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Seventh Øne  作者: 駿
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謎のグレイと絶望のシュウリ ④

 俺はすぐに弾丸を目で捉え、弾こうと槍を動かすが——。

「クッ、ウゥッ……!」

 弾丸を弾き切れずに押し負けて後退り、身体の体勢を崩されてしまう。

 隙を見せまいと、急ぎ体勢を立て直した時には、既に——。

 シュウリは階段の手すりの親柱を足蹴に跳躍し、俺に迫っていた。

 俺は、防ぐこと叶わず——。

「グァッ……!」

 奴の空中で繰り出される左の回し蹴りを、首に受けてしまった。

 視界が、歪曲する。

 再び俺は床に張り倒され、転げ回った。

 転がる中で、反撃の黒塊弾を放とうとするが——。

「ッ……!」

 理気力の溜まりが遅く、狙い撃つタイミングを失った……!

「どうした?俺を倒したいんだろ?」

「ク、クソッ……!!」

「……思い知らせてやるよ。お前の意志、お前の語る言葉が……どれ程無力なものかを」

「ッ⁉」

 シュウリの手元に得物が出現し、その手に握られた。

 俺の持つものと同じサイズと形の、赤柴の短槍が。

 同じ武器を持って戦っても、自分の方が優れているとでも言うつもりか……!

「さっさと来い」

 シュウリは武器を構えず、倒れている俺を手招きで挑発する。

 ——上等だ!

「オオオオォォォォォォォッ!!」

 挑発に乗った俺は起き上がりざまに駆け出し、シュウリへと突撃。

 槍を、思い切り突き出した。

 だが——。

 俺の本気の一突きは、軽く奴の槍に受け流され、下に押さえつけられてしまう。

「ッ……!何故、俺と同じ槍を…………!」

「理を否定するという点において、俺とお前は同じだ。思想はまるで違うというのにな」

「このぉッ……!」

 俺はシュウリの顔面に頭突きを繰り出す。

 しかし、一歩引かれたことで攻撃を透かされ、奴の両足を揃えて突き出す蹴りが胸部に迫る。

 俺は、右肩を身代わりにして蹴りを受けて凌ぐが——。

「ッ⁉」

 衝撃で退いた所へ……奴の槍の穂先から放たれた、黒塊弾に似た飛び道具の追撃を腹部に喰らわされてしまった。

「カハッ……グフッ…………!!」

 衝突と炸裂、内臓にめり込む二重の激痛が俺を襲う。

 嫌が応にも身体は膝から崩れ落ち、息が詰まる。

「神尾クロム……お前は誤解している。俺が憎いのは、苦しみばかりの人生じゃない」

「ッ!」


「お前のような希望を語る輩に導かれ、存続し続ける世界そのものだ」


「何、だと…………⁉」

 シュウリが、槍を振り上げて襲い掛かる!

「夢は叶う……きっと何とかなる……いつかは報われる。お前のような奴は責任感もなく平気で希望を宣い、それを餌に人々を誑かす。信じ切ったが故に、更なる絶望へ叩き落とされる人間がいようとな」

「ッ、クッ……グゥッ……!!」

 叩きつけるように振り下ろされる、槍の連撃。

 表情から見えなくても、シュウリが俺に怒りを抱いているのが力強さで伝わってくる。

 刃が俺に当たらないよう、下がりながら槍で受け続けるのがやっとだ……!

「希望とは甘い毒。殆どの人間はそれを害あるものと認識出来ずに踊らされ、苦しみ続けた挙句……非業な末路を辿る」

「そんなこと——!グハッ!!」

 顎を蹴り上げられ、壁面に打ちつけられる。

 これが、決定打となってしまった。

 怒りで誤魔化し、動かし続けた身体は限界を迎え、力も入らず……壁にもたれ、崩れ落ちた。

「遊びは終わりだ」

 シュウリは、槍を放り捨て——。

 空いた右手を、胸のドグマ・コアに当てた。

「ッ⁉」

 右腕に宿る、赤柴の理気力。

 それは本人よりも巨大に膨れ上がり、不規則に蠢いて体をなし……。

 奴の右腕は——。


 人体を容易く喰い破る牙を生え揃えた、等身大の狼の頭へと変貌する。


「これは…………!」

 赤柴のみの体色、白く光る瞳孔のない両目、怪物じみた凶悪な外見は——。

 イレイノムの姿を彷彿とさせた。

「イレイノムによる、安らかな消滅。それこそが、希望の蔓延する世界が迎えるべき……最良の結末だ。その滅びを邪魔するアンサラーは、俺が潰す」

「ウゥ、クッ……!」

 シュウリが狼の大顎を開き、俺の方へと近づいて来ている……!

 あの牙の餌食となれば、俺の肉と骨など容易く喰い破られ……血を床に撒き散らして貪られる。

 絶対に逃げなきゃならないのに、身体が指1つ動かない!

