大耀編儀 ③
おのれぇぇぇ……おのれぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!
首なしとなった御影フメイは盛大に揺らめき、数多の手で失った頭部を手探るなど、明らかな狼狽を見せていた。
「少しは堪えたか?この化け物め!」
頭部が再生の要という仮説が正しければ、これで攻撃は御影フメイに通じる。
……試してやるか、こいつで!
俺は、隙だらけとなった奴の胸部へ飛行し、突き刺さった状態のアストの大剣を両腕でしがみつくように手に取った。
そして——。
「オォォォォォォォォッ!!」
飛行の力と膂力を全開に働かせて大剣を斬り下ろし、奴の胴体に凄絶な裂傷を刻み込んだ。
——どうだ⁉
よくもぉ……!よくもよくもよくもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!
「ッ!」
何だ。
奴の背後で煌めいていた若葉色の輪光が、輝きを増していく。
「なッ……⁉」
同時に。
斬り裂いた傷が、瞬く間に塞がり……完治していった。
再生の要は、あの錫杖ではなかったのか。
叩くべき本当の弱点は——。
よくも神聖なる大耀元主様の御本尊を、破壊してくれたなぁぁぁぁぁぁぁッ!!
「ッ⁉」
全ての掌が、一斉に俺へと向いた。
何が起こるかを察知した俺は、全身を震わす戦慄を振り切り、使用可能となった灰の星珠を即座に自身に発動した。
が——。
既に、回避するタイミングは逸していた。
「ッ、ウオォォォォァァァァァァッ!!」
叩きつける豪雨の如く迫る、四方八方から放たれた錫杖の弾幕は、俺の早まった時の流れなど無視して……全身と左顔面を突き刺した。
その上——。
「ウグァッ……!!」
怯んだ隙に、1本の腕の親指と人差し指で身体を摘ままれ、動きを封じられてしまった。
このまま押し潰されるのか、それとも何か別の凄惨な攻撃を…………。
これから襲い掛かる様々な最悪の未来が脳裏に過る中、俺は失った頭部の間近へ引き寄せられる。
俺の時間操作の効果で緩やかに運ばれるのが、より恐ろしさを助長させる。
くうぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉるぅぅぅぅおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉすぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!
「ッ!!」
奴の首の断面が不気味に蠢き、新たな頭部が付け根から生え出てくる。
髪は前の御影フメイそのままだが……両目はなく、皮膚は痩せこけて硬化し、骨の形が浮き出たミイラのような形相。
こんな姿になることが、奴にとっての理想だというのか?
理解出来ない……!
「ゆぅぅぅぅぅるうぅぅぅぅぅぅすぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんッ!!ゆうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅすぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんんんんんんずぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!きいぃぃぃぃぃすぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁむぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「クッ……!!」
緩慢に聞こえる奴の怨嗟の声など、黙って聞くつもりはない。
辛うじて2つの指から抜け出している右腕に、深紅の星珠の力を宿らせ、全開の火力を即座に奴の顔面に撃ち放つ。
難なく直撃する炎。
奴の右半分は炎に包まれ、長髪にも延焼して激しく燃え広がる。
だが——。
「ッ⁉」
激しかった火勢は一瞬にして静まった。
奴の顔面も長髪も、炎が虚空に消し去られて元通りの風貌へ瞬時に再生される。
……やはりな。
背後の輪光が輝きを増してから、再生の速度は速まっている。
あの輪光こそが、奴の本当の弱点だったんだ!
気づいてくれ、優木ルナ。
チャンスは、奴が俺に注意を向けている今しかない!!
儂が怒りに駆られ、貴様に注意を向けている今が、輪光を破壊する好機。
そう考えているのであろう?人擬き。
阿呆が。
貴様に見せるこの怒りが、偽りとも気づかんとは。
確かに、御本尊を破壊されたことは由々しきこと。
だが今の儂は、貴様らよりも遥か上の存在……大耀元主様の寵愛を受けし、最高善の化身。
いちいち砂利の行為に、荒げた感情など向けるものか。
これは、あの小娘を誘い出す為の策謀よ。
人擬きを完全に消滅するのは容易いが……こうしてわざと弱点を見せ、あからさまな隙を晒せば、集落で待機している小娘は必ずやって来るであろう。
瞬間移動でな。
先の戦いで、小娘が瞬間移動を扱うことは分かっている。
些か、厄介な能力だ。
しかし、来る頃合いが分かれば話は別よ。
儂はこうして人擬きに怒りを向けつつも、既に小娘を迎え撃つ準備を整えておる。
小娘がいつ、どの方向から現れようとも即座に錫杖を放てるよう、下方で儂の腕を多数構えてな。
唯一の懸念点は、小娘の共命理による力の上昇で儂の迎撃を掻い潜られる危険があることだが、共命理を行っている様子は戦闘が始まってから一向にない。
すれば、必ず大規模な現象が現れる。
それが集落から発せられていないということは、まだ奴は切り札として残しているのであろう。
……全く、つくづく愚か者よ。
この儂と相対するというのに、出し惜しみをしようとは。
さぁ、来い小娘!
現れた所で圧倒的数の錫杖を発射して怯ませ、一気に叩き潰してくれる!!
貴様らの策がどれ程浅知恵だったか、思い知らせてくれようぞ——。
「ッ!」
背後から、儂の輪光とは違う黄金の光が発せられた。
黄金の光……間違いない!
来たか小娘ェェッ!!
その攻撃に一縷の望みを懸けて来たのだろう!
共命理もせず、そのような下策で儂を制そうとは、この間抜けめがッ!!
貴様らの行動など疾うに読み切っておるわ!!
この人擬きと同じように、無数の錫杖を浴びせてくれる!!
さぁ、この目でとくと見せてもらおう!望みが潰え、下衆に相応しい絶望の様を!!
儂は首を真後ろへ捻り、小娘の姿を——。
「…………を?」
儂の思惑通り、小娘は瞬間移動で現れた。
だが、何故だ。
何故……共命理をした状態で現れている⁉
その甲冑を纏った姿は、間違いなくエルダーと共命理をした証。
仮にも儂と同じ力に至ったのであれば、何故儂の目にも届く程の現象が現れなかった。
その上、何だ……何だその数は。
5人の分身を召喚することは、先の戦いで知っておる。
分身を引き連れて来ることも想定して、儂は迎撃の態勢を取っていた。
だが……だが…………!
何故、100人もの数の分身を引き連れている⁉
馬鹿な、ありえん!
「「「「「「「くたばれえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」」」」」」」
「クッ……!!」
小娘共が一斉に吠え、理気力で巨大化させた金色の盾を構えて一斉に突撃してくる。
儂はすぐに錫杖をありったけ撃ち放ち、腕を差し向けるも……奴らの怒涛にして堅牢な勢いの前には意味を成さず、弾かれてしまう。
こんな、こんな筈では……!
「ッ!」
来る——!!
「「「「「「「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」」」」」」
一斉に、フメイの背後へ盾を叩きつけた。
衝突した瞬間は頑丈に感じられた奴の輪光も、続々と私の分身達が押し寄せることでヒビ割れていき……粉々に打ち砕くことに成功。
その勢いを止めることなく、フメイの背中に全員で突撃し……奴の身体を衝撃で大きく仰け反らせ、皆の全力を結集して一心不乱に突き出した。
「グオオォォァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
宙を浮遊していたフメイの巨大な身体は沈み、大地を抉りながら倒れ伏した。




