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Seventh Øne  作者: 駿
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88/93

集結するアンチレリジョン ①

「アクトリア、ターゲットは?」

「依然、単独で移動しています。到達まで……残り2㎞」

 朝方。

 天を覆う暗雲が陽光を遮り、猛烈な雨が地に降り注ぐ悪天候の下で——。


 俺はアイゼン弐式で空を駆け、捕捉したターゲットを追跡していた。


 ターゲットは、ルウと呼ばれていたあのアンサラーの少年。

 ずっと彼の理気力反応をドローンで捜索し続け、やっとこさ掴むことが出来た。

 もう、逃がしはしない。

 ルウとは、今度こそ決着をつける。

 既にエルダーはいないんだ、戦力差は圧倒的だ。

 それに奇妙なことだが……ルウから発せられている理気力反応は酷く微弱になっている。

 捉える前に、彼と他アンサラーの間で戦闘が起こって、彼はその敵から逃げている最中なのか?

 ……訳は、会えば分かることか。

 もうすぐルウの元へと辿り着ける。


「アラタ。2時の方向、300m先に彼がいます」

「ッ!」


 見つけた、あそこか。

 俺はウイングスラスターの噴射口を調整して降下体勢に入り、地面に降り立った。

 荒れ果てた田畑に囲まれた1本道で——。

 俺とルウは、対峙した。

「…………あっ……………………」

 雨除けをせず全身を濡らし、今にも倒れそうな程にぐらついて歩くルウは、俺を見て足を止めた。

 着地する際の音は聞こえていなかったようだ。

「あっ、あぁ……!あぁぁぁ…………!!」

 突然現れた俺に面食らうルウ。

 俺はそんな彼の気分を静めさせるべく、頭部ユニットを脱ぎ捨てて……言い含めに打って出た。

「落ち着け、俺はお前を殺すつもりなんてない。俺は…………お前の足をどうにかしたいと思ってる」

「……………………」

「俺なら、お前に合う義足を能力で作ることが出来る。コアを渡して貰うという条件はつけるが……何1つ不自由のない暮らしを届けると、約束する」

 あの子に伝わっているかは分からないが、俺は本心で言っている。

 あれだけ傷つけておいて今更何なんだ、と思われても仕方はない。

 あの時の俺は視野が狭まっていて、倒すことしか考えられなかった。

 敵として戦った奴など、信用出来ないかもしれない。

 それでも今の俺は、この子と戦うことなく決着をつけたい。

 どうしても駄目だったら、その時は…………。

「……ろ…………」

「頼む。お前の理想の全てを叶えられる訳じゃないが、どうか……これで手を打って欲しい」

「こ……ろ……て…………」

「?」

 何て言った?

 打ちつける雨の音で、よく聞こえない。

 俺は警戒されないよう慎重に歩み寄る。

「ッ!?」

 しかし、近づいたことで俺は気づいた。


 彼の胸に、コアがないことを。


「お前……コアはどうした!?」

 コアがあった胸は、最初から何もなかったように、跡もなく元に戻っていた。

「……取ら、れた…………」

「一体、誰にだ……!?」

「み、御影……フメイ…………!」

「ッ!」

 御影フメイ。

 グラスティウスで妙な虫を俺達にけしかけた、緑のコアの老人か。

 ルウは俺と会う前に、コアを…………!

 今のルウの足は、体内に残った僅かな理気力で維持しているのか。

「お願いだ……」

「お願い?」


「僕を……殺して…………」


「ッ!?何を言ってるんだ!」

 敵でなくなった者を、どうして殺さなきゃならない。

 他のアンサラーにコアを手に入れられたのは重大なことだが——。

 俺はこの子に対して、殺してでも奪うという選択肢を取らずに済んで、安堵すら感じている。

 殺す理由なんて何もない。

「安心しろ。コアがなくたって、義足はちゃんと作る。お前はもう、誰かと戦う必要なんかないんだ」

 俺はルウの両肩に手を置いて宥めようとするが、ルウは振りほどいて拒んだ。

「もう、駄目なんだよ……おしまいなんだ…………僕は……………………!!」

「……どういうことだ?」

「お願いだ……!僕を殺してくれッ!!殺して……フメイを倒してくれ…………!!」

「ッ、おい……!」

 ルウは俺の右腕を掴み、自分の腹部に押し当てる。

 ……このビーム砲で、自分を殺せってのか!?

「落ち着け!お前は今、何に苦しんでる!?俺に分かるように話してくれ!!」

「お願いだッ!僕が人間である内に、殺し……て…………こ、ろ……………………」

「……!?」

 自分を殺せと執拗にせがんでいたルウが突然、呆然とし……俺の腕を離し、よろめきながら下がり始めた。

 正気を、失っている?

「こ、ろ……し…………こ、ここ……こ…………………………」

「ルウ…………?」


「ころろろろロロロロロロロロロロ」


「ッ!?」

 ルウの身体が、溶解する。

 骨と肉は地面に溶け、雨によって忽ち側溝へと流れ落ち——。

 肉体の内側に潜んでいた、虫が顕になった。

 御影フメイが使役した虫と酷似した形を持ち、ルウと醜く爛れさせたような顔をした……虫。

「……………………」

 そういうことだったのか。

 ルウは、御影フメイによってコアを奪われ……虫に変えられながらも、逃げ出したんだ。

 人の形……いや、人間の尊厳を必死に保ちながら。

 でも、もう人としていられないことを悟って——。

 だから、現れた俺に殺せと言ったんだ。

 せめて人間のまま、生涯を終わらせたいと願い……。

 俺は、それに応えられなかった。

「ジジジジジジィィィィィィィィッ!!」

「………………………………」

 ルウは、完全な虫になってしまった。

 目の前の俺を、声で威嚇し……羽を開いて飛び掛かる。

「済まない……」

 彼がこうなってしまった責任は、俺にある。

 あの時、俺が冷静で……今の案をルウに示していたら、こんな結末にはならなかったかもしれない。

 子供らしく、アンサラーとして争うことのない、平和な暮らしを送れていたかもしれない。

 俺は……そんな可能性のある未来を、潰してしまった。

「済まない…………!」

 俺は後腰部のビーム砲を即座に展開し、光線を放射。


 迫り来るルウを光で呑み……雨粒諸共、煙へと変えた。


「…………………………………………」

 痛みは、一瞬だった筈だ。

 ……こんなことしか、彼にしてやれないなんて。

「仇は取る…………」

 お前にそんな仕打ちをした非道は、俺が討つ。

 討って、お前の抱いた無念を必ず晴らしてみせる。

 それが俺に出来る、せめてもの手向けだ。

 俺は地面に放っていた頭部ユニットを、被り直す。

「アクトリア」

「はい」

「次に狙う標的を決めた。御影フメイだ」

「…………承知しました」

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