集結するアンチレリジョン ⑤
「よし。すぐに準備へ入ろう!」
「その前に、優木ルナに今の状況を説明しておきたい。優木ルナ、これを見てくれ」
「ルナでいいよ」
「……ルナ、これを見てくれ」
アラタさんは、何もない空中に指をかざして未来的な空中ディスプレイを表示させ、映像を私に見せた。
映されているのは……御影フメイとエルダーが先頭に立ち、飛行している夥しい数の惨鬼と耀昇士を引き連れて、こっちに迫っている光景だった。
「まさか、集落の人達全員を化け物に…………!?」
「御影フメイは勝負に出たのだろうな」
「今の自分が持っている全戦力を使い、全ての人とアンサラーを自分の支配下に置いてしまおうと……そういう魂胆か」
それが、フメイの狙い——。
何て恐ろしく、残酷なことを……!
「奴がどういう腹積もりかはともかく……これが奴の進行ルート、そして算出した敵の数だ」
アラタさんは画面を切り替え、御影フメイ達が矢印でこっちに迫っていることを示したマップを見せる。
画面の右上には、3:06:15から減り続けるカウントダウンタイマー。
そして、中央の上には2種類の数字があった。
タイプA……79、タイプB……216。
「この数字は?」
「敵戦力の数を種類別に分けた。羽虫がタイプAで、奇怪な人型がタイプBだ」
「惨鬼はともかく、耀昇士の数は厄介だぞ」
「どのくらい厄介なんだ?」
「共命理状態で分身した私が、対処に手間取ったぐらい」
あの時、私と分身達が相手したのは6体。
それが約20倍も増えて、迫って来るなんて……!
「……成程、状況説明はこれで以上だ。俺は住民達の避難誘導と、奴らに対抗出来るだけの数を揃えておく……誰1人、被害を与える訳にはいかないからな」
「うん。お願い」
アラタさんは、誰よりも先んじて迎え撃つ準備をするべく、病室を出た。
アラタさんが作る沢山のドローンは、強い味方になる。
アラタさん本人も。
……やっぱり、アラタさんは優しい人だ。
人を守るとなると、こうも動いてくれるんだから。
「俺は1度、報告と強くして貰う為にマスターの元へと戻る」
「強くして貰う?」
「俺達はこうして、マスターから離れて単独行動が可能なのだが……その分、力が半減してしまう。それを解消するには、マスターのドグマ・バーストを直接掛けて貰わないといけないんだ」
「今までのは全力でなかったということか?」
「……すまない。半減している状態でも、君達とクロムの力があれば事足りると踏んでいたんだ。だが、結果として……この判断がクロムを犠牲にしてしまった…………本当に申し訳ない」
ノヴァは私達に、深々と頭を下げた。
「…………セカンドフォームだってこと、知らなかったんでしょ?」
「監視していた仲間からの情報に、その報せはなかった……」
ノヴァは、頭を下げたまま答える。
「教えるべきでない情報を隠しながら、あえて監視をさせ続け……敵を誘い出したのかもしれんな」
「悪いのは直接手を掛けたフメイ。ノヴァは悪くない」
「………………」
「だけど約束して。今度の戦いは、加減なしの全力で戦うってことを」
「勿論だ!約束する……!!」
私はノヴァの頭を上げさせ、握手を交わす。
約束の証としての、握手を。
「それじゃあ、行って来る!」
「遅れるなよ」
「大丈夫だ。そう時間は掛けない」
ノヴァは六星衛装を出現させ……時間を操る灰色の星珠を、自分に発動。
自身の時間を周囲より早めたことによる高速移動で——。
「…………!」
病室を、一瞬にして抜け出した。
「事故らなきゃいいけど……」
これで病室にいるのは、私とセリオスの2人になった。
「では。我々も、我々の為すべきことを為しましょう」
「……うん」
このコアを、私の力に……。
「クロムのコアを、我がものにするという意思を持って、貴女のコアに当ててください。そうすればコアは吸収され、貴女の力となる」
「分かった……」
クロちゃんの力を、私のものに……。
私は、コア同士がくっついて大きくなるイメージを抱きながら、クロちゃんのコアを私の胸にあるコアに当てた。
「ッ⁉」
瞬間——。
「うぅぅぅ、あぁ……ッ!!」
私のコアが部屋全体を照らす光を発して、クロちゃんのコアを吸収を始め——。
初めてコアを身につけた時とは、比較にならない灼熱が……私の内を襲った。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「アイくん達による住民の避難誘導、完了しました」
病棟の屋上にて。
装着している頭部ユニットに、アクトリアのアナウンスが入る。
「敵の動きに変化はあるか?」
「ありません。速度に変化なく……依然、こちらへ進行中です」
「そうか……」
ならばこのまま、兵備を固めるとしよう。
惨鬼というあの羽虫はどうにでもなるとして、問題は耀昇士と呼ばれている奴らだ。
あれを足止めするには、1体につき……少なくとも砲撃ドローン8機は必要だろう。
惨鬼には1機を充てるなら、79+216×8=1807。
……今、こうしてその数になるよう、ドローンを生成し続けているが——。
共命理状態と言えば、流石に堪えるな。
あと、1260……!
