩 结下恠怪 ━古代遺物と災難━(3/3)

三話同時更新です

アスハは動く鎧の攻撃を掻い潜り、いなしながら思った。


───今のわたしに二つ同時は萃《あつ》められない、でもネルがいるなら───


「ネル!わたしが殴ったところに極低温の魔法を当てて!」


意図が分からずも指示に従うべく、即座に詠唱を開始したネル。


「少し時間かかります!合図を送ります!」


人で言う太腿部分を殴り動く鎧を少し後退させる。


「りょう、かい!」


一方クルミは空中へ跳躍した。


それを迎撃するように動く鎧の拳が振るわれる。

クルミはその拳へと足を掛け、後方へ大きく跳び退いた。


着地と同時に再び跳躍。

目にも止まらぬ速さで動く鎧へ接近し、伸ばされた腕の真下で静止する。


次の瞬間。

伸ばされたままの腕へと目掛けて飛び蹴り。能力で強化された足裏を叩き込んだ。


衝撃が走る。


動く鎧は体勢を崩し、数歩後ずさる。

その巨体がよろめいた事実が、威力を物語っていた。


少しだけ余裕ができたクルミが自身の符術束を一瞥。

ぼそりと呟く。


「……あと、半分」


この戦闘で既に用意していた戦術符が半分になってしまっていた。

それだけクルミにとっては戦い辛い相手ということだ。


「……節約」


再び一人動く鎧へと向かおうとしたクルミの耳にネルの合図が届く。


「アスハさん!」


合図を受け取ったアスハが振り下ろされた動く鎧の拳を避け、腕を足場に駆け上がっていく。


胸元へとたどり着いたアスハが思い切り拳に力を入れ、振りかぶる。


「師匠直伝。“灼赫《しゃっかく》“!」


直視できないほどの光を発する拳を動く鎧の胸部へと当てる。

そしてすぐさま飛び降り距離をとるアスハ。

すぐにネルからの援護が狙い違わずアスハが殴り、赤熱し白く発光する部位へと直撃する。


──瞬間。

蒸気を勢いよく吹き出し、金属が軋む音が地下空間に響く。

ネルが風の魔法で蒸気を吹き飛ばし、攻撃した部位を確認する。


そこには大きなヒビができていた。

それを確認したアスハはもう一度打撃を与えるため、軽く仰け反った状態の動く鎧の身体の上を飛び移りながら登っていく。

再度胸元へとたどり着いたアスハはもう一度拳を大きく振りかぶり、振り下ろす。


胸元にいたアスハを払いのけようと上体を戻した動く鎧の胸元には亀裂が走っていた。

その亀裂の先にあった──。


ネルの横を一陣の風が通り抜ける。

ルシナが駆け出したのだ。


動く鎧まであと二メートルといったところで大きく跳躍。そのまま狙いを定め亀裂へと剣を突き刺す。


──ヒビの隙間から覗いていた橙色に物体。

心核《コア》は狙い違わず貫かれた。


瞬間。大きな駆動音とも呻き声ともとれる音を発し、動く鎧が後方へと倒れる。

完全に機能を停止したことを確認したルシナは剣を引き抜き鞘へと納める。


クルミの援護へと回るべく二体目へと視線を向けると、ちょうどクルミが空中をくるくると回転しながら後退してきた。


まるで足裏に海綿《スポンジ》でも入っているのではと思ってしまうほど静かにアスハの隣に着地した。


「どう?」


問われたクルミはふるふると首を横に振る。


「……堅い。残り……五枚」


「やっぱりそうだよね」


倒されていた動く鎧は起き上がり、ゆっくりとした歩みで少しずつ近づいてくる。不自然な程に音もなく。

それを一瞥したアスハが作戦を口にする。


「倒し方はわかった。クルミ、跳躍符一枚だけ残しておいて、それ以外は引き続き撹乱に使って」


クルミはコクリと頷く。

残りの符術束を指で弾き、走り出す。


「ルシナさんはさっきと同じね。最後の一撃をお願い」


静かに頷く。

動く鎧の迎撃範囲、ギリギリの位置まで歩みを進める。

深く息を吐き出した。


