第九詩 结下恠怪 ━古代遺物と災難━(1/3)
地下へと続く階段は思いのほか狭く、細身のアスハとルシナの二人が並んで歩くこともままならなかった。
四人は仕方なくアスハ、クルミ、ネル、ルシナの順で階段へと入っていく。
階段へと足を踏み入れたアスハは早々に違和感に気づく。
「……これ、材質は何?霊脈石、に見えるけど……。それにしては変に冷たいような」
その言葉に反応したネルが壁へと手を触れ思案する。
「……これは……ボクの認識が正しければ近年研究されている新しい建材ですね」
「新しい建材?」
アスハはさらに訝しげに問いかける。
「どこの国が研究してるかわかる?」
その問いにネルは首を横に振り、続けて答える。
「どこの国が、と言うのは分かりません。ですが、この国にも生産工場はあったはずですよ」
「そっか。それなら怪しくはないのかな」
アスハの呟きにクルミが補足するように返す。
「時代……合わない。そこ、怪しい」
「たしかにそうだね。ヒデ爺の口振りだと旧校舎が使われていたのは数十年も前のことみたいだし」
アスハの疑問にネルが確信を持って頷き答える。
「研究自体の開始時期は不明ですが、製造工場が建てられたのは、ここ十年程だそうですよ。ギルドの記録で読んだことがあります」
「じゃあ人為的に地下が増築されたってことか」
ネルが「そうですね」と頷く。
アスハが確信を持って続けて口を開く。
「つまり━━」
「元凶……この先」
「……うん」
四人は何も言わず再び階段を降り始める。
靴底が床に当たる度、冷たく無機質な反響音だけが四人の耳へと届く。
クルミの光源符だけが頼りの心もとない足元をしっかりと確認し、一寸先の暗闇へと音と光が吸い込まれていく。
———
地下へと伸びる階段は思いの外深く、長かった。
まるで、直接霊脈へと触れようかと思えてしまうほど深く、さらに深くへと続いていく。
降りてきた入口は閉じていない。しかし、閉鎖されていると錯覚できる空間は四人に不要な程の緊張感を与えていた。
——チンッ。
と、鈴のような、金属同士の接触音のようなものが空間を一瞬包む。
先程から時折鳴っている音だ。
発している元は最後尾のルシナ。彼女は他の三人が不要な緊張感を持ちすぎないように、時折こうして「落ち着け」とでも言うように鳴らしていた。
三人もルシナが言葉にできなくとも伝えようとしてくれているのを察し都度落ち着くが、また緊張感が高まってしまう。
先程からその繰り返しだ。
———
どれほど降りたのか分からなくなるほどの地下。
先頭を歩いていたアスハが瞬時に感じ取った。
「止まって」
続けて言う。
「扉がある」
僅かに照らされているとはいえ人類の目では視認が難しい暗闇。ネルが訝しげに問いかける。
「……扉、ですか。ということはその先に?」
アスハは無言で頷き、薄く照らされた扉へと近づく。
扉の目の前へと来た時何を思ったのかネルがクルミとアスハの脇を抜けて扉に近づく。
「何、どうしたの?」
そっと扉に触れながらネルが答える。
「……封印式が組み込まれています」
その言葉を聞いたアスハは眉をひそめる。
「封印……?」
「はい。封印です。正確に言うのなら生体認証付きの錠が掛けられている、と言ったところです」
「……解錠できそう?」
「不可能です。扉の内部に直接彫刻されているタイプのものですので、本人以外解錠できません」
「扉を開けることはできない、か」
その時、フッと軽く息を吐く音と同時に扉に斜めの剣閃が走る。
——チンッ。
と剣を鞘に収める音がする。
誰がやったのか判ったアスハはそっと後ろを振り向き、斬った人物と目を合わせる。
「……ありがとう」
アスハの礼にルシナはひとつコクリと頷く。
先程まで扉を観察していたネルから驚愕の声が上がる。
「今……斬りました?」
ネルは「あれー?」と首を傾げ斬られたはずの扉を再度確認するが、そこに切断痕は無く、先程までと同様の無機質で冷たい扉があった。
「……んん?これ、もしかして……」
ネルはルシナの方へと振り向き確信を持った顔で問いかける。
「式だけ、斬りました?」
問われたルシナはこれまた無言で頷き首肯する
「……閃身、でしたっけ?こんなこともできるんですね」
ネルはルシナなら当然と言いたげに納得し、再度扉へと向き直る。
ことの成り行きを見守っていたアスハは片方の眉をひそめ問う。
「入れるってこと?」
「はい。他にこれといった仕掛けは見られないですね」
アスハは頷き、三人の顔を順に見ていく。
ネルは好奇心と恐怖が同居しているような目でまっすぐに見つめ返し。
クルミは眠たげだが、いつもと変わらない姿にアスハは安堵し。
ルシナは強く、ただまっすぐにアスハを見つめ返す。
「よし。行こう」
言いながらアスハは扉へと手を当て押し開ける。
重いはずの石製の扉は石と石が擦れ合う独特の音もなく、ただ静かに開き四人を招き入れる。
四人は一瞬だけ互いを確認し、意を決し中へと進む。
扉は開け放たれ戻る様子は無い。
四人は侵入者用の仕掛けを警戒しつつも等間隔に並んだ石柱の間を抜けて、奥へと進んでいく。
三本目の石柱を越えたあたりで中心部が見えてくる。
その様はまるで、神殿のような造りをしており、どこか神聖さも醸し出していた。
中心部は雛壇のように一段登る造りになっており、その中央に高さ一メートル程の祭壇。そして、祭壇の上に球体状の物体が浮遊していた。
それを見たクルミがボソリと呟く。
「……古代遺物……」
続けてアスハが言う。
「クルミ、回収をお願い。効果が分からないから慎重にね」
言葉を受けたクルミが一歩踏み出す。




