謎のグレイと絶望のシュウリ ①
何もなく、地面と空……全てが真白に染まった世界で——。
俺は、1人で無数のイレイノムと戦っていた。
槍で突き刺し、斬り裂き、理気力で吞み込み……蹴散らしていく。
しかし数は一向に減らない。
ただこちらの疲れが溜まるばかりの、勝利の見えない戦いだ。
それでも、俺は槍を振るった。
命を守る為じゃない。
俺の中で欠けている何かを満たしたくて、必死に戦い続けた。
都合よく埋まる訳がないことを、半ば分かっていながら——。
「ッ……⁉」
だが、コアはそんな無意味な戦いを許さなかった。
「あ……あぁ…………!!」
粉々に砕け散って俺の胸から消失し、俺を……ただの人間へと戻した。
彼女と共にいた証すら消え失せた、孤独な存在に。
「コアを失ったことがそんなに悲しいか?」
「ッ⁉」
後ろから、声がした。
他の誰でもない、俺自身の声。
振り返ると……紺の作業服を着込んだ俺——。
ラスタと共にいた頃の俺が、俺を軽蔑した目で見詰めていた。
先程まで戦っていたイレイノムは全て、消えている。
「お前が認めたんだ。自分はアンサラーとして、相応しくないと」
「………………」
「強い自分に変わるという決意を忘れ……ラスタが消えた事実と、他アンサラーへの劣等感に苛まれた挙句…………安易な自己犠牲に走った」
「ッ……!!」
「誰かの支えがないお前なんて……所詮そんなもんなんだよ。この上ない程惨めで……情けない存在。お前を生かす為に死んだラスタも……これじゃ浮かばれないな」
「止めろッ……!!」
堪らず、難詰を終わらせるよう叫んだ。
俺は自分自身からの言葉を受け止め切れず……足の力が抜け、身体が崩れ落ちる。
過去の自分と目を合わせることすら、俺には恐ろしかった。
「クロム」
「ッ⁉」
聞き間違えなど、しようがない。
これは……ラスタの声。
ラスタが、俺の目の前に現れて声を掛けている。
「ラス——!」
すぐに顔を上げ、その姿を見る。
見ると……。
「……………………」
冷たい眼差しで俺を見下ろし、槍で俺を突こうと構えていた。
「貴方はもう、私が見てきたクロムじゃない」
「ラスタ…………」
「さようなら」
言葉を返す間もなく——。
ラスタは槍を突き出し、俺の胸を貫いた。
「ッ⁉ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
直後——。
俺は突かれた胸を抑え、上体を跳ね起こし……夢の苦痛から目を覚ました。
「ッ!ウゥ……!!」
勢いよく起きた影響で、全身に疼痛が走る。
夢の出来事と、傷の痛みで嫌な汗が滲む。
「ここは、どこだ……?」
確か俺はルナを庇って、あの場で倒れて意識を失っていた筈。
それがいつの間にか……見知らぬ洋館の寝室で眠っていた。
身体に負ってしまった傷は全て、包帯やガーゼによって応急処置を施されて。
「ケホ、ケホ……!!」
ベッドと毛布に被っていた埃が、起きたことで舞い上がり……咳を誘う。
どうやら、普段使いがされていない廃館らしい。
部屋の隅には蜘蛛の巣が張られ、窓から差す朝日が、部屋に漂う埃を照らしている。
ルナ達が、俺をここに運んで……寝かせてくれたのか?
「ッ!」
部屋の外……階下にいる誰かが、凄まじい速さの足音を鳴らして階段を上り……こっちの方へと騒々しく近づいて来る。
俺が、起きたことに気づいたのか!?
あまりの速さから、洋館に住みついている変な化け物が俺は喰らいにやって来ているのではないかと、妙な想像が働き……。
毛布を被って隠れようかと思ったが——。
「うぉッ⁉」
それを実行へと移す前に、足音は寝室の前に到達。
扉は強く開かれ、足音の正体がその姿を見せた。
「……え?」
女の子?
ミニ丈でフーシャ色と黒が組み合わさったカラードレスに、ピンクのメッシュが入った白髪のサイドテール。
華やかな銅色のオペラマスクを被って顔の右半分を覆い隠す、何とも個性的な姿の少女が……起きた俺を見て目を丸くしている。
「クロム…………!」
俺が目覚めたことを喜ばしく思ってくれているのか、彼女は俺の名前を呼び、顔をほころばせる。
……俺を、知ってる?