「ネルもさっきと同じ。準備出来次第合図を送って」


ネルは自慢げに笑う。


「既に準備できてます。魔法に遅延《ディレイ》をかけてるので、いつでも撃てますよ」


言葉を受け、アスハは苦笑する。

前を向き、動く鎧を見据える。

いつでも走り出せるように、切り込めるように剣のグリップを軽く握る頼もしい背中。

その先にまさしく“猫のような速さで“動く鎧を翻弄し撹乱する小さくも頼もしい少女。


アスハは一言、小さく──


「行ってきます」


──と、同時に走り出す。

アスハの拳が再び赤熱するオーラを纏う。

タイミングを見計らっていたクルミが、動く鎧を挑発するように一度止まる。

動く鎧はチャンスとばかりに止まったクルミ目掛け拳を繰り出し地面を叩きつけるが、すんでのところでクルミが走り出す。

アスハの左側を駆け抜ける。


──バトンタッチ。

まさにその言葉が似合うだろう。

振り下ろされ、まっすぐ伸ばされた腕をアスハが駆け上がる。

胸元近くで胸部目掛けて飛ぶ。


拳を振り上げ──


「師匠直伝。灼赫!」


──アスハの拳が胸部へと見事に当たる。


「ネル!」


アスハの呼び声に既に発動体制を整えていたネルから、極低温の魔法弾が発射される。


アスハが殴ったところに寸分違わずネルの魔法弾が直撃する。

魔法弾が当たった部位からものすごい量の蒸気が吹き出し、金属が悲鳴をあげる。


ネルが風の魔法を使い蒸気を吹き飛ばす。


視界が開け、動く鎧の全体が露になる。

口に跳躍符を咥え待機していたクルミ。符を発動し足に力を込めて跳躍する。


動く鎧は熱衝撃の反動で仰け反っていた。直線で狙うことが出来ない。

クルミは一度天井に足を付け、動く鎧の胸部目掛け天井を蹴る。


到底人類(ヒト)には目で追うこともできない速度で跳躍し、衝突。

凄まじい破壊音を響かせ、動く鎧の胸部にぽっかりと大穴が空く。


待機していたルシナは破壊音が轟いた瞬間走り出し、

先程よりも僅かに遅い。

しかし確実に間合いを詰め、動く鎧の丸見えの心核目掛け渾身の突きを放つ。


心核を貫かれた動く鎧はそのまま仰向けに倒れる。

動力部からの供給が絶たれ大きさに見合う傾倒音を周囲に響かせる。


動かなくなった動く鎧の上で、ルシナは心核から剣を引き抜き一振。静かに鞘に納める。


しばしの静寂のあとアスハがため息をつく。


「みんな、おつかれさま」


アスハの言葉でクルミは伸びをし、ネルは胸元に手を当て大きく息を吐き出した。

ルシナは静かに地へ降り立つ。


既に剣のグリップから手は離れている。

その表情に勝利の余韻は無い。

ただ静かに、凛としていた。


クルミの耳がパタリと羽ばたく。


「……起動、停止……回収」


「うん。お願い。でも、さっきと同じで仮停止かもしれない。十分気をつけて」


クルミは頷く。

慎重に、ゆっくりと近づく。


既に完全停止していた古代遺物に手を触れ、白紙の符を数枚取り出し空中へと投げる。

符は古代遺物の周囲で浮遊する。


その光景を見守っていたネルがおもむろに口を開く。


「アスハさん、古代遺物《アーティファクト》ってなんですか。ボクたちの“識っている“ものと随分違うように見えます」


問われたアスハは困ったように眉を八の字にし、少し笑う。


「いったいなんなんだろうね。わたしはその辺あまり詳しくないんだ」


ネルは小さく頷いた。


──瞬間。

空間が大きく揺れ始めた。

遺物の回収を終えたクルミが走って近づいてくる。


「……アスハ……!」


クルミの声を合図に四人は駆け出す。

先頭はクルミ。

ルシナがネルを抱え、その後ろをアスハが殿《しんがり》で追う。

来た道を全速力で引き返した。


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