謎のグレイと絶望のシュウリ ②
「はい!あ~~ん!!」
「あ、あ~ん…………」
グレイによって口元に運ばれたおにぎりを食み、咀嚼する。
シンプルな塩むすびだけど、しょっぱくなくて丁度いい。
「どう?上手く出来たかな……?」
グレイは自信半分、不安も半分…………と言った表情で、そわそわしながら食べる俺を見ていた。
「…………うん。美味しいよ」
「本当!?よかったぁ!どんどん食べて元気になってね!!」
「ちょっ!待っ、んぐんぐ…………!!」
浮かれて逸るグレイに急かされ、彼女の早いあ~んのペースに巻かれながら、おにぎりを完食する。
「あのさ、色々聞きたいんだけどさ」
「うん、何でも聞いて!」
食事を終えた俺は、隣の椅子に腰掛けるグレイに改めて疑問を投げ掛けることにした。
目覚めてしばらく経つが、詳しい状況は掴めていないからな。
身体も傷で動かすことが厳しい今、彼女に聞いてみるしかない。
「俺、気を失ってから……どのくらい寝てたんだ?」
「大体一日半ぐらいだね。クロムの視点からすれば、今日はもう明後日の朝ってことになってるよ」
「そんなにか……。俺の仲間がどこにいるかって知ってる?というより、無事なのかどうか…………」
「う~ん、悪いけど知らないなぁ。私達がクロムを助けようとした時…………クロムを殺そうとしていたエルダーしか、すぐ近くにいなかったし」
「そうか…………」
瞬間移動で、無事に逃げることが出来たのか?
「アンサラーはでっかい巨人と戦っててあの場にいなかったからさ、チャンスだと思って私とシュウリでクロムを助けたんだ」
巨人、ノヴァの黒茶色の星珠から出たものか。
……どうやら撤退は、手筈通り行われたようだな。
「シュウリって、マゼンタ色のコアを付けたアンサラー?」
「あぁ、会ってたんだ。そう、彼が私のバディであるアンサラーの亡白シュウリ。少し、感じが悪い人だったでしょ?何か傷ついたことがあったのなら、ごめんね?」
「いや……目が合っただけで、特に何もなかったから、大丈夫」
感じが悪い、か…………。
まぁ確かに気のいい性格には、見えなかったが——。
「でも、何で2人は俺を?フメイに見つかって、狙われてもおかしくないのに…………」
「シュウリは乗り気じゃなかったよ。私が無理を言って協力して貰ったの」
「どうして…………?」
「……貴方に生きて欲しかったから」
「ッ!」
「ただのそれだけじゃ、駄目かな?」
大切な貴方を助けたい……そのたった1つの思いに動かされて。
俺を真っ直ぐに見詰め、俺の為だと吐露するグレイに——。
俺は一瞬、彼女の姿を重ねてしまった。
「本当、クロムが生きててくれてよかった……貴方をここまで連れてきて、目を覚ますまで…………ずっと気が気じゃなかったんだから」
「何で……そこまで俺に…………?」
「けど、これで……貴方はもう傷つかないで済む…………」
「えっ」
「ごめん!もっとお話したいけど、これから用事があるの。安静にして、ゆっくり休んでね!お昼には戻るから!!」
「おい、グレイ……!」
グレイは強引に会話を打ち切り、部屋を出ていった。
謎の8組目である彼女と亡白シュウリの正体については、聞けずじまいだ。
戻って来たら、いの一番に聞いてみよう。
果たして……答えてくれるだろうか?
痛みを堪えながら……俺は寝室を出る。
安静にしていろとグレイに言われたが、どうしてもじっとしていることは出来なかった。
亡白シュウリに直接……何者なのかを問い質したかったからだ。
部屋を後にした俺は、すぐに入っていた向かいの部屋を訪れ……軽くドアをノックした。
が、返事はない。
「いない…………?」
ドアの向こうからは何も音がない。
グレイと話してる間に、彼もどこかへ出かけたのか?
……鍵は、どうやら掛けていないらしい。
俺は若干の罪悪と恐怖で躊躇いながらも、探求心を捨て切れず、ドアを開ける。
中は……カーペットが床全体に敷かれ、本棚が端で立ち並んでいる書斎だった。
この洋館に住んでいた人が保管していた沢山の書物が、本棚に収納されている。
しかし、紙魚に喰われて一部が欠損しているものや、湿気によって曲がったり、日の光で変色していて……傷んでいるものが殆どだ。
亡白シュウリは、ここで本を読んでいたのだろうか。
部屋の中央にあるテーブルの上には、本が開けたまま裏返しの状態で放置されていた。
タイトルは…………『存在と無』
「……………………」
ここにはいないようだし、別の部屋を探さなくては。
俺は書斎を後にし、亡白シュウリの探し出す為の洋館探索を開始した。
手当たり次第だが部屋を次々と訪ね、彼がいないか確認して回る。
しかし……。
別の寝室、応接室、広間、バルコニー。
2階中を探し尽くしたが、彼の姿はどこにもない。
「1階にいる?それとも、グレイと同じように出掛けたか……?」
すぐにバルコニーから離れ、階段で1階に降りるのもいいが——。
先に、外を確かめておこう。
ここがどこなのかも、知っておきたいことだからな。
そう思って、景色を隈なく眺めてみるが…………。
森と山に囲まれていて、人里は見えなかった。
聞こえるのは風が木々を揺らす音と、鳥の鳴き声だけ。
あれ程激しい、戦いの音に包まれた環境にいたのが、嘘のような静けさだ。
無人になったのが、イレイノムの現れる前なのか後なのかは分からないが……。
ここにはきっと、静かな余生を送りたい人が住んでいたのだろう。
俺からすると、その生活は逆に難しいかもしれない。
……取り残されたような気分になって、落ち着かないからな。
「さて、1階だな…………」
吹きつける穏やかな風を背中で感じながら……俺はバルコニーを離れ、階段へ向かった。
一段一段、連続した足音を洋館に響かせながら、階段を降りて1階に。
そして2階の時と同様、部屋を回り始めたが——。
目的は、すぐに果たされる。
「ッ!?」
特に理由もなく、最初にドアを開けて入った…………降りてすぐ左に位置する部屋。
出窓が明かりのない空間に薄明かりを差し、長大なダイニングテーブルが中央を占める食堂に。
「……………………」
亡白シュウリはいた。