「アラタ。大丈夫ですか?」
「……問題ない」
休んでいる場合じゃないからな。
生成が完了した後でも、アイゼン弐式で戦える余力は残せる。
この戦いは絶対に負けられない以上、手を抜く訳にはいかない。
もし俺達が敗北し、フメイによってルナと俺のコアが奪われれば、奴は計5つのコアを獲得。
セブンスワンの勝利は、奴で確定する。
何としても、奴の野望を喰い止めなくては……!
「全く、己の独善でこれ程までの暴虐を行おうとはな」
俺はこの世界の惨劇は全て、人の余裕をが失われた際に起こるものだと考えていたが——。
善意が暴走して始まることもあるとは……。
ますます救えないな、この世界は——。
「……!」
ルナの理気力反応が、著しく上昇している。
これは——!
「ッ!?」
「ドローンの揃えられそう?アラタさん」
「ルナ…………!」
眩しい光と共に、ルナがセリオスを連れて瞬間移動で屋上に現れた。
普段なら、ドグマ・バーストを切らなければ発動出来ないであろう業を、いとも容易く……。
「その姿……セカンドフォームになったんだな」
瞳は金色に変わり、背には淡金の翼。
共命理状態になることで変化していた姿が、彼女1人で成り立っていた。
「うん。鏡見たら目が綺麗な金色になってて、ほら……翼も生えちゃった。あまりに自然過ぎて、生えてることに気づかなかったよ……あは、あはは。あははははははははははッ!!」
「ッ!」
ルナが突如、顔を空に向けて異様な哄笑を上げた。
「あぁ、ごめんごめん!何か、私ハイになっちゃっててさ。凄いんだよ、力が内からどんどん湧き上がって……今すぐ叫びたくて、力を出したくて仕方ないぐらい…………!!」
「……パワーアップしたのは分かった。しかしこれからするのは人を守り、クロムを弔う為の重要な戦いだ。気は引き締めてくれ」
「そうだよね、ちゃんとしないと。うん、ちゃんとする……ちゃんとするよ?私」
精神の高揚。
それが、セカンドフォームの副次的影響なのか?
「じゃあ私、ちょっと結界を張ってくるね。私の結界なら、侵入と耀昇士の光線を防げるから」
そう言って、ルナはまた瞬間移動を発動し、俺の視界から消えた。
結界の純粋な防御効果は、イレイノムに対して働くもの。
俺達アンサラーの戦いでは、能力を空間内に拡張させることが主な活用法だが……彼女の結界はどうやら違うようだ。
そんな結界を張り、守り切れる可能性が高まるのなら結構なことだが——。
「セリオス」
「……何だ?」
俺は、ここに残ったセリオスに問うた。
「彼女は、ずっとあのままなのか?」
「…………今は、精神が力に追いついていないだけだ。時間が経てば、落ち着きを見せる」
「さらに強くなってもか?サードフォームでも、フォースフォームでも、その先も……」
「……………………」
俺は、彼女を見て抱いた疑問をぶつける。
「俺達アンサラーは、人らしくいられるのか?セリオス、アクトリア」
「………………」
「………………」
その沈黙は最早、答えを言っているのと同じだな。
「アラタ……」
「心配するな、今更それで怖気づいたりしない。前に進むと決めたからな」
御影フメイも狂人らしく、人間でなくなることを本望と考えるだろう。
だが、彼女はどうかな。
彼女は果たして、そうなることを望んでいるのか……。
「ッ!」
金色の結界がドーム状に展開され、集落を覆った。