しかし俺に彼女と知り合った記憶は——。
「ク・ロ・ムゥゥゥ~~~~~~~~!!」
「いぃッ⁉」
あまりに嬉々たることだったのか、少女は感極まって俺に向かって思い切り走り出し、ジャンプ。
勢いのまま俺に飛びつき、俺の肩に抱きついて来た。
「痛ぇぇぇぇッ!!」
全身の傷口が、ハグの衝撃で悲鳴を上げた。
「あぁ、よかったッ!!本当によかったぁぁぁぁぁぁッ!!」
「ちょっ、頭を胸にグリグリは止めっ……痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!!」
「あっ、ごめん!つい……ケホッ、ケホッ!」
「埃が飛ん……ゲホッ!ゴホッ!!」
起きて早々、俺は初対面の少女から強烈で熱烈なハグを貰い……その相手と一緒に咳き込む、波乱のモーニングを送った。
痛みと咳、感情と咳。
互いに高まっていたものが収まった後、状況の整理を始めた。
「エルダー?」
「そう!私、エルダーのグレイ。よろしくね!!」
グラスティウスにいたか?
これだけ個性的なら、姿ぐらいは覚えていると思うんだけどな……。
「俺は神尾クロム、って……もう名前は知ってるようだったな」
「うん。貴方のことは、名前以外のこともよ~く知ってるよ!」
「……俺達、どこかで会ったことある?」
「あるよ、それはもう運命的な出会いが……!!」
「う、運命的って……どんな?」
「やだぁ!言わせないでよ恥ずかしい!!乙女にそういうことを言わせるのは駄目なんだぞぉ!」
「…………?あっ、そう言えば……看病してくれたのは、君なのか?」
「そうだよ。たっっっぷりと愛を込めてね!」
「……………………本当、ありがとう」
「どういたしまして!!」
発言の真偽はともかく、敵ではないということはよく分かった。
俺を敵のアンサラーだと考えていれば、こんな風に楽しげに会話したり、看病をしてはくれないだろう。
……俺を敵と見る必要性が、最早ないからかもしれないが。
「あっ、そうだ。看病してくれた代わりに……って言ったら、なんだけどさぁ…………」
「ん?」
「なでなで、して欲しいなぁ?」
「な……なで、なでぇ?」
「おねが~い。ほら、ひと思いに!さぁ、さぁ!!」
「……………………」
「きゃあ~~~~!!」
差し出された彼女の頭を、要求通りに撫で回すと……グレイは黄色い悲鳴を上げて歓喜する。
……この子は一体、俺をどういう風に捉えてるんだ?
「ねぇ、クロム。お腹空いてない?ご飯食べる?食べるよね?」
「あ……うん。じゃあ、お言葉に甘えて——」
「分かった!丁度ついさっき出来たものを、持って来てあげる!!待っててね!」
「あっ、ちょっと——」
グレイはすぐに部屋を出て、先程と同じように騒々しく足音を立てながら下へ降りて行った。
彼女には飯よりも、まだ聞きたいことが沢山あったのだが……。
それに、有無も言わさぬ勢いでつい朝飯を食べることになったが……OKしてよかったのか?
ルウとの一件でとんでもなく痛い目に遭ったのが、俺的にはまだトラウマなのだが——。
まぁ、俺個人にあれだけ好いた態度を取っていたのだから……大丈夫だろう。
いや……しかし…………。
心の内で拭えぬ不安が渦巻き、悶々とする。
その、最中——。
「……!」
彼女とは違う。
落ち着き払った足音が、ゆっくりと俺のいる寝室に近づいて来た。
グレイがここを出る際に、扉を閉めなかったことで……。
寝室の通り過ぎる足音の主の姿が、俺の目に映り込む。
「………………!」
その人物は、俺と同年代……いや少し年上らしき、中性的な男性だった。
細見で長身。
透明感のある肌をしていて、やや長いウルフカットの黒髪。
服装は白のルーズシャツと、紺のワイドパンツ。
そして何より特徴的なのは——。
胸で光る、マゼンタ色のドグマ・コアだった。
まさか……この人が彼女のアンサラーなのか?
「………………」
「ッ!」
アンサラーが、ベッドにいる俺に視線を向けた。
目が合い、動揺している俺を見詰め——。
「フン……」
何かを言う訳でもなく背を向け、無視するように向かいの部屋へと入って行った。
「グラスティウスに……あの人はいなかった」
あの場に集まっていたアンサラーは、俺、ルナ、アラタ、汐見ルウ、此岸リョウ、御影フメイ、フードで顔を隠した人。
最後の1人は直接出会ってないが、背格好はまるで違うし……コアの色は3原色だった。
どういうことだ?
セブンスワンは、7人で覇を競うものじゃなかったのか……?




