集結するアンチレリジョン ①
「アクトリア、ターゲットは?」
「依然、単独で移動しています。到達まで……残り2㎞」
朝方。
天を覆う暗雲が陽光を遮り、猛烈な雨が地に降り注ぐ悪天候の下で——。
俺はアイゼン弐式で空を駆け、捕捉したターゲットを追跡していた。
ターゲットは、ルウと呼ばれていたあのアンサラーの少年。
ずっと彼の理気力反応をドローンで捜索し続け、やっとこさ掴むことが出来た。
もう、逃がしはしない。
ルウとは、今度こそ決着をつける。
既にエルダーはいないんだ、戦力差は圧倒的だ。
それに奇妙なことだが……ルウから発せられている理気力反応は酷く微弱になっている。
捉える前に、彼と他アンサラーの間で戦闘が起こって、彼はその敵から逃げている最中なのか?
……訳は、会えば分かることか。
もうすぐルウの元へと辿り着ける。
「アラタ。2時の方向、300m先に彼がいます」
「ッ!」
見つけた、あそこか。
俺はウイングスラスターの噴射口を調整して降下体勢に入り、地面に降り立った。
荒れ果てた田畑に囲まれた1本道で——。
俺とルウは、対峙した。
「…………あっ……………………」
雨除けをせず全身を濡らし、今にも倒れそうな程にぐらついて歩くルウは、俺を見て足を止めた。
着地する際の音は聞こえていなかったようだ。
「あっ、あぁ……!あぁぁぁ…………!!」
突然現れた俺に面食らうルウ。
俺はそんな彼の気分を静めさせるべく、頭部ユニットを脱ぎ捨てて……言い含めに打って出た。
「落ち着け、俺はお前を殺すつもりなんてない。俺は…………お前の足をどうにかしたいと思ってる」
「……………………」
「俺なら、お前に合う義足を能力で作ることが出来る。コアを渡して貰うという条件はつけるが……何1つ不自由のない暮らしを届けると、約束する」
あの子に伝わっているかは分からないが、俺は本心で言っている。
あれだけ傷つけておいて今更何なんだ、と思われても仕方はない。
あの時の俺は視野が狭まっていて、倒すことしか考えられなかった。
敵として戦った奴など、信用出来ないかもしれない。
それでも今の俺は、この子と戦うことなく決着をつけたい。
どうしても駄目だったら、その時は…………。
「……ろ…………」
「頼む。お前の理想の全てを叶えられる訳じゃないが、どうか……これで手を打って欲しい」
「こ……ろ……て…………」
「?」
何て言った?
打ちつける雨の音で、よく聞こえない。
俺は警戒されないよう慎重に歩み寄る。
「ッ!?」
しかし、近づいたことで俺は気づいた。
彼の胸に、コアがないことを。
「お前……コアはどうした!?」
コアがあった胸は、最初から何もなかったように、跡もなく元に戻っていた。
「……取ら、れた…………」
「一体、誰にだ……!?」
「み、御影……フメイ…………!」
「ッ!」
御影フメイ。
グラスティウスで妙な虫を俺達にけしかけた、緑のコアの老人か。
ルウは俺と会う前に、コアを…………!
今のルウの足は、体内に残った僅かな理気力で維持しているのか。
「お願いだ……」
「お願い?」
「僕を……殺して…………」
「ッ!?何を言ってるんだ!」
敵でなくなった者を、どうして殺さなきゃならない。
他のアンサラーにコアを手に入れられたのは重大なことだが——。
俺はこの子に対して、殺してでも奪うという選択肢を取らずに済んで、安堵すら感じている。
殺す理由なんて何もない。
「安心しろ。コアがなくたって、義足はちゃんと作る。お前はもう、誰かと戦う必要なんかないんだ」
俺はルウの両肩に手を置いて宥めようとするが、ルウは振りほどいて拒んだ。
「もう、駄目なんだよ……おしまいなんだ…………僕は……………………!!」
「……どういうことだ?」
「お願いだ……!僕を殺してくれッ!!殺して……フメイを倒してくれ…………!!」
「ッ、おい……!」
ルウは俺の右腕を掴み、自分の腹部に押し当てる。
……このビーム砲で、自分を殺せってのか!?
「落ち着け!お前は今、何に苦しんでる!?俺に分かるように話してくれ!!」
「お願いだッ!僕が人間である内に、殺し……て…………こ、ろ……………………」
「……!?」
自分を殺せと執拗にせがんでいたルウが突然、呆然とし……俺の腕を離し、よろめきながら下がり始めた。
正気を、失っている?
「こ、ろ……し…………こ、ここ……こ…………………………」
「ルウ…………?」
「ころろろろロロロロロロロロロロ」
「ッ!?」
ルウの身体が、溶解する。
骨と肉は地面に溶け、雨によって忽ち側溝へと流れ落ち——。
肉体の内側に潜んでいた、虫が顕になった。
御影フメイが使役した虫と酷似した形を持ち、ルウと醜く爛れさせたような顔をした……虫。
「……………………」
そういうことだったのか。
ルウは、御影フメイによってコアを奪われ……虫に変えられながらも、逃げ出したんだ。
人の形……いや、人間の尊厳を必死に保ちながら。
でも、もう人としていられないことを悟って——。
だから、現れた俺に殺せと言ったんだ。
せめて人間のまま、生涯を終わらせたいと願い……。
俺は、それに応えられなかった。
「ジジジジジジィィィィィィィィッ!!」
「………………………………」
ルウは、完全な虫になってしまった。
目の前の俺を、声で威嚇し……羽を開いて飛び掛かる。
「済まない……」
彼がこうなってしまった責任は、俺にある。
あの時、俺が冷静で……今の案をルウに示していたら、こんな結末にはならなかったかもしれない。
子供らしく、アンサラーとして争うことのない、平和な暮らしを送れていたかもしれない。
俺は……そんな可能性のある未来を、潰してしまった。
「済まない…………!」
俺は後腰部のビーム砲を即座に展開し、光線を放射。
迫り来るルウを光で呑み……雨粒諸共、煙へと変えた。
「…………………………………………」
痛みは、一瞬だった筈だ。
……こんなことしか、彼にしてやれないなんて。
「仇は取る…………」
お前にそんな仕打ちをした非道は、俺が討つ。
討って、お前の抱いた無念を必ず晴らしてみせる。
それが俺に出来る、せめてもの手向けだ。
俺は地面に放っていた頭部ユニットを、被り直す。
「アクトリア」
「はい」
「次に狙う標的を決めた。御影フメイだ」
「…………承知しました」




