集結するアンチレリジョン ④
御影フメイが、ここに……!
「その化け物の大群というのは、慚鬼や耀昇士のことか!?」
「……お前は誰だ?」
「ん?あぁ、俺は星戦士のノヴァ。今は彼らと協力関係にあるんだ。よろしく」
「星、戦士……?まぁいい。とにかく2人に会わせてくれ、ここにいるんだろ」
「…………ルナはいる。だが、クロムはもういない」
「何?」
「クロムは、御影フメイの手に落ちた」
「…………彼女の元への案内がてら、何があったか教えてくれ」
俺達3人は、ルナのいる病室へと歩く。
その道中でセリオスは、宗方アラタに自分達のこれまでの状況を話す。
御影フメイ襲撃の一件だけでなく、その前に起きた彼のエルダーの消失のことまで。
宗方アラタは晴れない顔つきで、セリオスの話を聞いていた。
「哀れな奴だ…………」
神尾クロムに対して漏らしたその一言に、侮蔑の意思は欠片もなかった。
「さぁ、今度は貴様の番だ。フメイがこちらにやって来るとはどういうことだ?」
「俺もお前達のように、奇襲を掛けようとした……だがその矢先、奴は大規模な進行を始めたんだ。これを見ろ」
宗方アラタは、何もない空中に人差し指を触れるようにかざす。
「ッ!」
すると、1枚の半透明な映像画面が結像された。
俺達の歩行に合わせ一定の距離を保って下がる、その画面に映し出されていたのは——。
俺の予想通り、数多の慚鬼と耀昇士を引き連れて平原を渡り歩く、御影フメイだった。
映像はその様を、遠方から見下ろして撮影していた。
「この世界で言う所の……百鬼夜行だな」
総勢は、百を優に越えているが。
「これはリアルタイムの中継映像だ。そして、奴の進行方向をマップに照らし合わせると……こうなる」
宗方アラタが空中で人差し指を払うと、映像は地図へとシームレスに切り替わる。
地図には、今の大きく変わった地理を反映されており——。
御影フメイが現在、この集落に進んでいることを矢印で強く表していた。
「それで、この場所が襲われることを知った貴様はここへ……」
「そういうことだ」
右上には、カウントダウンのタイマーがある。
今の奴の歩行ペースからこの場所に辿り着くまで、どれ程の時間が掛かるのかを割り出したのだろう。
表示されている残り時間は、3:17:24。
「時間がないな……」
「あぁ、すぐに迎え撃つ準備をしなくちゃならない。周りの手駒は俺がどうにかするとしても、問題は御影フメイだ」
「まともに対抗出来るのは、奴と同じく2つのコアを持っている彼女だけだが…………」
「戦える状態なのか?」
「……分からない」
1人の少女に、戦いへの期待を寄せなくてはならないとは…………。
星戦士の名が泣くな。
……外が騒がしい。
何かあったのかな。
確かめに行った方がいいのかもしれないけれど——。
動けない。
この部屋の隅っこで蹲ってから、ずっと動けないまま。
心の全部を、重いもやもやが潰していくから。
大事にしていたものが欠けたまま送ることになる、膨大で霧がかった未来の重圧。
私にはそれが、耐えられない。
……クロちゃんは凄いなぁ。
こんな気持ちを抱えたまま、ずっと誰かを守る為に戦ってたんだから。
「クロちゃん…………クロ、ちゃん…………!」
私、何も出来なかった。
アンサラーになっても、クロちゃんの本当の意味で助けになることを何もしてやれなくて——。
クロちゃんは沢山傷ついて、ラスタさんを失って……私を庇って…………。
残ったのは、こんな冷たい石ころ1つ……!
