集結するアンチレリジョン ②
本殿内。
腰を掛けた私の前に……不徳を致した慚鬼の世話役と、その妻が立ち並ぶ。
「ほう、逃げられたと?」
「はい……あの不信心者達が起こした騒動に乗じられて…………」
小僧め。
まだ、人としての自我を持っていたとはな。
しかし……逃げた所でどうすることも出来ん。
時間が経てば意思など消え、完全な慚鬼となるだろう。
捨て置いて構わぬか。
「申し訳ありません、教祖さま!どうか、どうかお許しをッ!!」
「私からもお願いします!どうか、主人にお慈悲を!!」
2人揃って跪き、頭を垂れる。
「……人が犯した過ちを許すこと、それもまた善。寛大な心を以て、儂はお前を許そう」
「ッ、教祖さま……!」
「だが、それはそれだ」
「えっ」
私は持っていた錫杖を投げ放ち、顔を上げた世話役の頭部へ突き刺した。
「嫌ァァァァァァァァァッ!!」
「罰は絶対。儂の許しなど関係なく、果たすべきものだ」
刺さった錫杖を操り、私の手に引き戻し……付着した下賤な血を振り払った。
「あなたッ!あなたァッ!!」
「ご、ごガ……キ、キ……コ…………!」
——惨堕。
世話役の肉体は亡骸の如く乾燥した後、割れる音を立てながら委縮し……同時に蒼黒に変色。
最後に、羽虫の形に人体を作り変え、咎人は慚鬼へと成り果てる。
「ギィィ、ギィィィィ……」
「そんな……!どうして、どうしてぇぇぇ…………!!」
「どうしてだと?儂はお主の望み通り、この男を慈しみ……正しき罰を与えたではないか。それの何が不満だというのだ?」
「お願いします、どうか……主人を元に戻してください!そして、もう1度機会をお与えください!!」
「…………離せ」
「お願いします!お願いしますッ!!」
下った罰を受け入れようとせず、儂の足に縋りついて図々しく駄々を捏ねるとは……。
夫妻揃って、不届き者よ。
側近に取り押さえさせるまでもなく、儂は即……惨堕を行うことに決めた。
「ウァッ……!」
この女の背中を錫杖で刺し貫き、理気力を注入。
女の身体は男と同様に、惨鬼へと変貌させた。
「ギィィィィィィ…………」
「こ奴らを小屋に入れておけ。それが終わったら、床の血を忘れず拭いておくように」
儂は足下にいる惨鬼を側近の元へと蹴り飛ばし、小屋への連行を促す。
「はい、只今」
側近は命令通り、すぐに2体の慚鬼を抱えた。
小僧のような特例を除き、惨鬼になった者は変わり果てた瞬間から自我の殆どを失い、儂や信者達の隷属となる。
側近に抱えられたとて、抵抗など1つもせん。
「待て」
儂は、出て行こうとする側近を呼び止めた。
「はい」
「いくら善行を積もうと、1度の愚行で魂は穢れる。努々、忘れるでないぞ」
「……承知致しております」
儂の忠言を聞き届けた側近は、本殿から立ち去った。
「随分と、気が立っているな」
「ッ!」
私の後方。
御神幕によって仕切られた、本殿奥の御鎮座におわす大耀元主様が……私の内情をお見抜きになった。
下手に取り繕うのは、失礼か。
「お見苦しい所をお見せして、申し訳ありません。あの輩共を取り逃してしまったことへの忸怩たる思いが……未だ拭えず、気を揉んでおりました」
「確かに、結果としてあの男のコアは奪えず、あの女の手に渡ったことで……形の上では同等の戦力の相手が生まれた。それに焦りを抱いている訳だな」
「……はい」
「阿呆め」
「ッ⁉」
「戦力が同じ。たかが、それだけの理由で……貴様の世界は揺らぐのか?」
「………………!!」
「その程度で亀裂が走る……柔なものではなかろう?貴様の真実は」
「……はい!その通りでございます!!」
そうだ。
儂は何故、こうも気が滅入っていたのだ。
持っているコアの数が同じ?
だから何だ。
真実は儂にあるのだから、儂が勝つに決まっているではないか。
太陽元主様が、儂の目の前に顕現されたあの日から……儂の求道は極まっている。
他の矮小な理想に覆されるものではない。
決して……!
「知らしめてやろうではないか。道理は我らにあると」
「ッ!では……とうとう、ご許諾を頂けるのですね!?」
「あぁ。今こそ決行に移す時だ——」
「全ての者に審判を下す……大耀儀遍を」
「……………………!」
大耀元主様の御前で、お見苦しい姿を見せるのは無作法であるが——。
喜びで打ち震える身体が、どうしても止まらん。
時は、満ちたのだ!
「戻りました」
側近が、丁度よく本殿へと戻って来た。
「おい、今すぐ住民達を境内へ集めろ。緊急集会だ」
「ッ!?まさか……!」
「大耀儀遍を行うことを、大耀元主様がお認めになったのだ!!」
「ッ……!すぐに!!」
御扉から見える景色は、眩い日差しに照らされている。
朝までは雨が降り続けていたというのに……まるで、信仰の成就を暗示しているようではないか。
遂に本願が叶う!
誰にも理解を得られぬ孤独の中で……何年も、何十年も祈り続けてきた我が信心が、遂に結ばれるのだ!!