 奴が1歩……また1歩、俺との距離を詰めていく程——。

 想像もし得ない苦痛に塗れて喰い殺されるイメージが、目まぐるしく脳裏に去来する!!

「お前が……アンサラーでなくなっても尚、俺の邪魔をするというのなら…………」

「…………!」

「今、ここで消えろ」

 眼前にまで距離を詰め、立ち上がれずにいる俺を見下ろすシュウリ。

 その影が落とした表情は冷酷で——。

 淡々と、狼の頭を俺の元へと勢いよく差し向ける。

 開いた口は一瞬にして俺を暗闇で覆い——。

 その凶牙が、俺の身体へ…………。


「シュウリッ!!」

「ッ……!」


「………………⁉」

 シュウリを呼ぶ、女性の声が叫ばれた。

 瞬間、シュウリの右腕の狼は横に逸れ——。

 俺のすぐ隣の壁を床ごと喰い砕き、背後の部屋と通ずる広い壁穴と深い窪みを作り出す。

 パラパラと壁の破片の落ちる音が、大声と破砕音の後に静まり返った洋館内に響く。

「一体、何をやっているんですか⁉貴方はッ!!」

 声の正体は、戻って来たグレイだった。

 グレイは凄まじい剣幕でシュウリに詰め寄り、有無も言わさず平手打ちをかました。

 シュウリは右腕の狼を消し去り、現れたグレイに対して億劫そうな表情を浮かべながら、わざとらしい釈明をする。

「俺の理想が気に入らないと、食って掛かって来たもんだから、少しばかり脅しつけただけだ」

「今のが怪我人に放つ攻撃ですか……!私は言った筈ですよ。理想が果たされる時まで、決して人を殺めてはならないと!!」

「……分かってるさ」

 シュウリが、グレイに従っている?

 何なんだ、2人の関係は——。

「ッ…………!」

 身体の感覚が、遠退いていく。

 視界も……霞んで…………。

「ッ、クロム!」

 どうしようもなく身体が傾き、倒れた俺に……誰かが、駆け寄って抱え起こした。

 グレイか?

「…………!………………!!」

 視界がぼやけ切り、耳も遥かに遠くなって聞こえない。

 けれど、俺の身を心から案じているのは分かる。

 彼女が涙すら浮かべていることが、雫になって俺の顔に落ちてきたから。

 それ程誰かに心を遣れるのなら、どうして——。

 

 どうして、シュウリをアンサラーに……。


 その疑問を口にすることは出来ず、俺は暗い世界へと沈み込む…………。

「ごめんなさい…………」

 寸前、朧気ながら最後に聞こえたのは——。

 グレイの、悲痛な声だった。




「………………………………」

 俺はまた……知らない場所で目を覚ました。

 夕暮れの日差しに照らされた一室。

 あの洋館と違う、和風の竿縁天井が視界に映る。

 どこだ……?

「ッ…………!」

 戸襖が、開く。

「あっ、クロムさん!」

 聞き覚えのある声で俺の名前を呼び、部屋の外から現れたのは——。

 Cエリアにいる筈の、夕波アサヒさんだった。

 彼女がいるということは、ここはCエリア?

「大丈夫ですか…………?」

「あぁ、うん」

 アサヒさんは気遣わしげな表情で、俺の様子を見ていた。

 ……洋館の次は、Cエリアか。

 目を覚ます度に場所が飛んで、妙な夢でも見ているようだが——。

 未だ響く身体の苦痛が、夢じゃないことを証明している。

「皆ビックリしましたよ!いきなり、集落の入口の前で倒れてたんですから!!」

「入口の前で…………?」

「覚えてないんですか?」

 グレイが、俺をここまで運んできてくれたのか。

「とにかく、目を覚ましてくれてよかったです……あっ、喉渇いてますよね?お水持って来ますね!!」

 

「…………………………」

 アサヒさんが部屋を出て、1人……部屋に残された俺の内で——。

 静かに、シュウリの言葉の残響が木霊する。



「お前は勝負の場から落ちた。最早お前に、誰かの理想を止める資格も、自らの理想を叫ぶ資格もない……」


「……思い知らせてやるよ。お前の意志、お前の語る言葉が……どれ程無力なものかを」



 何も出来なかった。

 シュウリに対抗出来ず、ただ奴のいいようにされて……。

 奴の言葉通り、自分がいかに無力な存在なのかを痛感させられてばかりだった。

 俺には、何もない。

 ……感覚で分かる、俺の内にはアンサラーの力など、もう欠片もない。

 槍を生成出来たあの時の偶然は、2度と起こることはないと分かる程、すっかり抜け落ちてしまった。



「変わりたくなったんだ、強い自分に」



 そう心に決め、手に入れた力は……水の泡。

「…………変われなかったよ、俺」

 俺は、右腕で顔を覆い——。

 腕を微かに濡らした。

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