「ッ…………!」
右手に握り締めていたドグマ・コアを、壁に投げつける。
けれど……コアは跳ね返り、私の側に転がって戻って来た。
私が無性に腹立たしくなって、コアを掴んでもう1度投げようとした。
その時——。
「ッ⁉」
鍵を掛けていた部屋のスライドドアが、誰かの手によって強引に開け放たれた。
「おい、無理矢理だぞ⁉」
「時間がないんだ、仕方ないだろう」
ノヴァの注意を気にせず、部屋に入って来たのは——。
あのパワードスーツを纏った、アラタさんだった。
「アラタ、さん?」
「……思ったとおりだな」
アラタさんはベッドテーブルにヘルメットを置き、私の傍まで近づいて私を見る。
「何で……?」
「単刀直入に言う。数時間後に、御影フメイが手下を連れてここにやって来る」
「…………!」
「お前の力が必要だ。奴への迎撃に協力してくれ」
御影フメイが数時間、迎撃に協力……。
そんなこと、急に言われたって。
私、全然——。
「人々を守る為に、頼む」
「…………………………」
返事を返せない。
分かってる。
アラタさんの言っていることは本当で、真剣に私の協力を求めてる。
私は今……どうしても戦わなくちゃいけないんだって。
でも、無理。
戦えない。
戦う力も意志も、内から湧いて来ない。
だけど、それをはっきりと口に出して拒絶する勇気は出なくて、ただ黙っていることしか出来なかった。
「…………………………」
「奴の思い通りにことが進めば、全ての人類が奴の意のままに変えられてしまうんだぞ。それでいいのか?」
「…………………………」
「優木ルナ……!」
「ッ…………!」
膝を抱え込んだ両腕に顔を埋める。
アラタさんの頼みに応えられず、それを情けなく思って涙を流す自分の顔を、同情でも誘っているのかと思われたくなくて。
「………………」
沈黙が、流れた。
覆った視界では何も見えないけれど、きっとアラタさんは私を呆れた目で見ているんだろう。
そうに決まってる。
「……戦えないのなら、それで構わない。その代わりに——」
「クロムのコアを、俺に渡してくれ」
「ッ⁉」
クロちゃんのコアを、アラタさんに。
アラタさんが、私の代わりにセカンドフォームになって、フメイと戦ってくれるってこと……?
「貴様……!」
セリオスが、コアを要求するアラタさんに食って掛かる。
「お前も分かっている筈だ、彼女はもう戦える状態じゃない。だったら俺がやる」
「それでクロムのコアを獲ろうなど、エルダーの私が許すと思うか……!」
「言っている場合か。御影フメイは多くの手下を引き連れているんだ。奴のみならず、その手下どもを纏めて相手するとなれば……今の俺達に勝ち目なんてない」
「クッ……!」
誰かが、このコアを手にして戦わないといけない。
そうしないと、ここにいる人達……。
それだけじゃない、今生きている全員を守れない。
パパも、ママも……。
それなら、アラタさんに託すしか——。
「……………………」
私は顔を上げて、握っていたコアをアラタさんに見せた。
アラタさんは、私に目線を合わせるように片膝をつき——。
「俺に任せろ。クロムの仇は、必ず取る」
力強く、約束をしてくれた。
「ッ!」
だけどその約束は……。
私の意思を、拒絶へと突き動かした。
「駄目……!」
「ッ⁉」
私は反射的にコアを強く握り締め、取られないように身体の後ろに手を引いた。
「…………」
「仇は、私が取る。私が……取りたい…………!」
今のは咄嗟の行動だった。
けれど、段々……自分の中で確かな意志が出来上がっていく。
クロちゃんはもういない、あるのはこのコアだけ。
その唯一残っているものまで、誰かに渡すのは……違う。
コアをアラタさんに渡して、私の知らない所で仇まで取られたら…………絶対に嫌だ。
そんなことしたら、クロちゃんとの繋がりが本当になくなっちゃう。
だから——。
「御影フメイは、私が倒す……!」
「やれるのか?」
「まだ心の中がぐちゃぐちゃで、整理なんて出来てない。それでも……戦う覚悟は、ちゃんとあるから」
ずっとここに蹲ったままでなんか、もういられない。
「分かった。なら、その仇討ち……俺も付き合おう」
「……ありがとう。アラタさん」
「私もお供します。それで貴女に許されるとは思っていませんが……どうか、共に戦う許しを頂きたい」
「俺にも手伝わせてくれ。俺には、その義務がある」
「セリオス、ノヴァ……うん。私達の力で、フメイを倒そう!」
クロちゃん。
私、戦うよ。
必ずフメイを倒して……クロちゃんの仇を取って、クロちゃんのように人を守ってみせる。
だからクロちゃん。
私に、力を貸して……!




